最終部 第5章 惨劇

「もう辞めよう。私は君の率直さと行動力には正直憧れていた。でも、これはいけない。これでは君達クメンが大切にしていた世界が滅びてしまう。もう少し話し合いを私自身が君として、いろいろと考えるべきだった」


 皇帝はそう女神を見て、少し悲しそうにした。


「それが駄目なのです! 全ては皇帝の優柔不断さが原因ですぞ! 」


 皇弟が騒いだ。


「それを同じように言っている皇族達も、皆お前に追随して発言しているだけだ。一人一人と話したら違う答えも出て来た。お前が仕切る政治の仕切りが結局、女神になったクメンの彼女を暴走させて、この結果になった」


「それは違う! 全ては彼女の暴走だ! 二人に分けただけでは足りなかったのだ! それらを経ても策略をめぐらしてここまでしてしまった。恐ろしい悪魔だ」


「お前の器量の小ささが、その優秀な策略家の彼女を追い詰めて敵に回してしまったとは思わないのか? このままではクオ……クルトルバは次の進化の段階に行けない」


「まずは掟を守ることが優先です。その考え方こそ危険だ。強すぎる者同士の子供は危険すぎるのはご存知のはず」


「もう少しいろいろと受け入れて変えていく器量が無ければ、クルトルバの世界は新しい次元に行きませんよ。いつまでもよその生命体の中に入り込み、寄生生命体みたいな生活をしろと言うのですか? 」


 とうとう志人兄がそれに参戦した。


 どうやら、そういう意味では志人兄は皇帝と同意見らしい。


「黙れっ! 皇帝の施政に口を出すな! まして掟では無いか! 法こそ最上位にあるべきだ! 」


 皇弟は考えを曲げなかった。


 いやいや、平行線じゃね? 


 これだと。


 それで向こうを見ると、相変わらず完全につぶし合いになったバーサーカー化した大翔兄と皇弟の側近達の戦いは続いていた。


 止まる気配もない。


 これだけ仲間も洗脳されていて、掟だの何だのと恥ずかしげもなく良く言える。


「その通りだ」


 また、私の心を読んだのか魔法使いの爺さんが相槌を打った。


「なんだ、また、何かあるのか? 」


 皇弟がそう魔法使いの爺さんを睨む。


「これだけの事を何一つまともに対応できずにした以上、皇弟も同罪だと言う事だ。側近達を全部洗脳されてしまうとかどのように考えておられるのか? 」


 などと魔法使いの爺さんが馬鹿だから私の考えを説明してしまう。


「なんだと! 貴様ぁぁぁ! 」


 皇弟が魔法使いの爺さんの胸倉を掴んだ。


「いや、考えているのはこの人だから」


 などとビビったのか、こっちに振ってきた。


「ふざけんなよ! 」


 私もブチ切れる。


「心を閉じなさい。蓋を閉めるように考えたらいいの。それで心は読まれなくなるわ……」


 女神がそう教えてくれたので、それで慌ててそれをした。


 魔法使いの爺さんが心が読めなくなったらしくて、私を驚いてみた。


 だが、そっちよりも、皇弟の方だろう。


「やはりな! 分離してもクメンの悪魔は悪魔だと言う事だ! 貴様も同じように処刑してくれる! 」


 皇弟がそういうと、皇帝のヒガバリの一人の剣を奪って抜いた。


 ただ、それは皇弟にとって思わずやってしまった行為なのか、それとも違うのか、ヒガバリの剣を抜いてしまった自分に一瞬だが顔に怯えと驚きが見えた。


 激高した上に何をやってんだかと私はそれを見て唖然とした。


「皇弟殿、皇帝の前で命令無しで剣を抜くのは掟に反していて処刑されてもおかしくないことですよ」


 そう皇帝陛下のヒガバリの数名が叫ぶ。

 

 その時、信じられないことが起こった。


 皇帝が剣を抜いた皇弟から私を庇うように私の前に出たのだ。

 

 それで、皇弟も驚くより、自分の行動に対して皇帝がそう動いたのが信じられなかったのか逆に怒りの表情をした。


 それで皇弟は剣を突き刺しに来た。


 皇帝ごと私を突く気らしい。


 ただ、一瞬だけ皇弟の顔を見ると何故こんな事をしているんだと戸惑っているように見えた。


 いや、自分の行動だろ? 

 

 と突っこみたくなったが……。


 その突いてきた剣をなんと女神が身体で皇帝を守るために受けた。


 女神は皇弟に抱き着くようにして、さらに皇帝にその剣が刺さるのを防いだ。


 だが、剣は女神の心臓を貫いた。


 それで女神の心臓から飛び散った血が皇帝と私にかかる。


「な、何で? 何でだぁぁぁ? 」


 皇弟が絶叫した。


 自分でした行動なのに、何を叫んでいるんだと一瞬、私は疑問には思ったが……。


 その瞬間に颯真が動く。


 忘却の剣で皇弟を両断した。


 皇弟が衝撃を受けた顔のまま、そこに倒れていった。


 だが、皇帝が抱きかかえて助けようとしたのは自分を庇ってくれた女神だった。


 女神は血を吐きながら皇帝に優しい顔を向けた。


「なぜだ! 」


 皇帝が叫ぶ。


「愛してますから」


 女神は優しくそう笑った。


「ええええと、回復(ヒール)を! 回復(ヒール)! 回復(ヒール)! 」


 私が叫び続けている。


「……ヒガバリの剣はクルトルバを斬った時にあらゆる回復魔法を受け入れず治らないようになっている」


「もう、助からない」


 そう皇帝の近衛のヒガバリ達がそう話す。


「すまない! もっと話し合っていたら! 」


 女神を抱きしめながら、皇帝が絶叫した。


 その向こうで誰にも顧みられずに真っ二つにされた皇弟は小鬼に食われ続けていたが……。


 

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