2
神殿の入り口近辺まで滑り落ちていったシンシアは、どうにか立ち上がると、ハイランダー卿の声を聞いた。
「シンシア姫、ご無事で」
頭上の星の光が消え、大きな翼がそれを遮っていることにシンシアは気がついた。
ハイランダー卿は大型自動飛行機械で火口まで飛んできたに違いなかった。
ハイランダー卿が飛び降りると、大型自動飛行機械は去って行った。
「この重力の中、立ち上がれますか。対抗呪文をあらかじめ展開させておいたのですな」
「用心、する、以外、ない、でしょう」
苦しそうにして声を絞り出しながら、シンシアは自分の手の甲のルビーを確認する。エッジがプレゼントしてくれたグローブは装備済みだ。あとは自分のトリックに引っかかってくれるかどうかが全てになる。シンシアはほくそ笑む。
「しかしこれは5人の高位魔道士を使った魔法装置で発動させた特別強力な、特別広範囲に調整した重圧魔法だ。普通の対抗呪文では――動けないだろう」
「――目的は、
「命までは奪いはしない。私もかつては『女神の永遠の騎士』だった。自分の女神ではないとは言え、女神。命を奪うのは心が痛む。それ故」
ハイランダー卿の口から聞けば、思うところはある。エッジとハイランダー卿は似ている。エッジが年齢を重ねればハイランダー卿のような外見になるのではないかと思わせる共通点が確かにある。輪郭や顔立ちはそのものと言っても過言ではない。
「
「もう、お話ししたと思う。私は
そしてゆっくりと左の籠手を――
「奪え、
シンシアは左腕を突き出し、なめし革のグローブの甲からルビーの輝きが一直線に放たれていることを確認する。その光は
「
2つの黄金の輝きは衝突し、
シンシアは息を整えながら、種明かしをする。
「
それに加えてエッジのプレゼントが役に立った。
「一度ならず二度までも引っかかるとは! だから
ハイランダー卿は飛び退き、次の刹那、その場に太い光の帯が差し、神殿の基壇に大きな穴を穿った。その光の帯はそのまま火口全体を照らし出しながら、その縁をぐるりと一周し、魔法装置の先端部分を破壊した。それと同時に厚い霧も晴れてしまうほどの超高圧縮エネルギー照射だ。
光の帯が消えると同時に超重圧状態が消える。
『姫、お待たせしました』
もう耳慣れた
「
「がらんどうの外神が! コントロールを奪ってやる!」
『それは不可能です、『呪われし者』。今のマスターは正当な『女神の永遠の騎士』ですから』
「それはどうかな」
「私がそうさせない!」
会話の内容的に、ハイランダー卿にも
蒸気式回転連発銃の銃弾のように無数の魔法弾がハイランダー卿を襲う。
もうシンシアの魔法力は底を尽きそうだった。
「姫! 無事で!」
エッジの声が遠くから聞こえた。シンシアは安堵してしまい、その場にへたり込み、
「プレゼントが役に立った~」
到着したエッジはシンシアの前にしゃがみ込み、彼女と目を合わせた。
「あの超重圧の中で
「事前に発動していたから。火口に転がり落ちても無傷だよ」
シンシアは心配そうに顔をのぞき込むエッジを安心させようと笑顔を作る。
「いつの間に。気がつかなかった」
エッジもつられたのか笑顔になる。光学迷彩機能でエッジも騙せたのが少しイタズラっぽくシンシアには思えて、嬉しい。
「いつなのかは内緒」
エッジは感極まったようにシンシアを力一杯抱きしめる。
「痛いよ」
エッジが腕の力を緩めた代わりに、シンシアもエッジの背に手を回し、2人は互いの無事を祝って抱き合った。
「間に合うって信じてた」
「
『お褒めいただき恐縮ですが、まだ終わっていませんし、私の残りエネルギー
2人は抱擁を解き、立ち上がる。
「ハイランダー卿は?」
「神殿の中に。
「役に立ったんだ。本当に良かった。中には罠があるのは分かっているが、そういうことならここで畳み掛ける。
『
エッジと
長い間、海に沈んでいたはずなのに、堆積物が皆無なのは人が手を入れた証拠だ。何かが待ち受けていることもシンシアの関知魔法で分かっている。
シンシアは残りの手持ちのカードをしかと考えながら、闇の中に身を沈めた。
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