最終部 第4章 皇帝が
「皆、ありがとう。もう一人の私が集めた仲間がこんなに素晴らしいと思わなかった」
そう女神が話す。
いや、集めた覚えは無いけどな。
などと突っ込みたくなったが、純粋に女神の為に怒っている皆を見て、自分も同じように思った。
「悪いようにはしないから、もう辞めなさい」
志人兄がそう説得を続けてていた。
「残念だけど、そこの皇弟は私を許さないわ。そして、皇族達も同じでしょう。ここまで洗脳を使用して、ヒガバリを自分の配下にして、それで世界を混乱に導いた。戦いを辞めたとしても極刑は免れない」
女神がそれに答えた。
「当たり前だ。分離したはずの片方だけで、ここまでしたのだ。こんな恐ろしいものを置いておけるはずがない。お前がどんなに反省しようが許すはずがない」
などと皇弟が宣う。
「馬鹿じゃね? 」
私が初めて、そう発言した。
それに面食らったような顔を皇弟がした。
「まさか、分離したはずの善意の方まで、あの女神と同意見なのか? それならば救いが無いな」
それで殺意満面で皇弟は私を睨み据えた。
「いや、どう見たって、今の情勢でこの場は勝ちようが無いんだけど」
私がはっきりと言う。
だって、向こうは颯真ほどではないにしろ、ヒガバリが百人もいるのだ。
皇弟の側近は洗脳されてコントロール効かないし、大翔兄も狂ったままだ。
そして、中村警部補が凄腕でゾンビとはいえ、拳銃が三人分で百名の屈強な異世界の戦士であるヒガバリ達に勝てるわけがない。
ここは嘘でも許すと言う場面だろうに。
「戦って勝てると思っているのか? 颯真だって、あのクラスなら二名同時がやっとだろう。それだけの手練れだぞ。あのヒガバリ達は」
私の突っ込みで初めて、自分の状況を理解したらしい。
皇弟が青くなった。
馬鹿すぎる。
勝てる戦いでは無いのだ。
志人兄が女神を反省させて、武器を降ろさせて休戦させて、その後で抵抗が出来なくしてから動くべきなのに、この馬鹿さ。
こいつが無能だから、女神がのさばったのではないのか?
私が激しく思った。
「わしもそう思う」
またいつものように勝手に私の考えを読んだ魔法使いの爺さんが横で頷いた。
この私の心を読まれるのは何とかならんのかな。
「何が思うのだ」
「あんたがちゃんと仕切らないから、結果としてこんな事になった。勝てない状況でわざわざ言う話で無い事を言って、終わりそうだった結果を駄目にしてしまった。殺されてしまったら我々の戦いは意味がなくなる。掟を言うのも結構だが、現状の双方の力の差を良く理解するべきだと言う日葵の意見に同意したのだ」
魔法使いの爺さんが珍しくズバリと言い切った。
「はああああ? クタマ使い如きが皇帝の弟たる私に言うのかっ! 」
「いや、言うだろ。そもそも、もっとちゃんとした着地点があったんじゃないのか? あんたは話し合いをこちらにしてきた時も、こちらと戦うような前提の話しかしてこなかった。戦わないという選択の無い話し合いに意味なんかない」
私が横でさらに駄目だしをした。
志人兄が横で頭を抱えていた。
私が言いすぎていると思ったのだろうが、それは違う。
完全に状況は負け戦なのだ。
それで説得して話を通そうとしているのに、こんな馬鹿が近くに居たら説得も無理だ。
「私は行きつくとこまで行くしかない。それしか無いのだ。私だって平和的に話を進めたかった。だが、皇族とそれを仕切るお前が全部を駄目にした。あちらの世界に迷惑をかける気は無かったのに、皇弟は颯真が私の側にいるのを恐れて転移させて、さらに剣聖アウロスと魔王を使って排除しようとした。お前は奇麗ごとを抜かすのは良いが、それによって両方の世界にどれほどの被害が出たと言うのだ。それを考えたことはないのか? 」
女神がそうきっぱりと皇弟に言い切る。
颯真を転移させたのは女神で無かったのか?
颯真を導くものって騒いでたが、そういう風に転移させて、転移させた後に自分の配下にする気だったのかもしれない。
「お前が抵抗するからだろう? 世界がどうだの関係あるものか。一番大切なのはクルトルバとクオの事だ。我らの命を育むだけの人間と言う家畜達に何の意味がある」
皇弟の本音が出た。
「勿論、クオの掟は大事だ。だが、それは全ての世界の安寧とあらゆる生物の生命を犠牲にしてまで大切にするものではない」
「馬鹿な事を……。だから、クオの中でお前らクメンは異端だと言うのだ。人間だって家畜を殺して食べるだろうに、問題が起きた時は家畜を処分することもある。だが、それは罪なのか? 違うだろ? 」
志人兄がそう注意するが、それは皇弟にあっさりはねのけられる。
ここまで馬鹿だと言うのか。
酷すぎる。
ここでこんな意見を言ったら、私達も皇弟の味方を出来なくなる。
決定的な状況で最悪をやると言うのは皇弟にも言えるのでは無いか?
「お前は言いすぎだ。お前も間違っている」
誰かがそう話す。
その時に転移して来たものがいた。
転移して来た者もヒガバリの戦士を200名ほど連れている。
皇帝が来たのだ。
その姿を見た時に私は女神が皇帝を本気で好きなのが分かった。
そして、私もまた、なぜ、中学生の時に、あの先輩を性格も考えずに好きになったのかが分かった。
金髪碧眼であるが、その美しい皇帝は私が好きだった先輩に似ていた。
私にもまた皇帝への気持ちがあり、それが心の奥底に燻っていて、その結果、あの先輩に対しての意味不明の恋愛感情になっていたのだ。
それが私のあの奇妙な恋愛の真実だったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます