第24部 第8章 使い捨て

「大事な大事な話なんだ。あの女神こそ、全ての問題の根本だ」


 そう皇弟が繰り返す。


 あまりに必死な声に無視できなくなって、皆がそちらを見た。


 側近も連れずに阻止するために来たようで、本気で一人だった。


「悪いんだけど、それが本当だと言う保証がない。あの女神が糞なのは分かるが、さっきの話だと皇帝と結婚しようとしたらしいが、王族間ではごく普通の事では無いか? 皇帝の外戚が政治を牛耳るなんてよくある話だし、皇后の方が実権をってのも良くある話だと思うが? 」


「その話がクルトルバの中のクオの決まりの横紙破りだったとしてもか? 兄の様子がおかしかったから、探ってみたら女神に会うたびに熱に浮かされたように結婚すると言うようになって……」


「恋愛とはそういうものでは? 」


「調べてみると接触してきた時に明らかに洗脳をかけていたのだ。兄は謹厳実直を旨としている歴代の皇帝でも屈指の生真面目で、別に皇后として決まった御方がいるのに、そんないきなり、そんな事を皆に言うはずがない。奴は皇帝に話し合いと見せて心をコントロールしようとしていた」


「恋愛とはそういうものでは? 相手が好きだけども、当時はまだ中学二年生だけにそう言うのが良くわからずに、先輩が話に向き合ってくれ無さそうだから、鳩尾に中段突きを放って逃げれないようにして説得するとかしてしまう。人と言うものは好きになるとそこまでしてしまうものでは無いか? 」


「いやいや、何の話? 」


「中学二年生とかって、え? さっきの話? ゲジゲジと結婚する方がマシとかいう……そんな事をしたんだ……それは……ちょっと……」


 優斗と倉吉先輩が突っ込んでくる。


 察しが良すぎるのも困ったものだ。


「いや、洗脳は駄目だろ? というかお前の話は脅迫じゃないのか? 」


「いや、私の話は置いといて、恋とは洗脳みたいなものでは無いのか? 」


「いや、ちょっと認識がおかしい」


「良く言うでは無いか。彼氏ができた途端に性格が変わるとか」


「それは洗脳なのか? 」


 私と皇弟の言い合いに優斗が横から参加してきた。


「性格が変わるんだから似たようなものだろう」


「つまり、お前は女神のやり方を肯定するのか? 」


「いや、他人を平気で操る女神は大嫌いだ」


「ええ? 」


「お前が言うの? 」


 などと優斗と一真が驚いているのが納得いかない。


「良くわからないが、一応言っておくが、お前は女神から離脱した善の部分だからな」


 などと皇弟が良く変わらないことを言う。


「善? 」


「どこが? 」


 逆に私より優斗とか一真が本気で喰いついていた。


「いや、誰しも心に善と悪を持つ。それは神である我らも同じだ。だから、女神を弱体化するためにクオのクメン以外の全ての話し合いで、女神を二つに分けて転生させたのだ」


「は? どういう事? 」


 流石にあまりの展開に私が突っ込んだ。


「それほど異常なまでに強い力を持っていたのだ。前のお前は……」


「いや、それはどうなんだ? 」


「善なのか? これ? 」


 優斗が変なとこに食い下がる。


 失礼な奴だ。


「そう言う話を聞くと私も流石に笑えないんだが……。無理矢理分離とか、やることが糞女神とあまり変わらないぞ? 何をしているんだ? 」


「それしか方法が無かったのだ。その為にクオの秘法をクオのトップのものが集まって行ったから間違いない。昔からまれに出てくる怪物のようなコントロールできないものはそうやって弱体化させていたのだ。だから、あの女神が邪悪である以上、こちらの女神は善であるのは間違いない」


 そう皇弟が断言した。


「え? 」


「いや、あの女神は糞は糞だと思うが、こっちもどうかなぁ……」


 優斗とか魔法使いの爺さんとかしっこく、私が善だと言うのが納得いかないらしくて愚痴っていた。


「だが、こちらは少なくとも兄を洗脳して自分の駒にしたりすまい」


 それが皇弟の一言で黙った。


 確かに今の大翔兄は狂ってた。


 自分のブーストの力を狂ったように放出して、冒険者達がそれを受けて戦い続けていた。


 もう狂騒的でどれほどそれが馬鹿らしいかと言うと、倒さなければいけない敵は私達の目の前にいる皇弟であり、あそこにいるのはただの皇弟配下の兵士なだけである。


 攻める場所すらわからず闇雲に大翔兄達は突撃を繰り返しているのだ。


 いやいや、ヤバすぎだな。


「あれも使い捨てだ。ああやって、兄は力を使い果たしたら命も終わる」


 そう皇弟が呟いた。


「はああああ? 」


 あまりの話に驚く。


「死ぬのか? あれ? 」


「ええ? 」


 優斗や一真や魔法使いの爺さんまで驚いた。


「当たり前だ。いくらクオの中のクオのクメンと言えど力は有限だ。だから、お前の一番上の兄と皇帝が連携して対策をしていたのに」


「はああああ? 」


 さらなるぶっちゃけ話に私が驚く。


 それで志人兄は皇帝と約束があるとか意味不明な事を言っていたのか。


「最初からグルだったのか? 」


 魔法柄の爺さんが驚いて聞いた。


「当たり前だ。そうやって全てのクオが協力するくらい、あの女神がヤバいのだ」


「じゃあ、大翔兄が死ぬと言うのは本当か? 」


 私が震える。


 志人兄が亡くなった時を思い出す。


 今は生きているけれども、あの時の喪失感と憎悪はこびりつくようにまだ残っている。


「止めないと……」


 私がそう呟くと慌てて、無意識だったのだが兄の方に走っていく。


 まさか、そんな話になっているなんて。


 あんな糞でも私の兄なのだ。


 そんなもの犠牲に出来るはずがない。


「ま、待て! 下手に動くなっ! 」


 そう皇弟が叫ぶが私は無視した。


 必死に狂ったように指揮を続けている大翔兄に向かった。


 大翔兄すら使い捨てにする糞女神に怒りを感じていた。


 自分の兄では無いかと。

 

「許せない! 」


 私が憤怒で叫んだ。


 大翔兄を助けるのだ。

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