最終部 第3章 志人兄
ヒガバリの全員がジリジリとこちらへの包囲網を縮めてくる。
流石に数が多い。
颯真とカタストロフィさんは相手が手練れ過ぎるので、先行してヒガバリ達に斬り込むのは辞めているようだ。
こういう場合に一部が突出すると相手に攻め込まれやすくなる。
数が違いすぎるのだ。
ヒガバリの数人が剣を一気に振りかぶった瞬間に銃声がする。
志人兄と皇帝の間で決められた約束で使用されなかった銃器だ。
まあ、剣聖アウロスは使用していたが……。
そちらを見ると、ゾンビになった中村警部補と佐々木警部補と海老原巡査長がいた。
そして、住職になっちゃった志人兄もいた。
拳銃で振り上げた剣が破壊される。
中村警部補達は拳銃も上手かった。
「もう、辞めるんだ。日葵」
いきなり志人兄がそう話す。
「え? 」
私が驚いて志人兄に聞き直す。
「ああ、いや、すまん。女神である妹よ」
そう慌てて志人兄が言い直した。
ぶっちゃけ、私の名前を言うと言う事は、最初から女神と私が同じ人物を二つに分けたものだと知っていたのだろう。
何という茶番。
「裏切り者め」
女神がギリリと歯を食いしばる。
その表情が怖い。
自分が年を食ったらああなるのかと思うと、もっと怖かった。
いやいや、シャレになんないな。
「もう、皇帝は諦めるんだ。たとえ、お前のそれが純愛であったとしても」
そう志人兄が静かに呟いた。
「は? なんですと? 」
私が驚いた。
純愛だと?
このゲジゲジの方がマシとまで言われた私がか……。
衝撃のあまり固まった。
そして、女神の辛そうな顔を見て、余計に驚く。
どうやら、本当だったらしい。
「純愛だと? 」
「マジですか? 」
などと優斗と一真がさわさわするのが凄くイラつく。
「皇帝はクオの中で決まった女性と結婚するようになっている。お前では無い。クメンは今回の順番から外れているのだ」
などと皇弟がそう宣う。
「えええええ? 本当に愛した人と結ばれたら良いじゃないですか? 」
などと突然に倉吉先輩が参戦した。
「決まりは決まりだ。皇帝となればそういう自由恋愛は無理なのだ。たとえ嫌いでも順番通りの相手と結婚しないといけない。それは厳然としたルールなのだ」
「いや、それはおかしい。そりゃ、皇帝が嫌ってるなら仕方ないけど……」
倉吉先輩が引かない。
どうやら、本当に女神は皇帝が好きならしくて、一瞬肩を震わせた。
「お前に言おうかどうか迷っていたが、心配するな。皇帝はお前にちゃんと好意を持っていたよ。お前がそれに気が付いていたように」
そう志人兄が話す。
少し、無念そうだ。
それで微かだが、女神の顔が少しだけパッとなったような感じがあった。
余程、好きならしい。
「そうだとしても、クオには掟がある。当代の最強が皇帝に選ばれて、それに匹敵する最強のお前は結婚することはできない。巨大すぎる力の持ち主と巨大すぎる力の持ち主が結婚して、この世界が歪むような子供が産まれてはいけないのだ。その為の掟だ。お前には残念だが叶わぬ夢なのだ」
などと皇弟が言い切る。
「ふさげんなぁ! 」
わたしもムッとしたが、倉吉先輩がブチ切れた。
「それは酷いと思うぞ? 」
「それで好きでもない相手と結婚しろって言うのか? 」
優斗と一真まで突っ込んだ。
皆が何故か女神に同情していた。
私は少し狼狽していたが。
まさか、そんな風に人を好きになる事があるとは思わなかった。
まあ、過去に先輩の一件があるにしてもだ。
あの時は私も熱くなっていたが、今に考えると人をゲジゲジのがマシとか言い切るやつのどこが良かったのかわからないが……。
「それが皇帝たる役目で決まりなのだ。我々の力を見ただろう。この世界もお前達のいる世界も無茶苦茶になってしまった。それを考えればそういう掟が出来て、自らを律して生きるのは当たり前だ。そもそも、こやつは恋などで暴走して、結果として世界を滅茶苦茶にした。そんな奴が皇帝の妃だと? あり得ないわ! 」
「純愛じゃないっ! だからこそ、彼女はそこまでしても皇帝と結ばれたかったんじゃないの? 恋ってそんなものじゃないの? 」
倉吉先輩が食い下がる。
「掟は掟なのだ。決まりは崩せない」
そう皇弟は駄目を押すように答えた。
「その辺りは養子縁組とか使って何とかならなかったんですか? 」
一真が志人兄に聞いた。
こいつも性格が良いなぁ。
「そういうのが私達の世界では昔はあったと聞きますが」
優斗も志人兄に話す。
「力を強大にした子孫を産まないため。世界に影響を及ぼさないための掟なんだ」
そう志人兄が悲しそうに話す。
「その通りだ。クオはあらゆる生命体のトップに君臨するだけの力を持つ。身に余る力は危険なのだ」
「では、子供を作らなければいいのでは? 」
皇弟の身も蓋もない話に倉吉先輩がさらに食い下がる。
「過去にそうやってして、結局子供が出来て、とんでもない事になった事があるのだ。だからこそ、種としての進化を目指していても、危険すぎると掟として結婚できないようになっている」
皇弟の言葉は冷徹なままだった。
「皆、ありがとう」
初めて会った時のように邪悪さが消えて、皆に女神が頭を下げた。
それはひょっとしたら素の女神なのかもしれない。
皆が応援するので、私も同じように皆に頭を下げそうになっていた。
私は仲間に恵まれているのかもしれない。
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