6
領地外屋敷に戻るとシンシアはすぐに研究室に籠もり、コウモリ1・5号からデータを抜き出した。シンシアはテーブルの上に資料を並べると、エッジを呼んだ。
「第2回作戦会議~♪」
「姫、楽しそうだね」
テーブルの上には召喚術士と思われる男と結界師と思われる男の画像がプリントされた紙が置かれている。プリントといっても印刷ではない。コウモリ1・5号から抜いたデータを自動描画機械を使ってペン書きされたものだ。十分実用に足る似顔絵になっている。
「魔道士協会に問い合わせたところ、2人とも『星々の真理派』という派閥に所属する混沌の魔道士でした」
「星々の真理派って、混沌の過激派だったりする?」
「ううん。どちらかというと実用主義派で、各財閥に食い込んでいる経済優先的な感じ」
それを聞いてエッジはうーんとうなった。
「コウモリ1・5号くんの生みの親の秩序の魔道士は『新機械教団派』といって、秩序の機械で産業革命を起こそうという経済優先団体で、工業会を中心に指示されているって報告にあった」
シンシアとエッジは苦い顔をしてお互いを見合った。シンシアは言った。
「きな臭いね」
「これは
「間違いなく大人の世界のドロドロした経済戦争だよ。過激派が混沌の神々に最終階位魔法習得者の私を捧げ物にするために狙っているとかの方がまだ、ドンパチすればいいだけだから解決しやすいよ」
「どうして姫が狙われたんだろう。僕らの推測を再考する必要があるね」
「今回の襲撃で私たちの戦闘力はある程度見せられたから、しばらくは襲ってこないと思うな~」
「採算が合わないから?」
「他に目的を達成する手段があるのかもしれない。ほら、複数の魔道士が行方不明になっているって騎士団が言っていたって話がそうなんじゃないかな」
「うーん。調査は続行だね。とりあえず僕らが直接動くのはここまでだ」
エッジは資料の紙をまとめた。
「これからどうするの?」
「各派閥のバックについている組織を調べて、何をやろうとしているのか探る。最終的にはイヤな展開になると思うんだな」
エッジは苦い顔をした。
「例の、新しくできた島のこと?」
「つながっているとしても目的はわからないけど。単に領有権争いなのかそれ以外に何かあるのか、関係が全くないのかもしれないし」
「わかった。私も深追いはしない。あなたと一緒に行動するの、楽しかったんだけどな」
シンシアは心底残念な気持ちになった。これからも大冒険が続くんだ、と勝手に思ってしまっていた自分がいた。
エッジはいろいろな表情をした後、頬をつねり、真顔を作ってから言った。
「これから伯爵にお目通しをお願いしようと思うんだ」
「え、どんな?」
「姫を僕の領地に連れて行く許可を貰おうと思って」
シンシアは数秒考えた後、声をあげた。
「え? 早い。早すぎない? それって! 私たちまだ出会って1日だよ!」
「僕の屋敷はここのお屋敷よりだいぶ小さいけど住むのに不足はない。住んでいる人が少ないから刺客がきてもわかりやすいから、姫を守りやすいと思うんだ。ここから馬車で1日かからないくらいだから、もし姫が研究設備を移したいって思ってもそんなに難しくない。普通の引っ越しで済むよ。一緒においしいものを食べよう」
シンシアは考え込む。この高揚した気持ちが続く限り、エッジの側にいたい気がする。しかし展開が早すぎるのも間違いない。理性的な選択ではありえない。だけど気持ちに正直になるべきだと心の声がした。それが自然だ、と心の声が言うのだ。
「うん。わかった。直感を信じる。あなたの屋敷に行く」
「嬉しい」
エッジは心の底から言葉の通り、嬉しそうな顔をした。
「お嫁に行くわけじゃないのよ。緊急避難なんだから」
「それでも嬉しい」
エッジは何度も頷く。
その笑顔を見て、シンシアは思う。
この1日だけの彼しか知らないなんてことは絶対にない。
彼が自分にプロポーズする理由も、自分がこんなに彼に惹かれ、昔からの知り合いのように自然に接することができる理由も、根底では同じなのではないかと思う。
それが何かは分からない。分からないが、わからないまま彼から離れ、1人で死ぬのは嫌だと思う。
エッジが好きだな――とシンシアは心の底からしみじみ感じるのだった。
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