第3話:身分差
「あら、それは残念ね。今回の件でその叙爵は無くなったわね」
フランシスカが笑う。
「な、何でよ! 貴族にするか決めるのは王様でしょう? 貴族になるからロレンソ様の側近に決まったのよ!」
シルビアが言う。言っている事は正しい。
いくら大商会の跡取りであっても、通常平民は王子の側近にはなれない。
学園入学時には、実家が叙爵する事が決まっていたので側近になれたのだ。
「そ、そうだ! 他国にも支店のある我が商会に切られて困るのはそっちだぞ!」
シルビアに加勢されたマルティンは、蒼白だった顔に少し赤みが戻り、フランシスカを脅すような台詞を吐く。
「それは楽しみです事」
フランシスカは無表情でマルティンを一瞥してから、もう興味が無くなったとばかりに逸らした。
トマス・イダルゴは、壁まで飛ばされたファビオを回復魔法で治療していた
母方の祖父は魔法師協会会長で侯爵だが、本人は子爵家令息であり、魔法師になるにはあまり魔力量は多くない。
実は婚前交渉でトマスを身ごもった母は本来あった婚約を破棄して今の夫と結婚しており、その為に侯爵家からは勘当されていた。新年の侯爵家のパーティーに呼ばれた事すら無い。
第二王子の側近となれば将来の王太子の側近だと父に言われ、「実家の侯爵家も勘当を撤回するはず」と母親に言われていた。
「有り得ない、公爵令嬢に……」
ファビオを治療するトマスの手は震えていた。
実家は代々子爵家で、母を勘当したのは侯爵家。その勘当理由は社交界では有名で、しかも母方の祖父は魔法師協会会長である。
イダルゴ子爵家は、とても肩身が狭く、パーティー等に参加しても、まるで腫れ物に触るかのような扱いをされる事が多かった。しかしいつ侯爵家との関係が改善させるか判らないので、表立って
ここに居る誰よりも、身分の怖さを実感しているかもしれない。
ただその様な立場の彼でも一つだけ勘違いをしていた。
公爵家よりも王家が完全に上であると。
だから今回の婚約破棄宣言を止めなかった。
おそらく婚約者であるフランシスカが非を認め、婚約を継続して関係改善がされるだけだろうと。
シルビアの件は、結婚後に愛妾になる事で収束するだろうと、軽く考えていた。
下位貴族
その時点で、王太子の側近には向いていないと証明されている。
「謝ったら公爵令嬢を許して、婚約継続。シルビアを愛妾にする事を認めさせるんじゃなかったのかよ」
トマスが呟く。
「公爵家に喧嘩売ってどうするんだよ」
じわりと涙が浮かんでくる。
「コイツが公爵令嬢を引きずったりするから……」
トマスの手から放出されていた回復魔法が弱まる。魔法は精神状態に影響される事が多い。
高位貴族が下位貴族より魔法が得意なのは、魔力量のせいばかりでは無いのである。
その精神力の強さにもあった。
「……うぅ」
ファビオが呻き声をあげる。
傷は完治していないが、意識は取り戻したようだ。
「ファビオ! パディジャ公爵令嬢に謝るんだ!」
トマスは周りに聞こえないように小声で話し掛ける。
その気遣いを理解していないファビオは、眉間に皺を寄せる。
「はぁ?! 何で俺がシルビアを
確実にフランシスカにも聞こえる声量でファビオが叫んだ。
皆、舞台上のロレンソとシルビアも、舞台下の側近二人も、それらと対峙するフランシスカも、それ以外の傍観者達も、全員がトマスとファビオを見る。
トマスはジリジリとファビオから離れ、手の届かない位置まで動いたら立ち上がり、一気に走って離れた。
今更遅いのに。
「そこの愚物」
フランシスカがファビオを呼んだ。
呼ばれたファビオは、最初は自分の事だと気付かなかったが、フランシスカの視線が自分へ向いている事により、その
「な! 騎士団団長子息であり伯爵家の俺に向かって無礼だろうが!」
ファビオが顔を真っ赤にして怒鳴るが、フランシスカは冷たい視線を向ける。
「だから?
フランシスカに言われ、ファビオは更に顔を赤黒くしながらも口を
それに満足したのか、フランシスカは話を続けた。
「もし平民男性が貴方を「くん」付けで呼び、婚約者……まぁ、貴方には居ませんが居たと仮定して、その方に必要以上にベタベタと触れていたら、貴方はそれを許しますのね?」
「そんなわけあるか! 無礼打ちにするに決まっているだろうが!」
フランシスカの問いに、ファビオは脊髄反射で答える。
その答えを聞いて、フランシスカは満足そうに微笑んだ。
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