最終部 第1章 洗脳を
「よせ! 奴はお前が兄の洗脳を解く瞬間を待っている! 力を使っている時が一番無防備で侵入しやすいのだ! 」
皇弟が叫ぶ。
「うるさい! あんなのでも私の兄だ! 死なせるもんか! 」
私が叫びながら、大翔兄の方に向かう。
「く、糞っ! 」
皇弟が呻く。
側近達を連れていなくて私を止めるものがいないようだ。
「待て! 日葵っ! 」
優斗が弓を持ってこちらに駆けて来た。
それで私のまわりに皇弟の兵士が襲い掛かってくるのを射殺してくれた。
「とにかく、戦いを止めてくれ! もはや、敵は女神なんだろ? 」
一真が皇弟に叫ぶ。
「そうだ。戦いを止めるべきだ! 」
魔法使いの爺さんが叫ぶ。
「それが……奴の洗脳を甘く見過ぎたのだ。すでにそちらの兄の方は普通では止まるまい。まして、周りの冒険者のバーサーカーになっている。簡単にはいかない」
「しかし、それでも止めないと、無駄な死者が出るし、こちらも止めれないし」
「実は……さらに申し訳ない話なのだが、私の側近も奴の洗脳を受けていたらしくて、戦い始めたら止まらなくなっているのだ! おかげで側近が勝手に動いているし! 」
などと皇弟が叫ぶ。
「そっちもかい! 」
皇弟の指さした方を見ると、大翔兄に率いられたロートル冒険者みたいに狂ったように戦っている皇弟の部下達がちょうど真正面から大翔兄の率いる部隊と狂ったようにぶつかり合っていた。
そのうちの数人は確かに前の襲撃でも見た奴らだった。
それが大翔兄のように狂った突撃をしていた。
「颯真っ! 戦いを止めろ! 皇弟とは休戦だ! 」
優斗が矢を射ながら叫んだ。
「それは、無理だぞ? 」
などと颯真が叫び返した。
「何で! 」
「このカタストロフィのおっさんは一旦戦い始めたら止まらんのだ! 」
「何でやぁぁぁ! 」
「当たり前だ! これは最強の勇者を決める戦いだからなっ! 」
などとおっさんのカタストロフィさんが叫ぶ。
酔ってらっしゃる。
全く戦うのを辞める気が無いようだ。
おっさんで厨二とか……。
「くっ! どこまでこの男を信じて良いのかわからんから、わしも颯真の為に倉吉さんを守っているので、ここは離れられん! 」
魔法使いの爺さんがそう呻く。
倉吉先輩がそれで済まなさそうな顔をした。
「良い! 仕方あるまい。今回の事は私の責任でもある! まだ、あの善なる方は洗脳のコントロールを受けていないのが分かった! だから私があの善なる方を守る! 」
皇弟が言うとこちらに向かって走って来る。
「これだと、最初から話し合えば良かったのでは? 」
私がそれで皇弟に叫んだ。
「誰が洗脳されているのかわからんのだ! お前の兄が洗脳されていたように! 皇帝である兄ですら正直、どこまで洗脳が入り込んでいるか分からん! 解いたはずだが、まだおかしい時がある! だから、私が独走して戦うしかなかった! あの女神にとっては全ては自分の為の道具だ! だからこそ何でもできる! あれはそういう奴なのだ! 」
「嫌な半身だな」
私がその皇弟の苦悩の叫びを聞いて呟いた。
「そう言えるだけ、お前はまともな善である方だと言う事だ」
そう言われるとそうなのかなと思ってしまう。
大翔兄を利用するのはあっても、あんな自滅モードで殺してまで利用する気は私にはない。
そもそも根本の考え方が違うように思える。
それで私が大翔兄に声が届くあたりに着くと叫んだ。
思いっきりだ!
「大翔兄っ! 辞めろっ! 操られているようだぞ! あの糞女神は大翔兄を洗脳していたらしい! あんな糞野郎に洗脳されて自分で恥ずかしいと思わないのかっ! 」
「え? そんな説得みたいな洗脳の解除? 」
「私が能力で洗脳を解くと女神の奴が私に侵入しやすくなると言ったでは無いかっ! ならば、大翔兄に糞嫌な女神に対する感情を起こさせて、大翔兄が目覚めるようにするしか無かろう! 」
「ううむ、そんなものなのか? 私は洗脳の権能は持たないので良くわからんのだが……」
自信が無さそうに皇弟が呟いた。
「大翔兄! あんな奴に良いようにされて辛くないのかっ! 」
そう私が渾身の力を込めて叫んだ。
そうしたら、大翔兄がぎぎっとこちらを向いた。
どうやら、抵抗しているようだ。
「た……のむ……力を……貸して……くれ……俺ひとりでは……」
そう精気の無い感じで大翔兄が呟いた。
「良し! やむを得ない! 私がお前を守るから、洗脳を解いてみろ! 」
「どうやって? 」
「懺悔とかやってたんじゃないのか? 能力の基本は強く強く念じるように思うだけだ」
皇弟の説明で納得したが、何かが引っかかった。
大翔兄は意地っ張りである。
意地っ張りでどうしょうも無い男が、私にこんな弱弱しく頼む奴だったか?
などと思う。
さては……。
そう思いながら、懺悔の時に使ったみたいに祈るようにして構えた。
「洗脳を……」
そう呟いた瞬間に奴が転移して来た。
あの糞女神である。
「ふふふふっ! 計画通りっ! 」
などと背後で女神がほほ笑んだ瞬間に回し蹴りの要領で投げ出すように踵を糞女神の顎に食らわせた。
「やはり! これも洗脳かっ! 」
私が顎に踵を食らって吹っ飛んだ女神に仁王立ちで叫ぶ。
たった一つだけ、女神に勝てるものがある。
志人兄と大翔兄に巻き込まれて習った空手であった。
私も良く続いたと思うが、私の性格からして空手とか武道は習っていたのが奇跡のようなものだし。
もともと他人を操って、自分は面倒くさい事はしてないで何もしないと言うのは私にも非常に良く分かる心理だ。
だからこそ、この糞女神は武道を習っていないはずなのだ。
横でその私の回し蹴りを見て、皇弟が凄い顔してた。
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