第8部 第8章 目を覚まされよ!
「くっ、元は我らで最強クラスの戦闘能力を持っていただけあって、信じがたい強さだ! 」
颯真と戦いながら怪物が呻く。
防御陣と思っていたが、それは力を込めた細い細いチェーンのようなものだったようだ。
良く見ていたらやっとわかるレベルだ。
それを颯真の剣戟に当てる事で激しい火花を上げて防ぐ事でその細いチェーンの届く範囲が守られているようだ。
それを凄まじい容赦の無い剣戟で砕いている。
実に攻撃の派手さに比べては地味な戦い方だが、それで大量に足元にあった細いチェーンが次々と剣戟で破壊されて減っていってるようだ。
怪物は細い細いチェーンをいくつかぶつけることで攻撃を相殺しているらしく、かなり焦ってきていた。
「やっと戦いの方を見てくれた……」
私と兄の視線を見て、一真と優斗がちょっと呆れてる。
優斗も矢を射るのは止めた。
途中まで矢をスキルで撃ち込んでいたが、まったく怪物が矢が当たっても気にしていないので、自分の技量では無理と判断して見てるだけに変わった。
自分の力量を自覚しているだけで大したものだが、傍から見るとサボってるようにしか見えない。
「いや、お前ら、何か戦えよ! 見てるだけじゃん! 」
魔法使いの爺さんが叫ぶ。
魔術の詠唱に入ると、細い細いチェーンが攻撃してくるので、詠唱が途中で途切れて魔法の攻撃を撃ち込みにくいようだ。
「そのままの、途中で途切れたままで続けて呪文の詠唱をしたらいいのでは? 」
兄がそれを見て突っ込んだ。
「いや、繋がっている言葉が力を産むのだ」
「結構、面倒くさいんだな」
「簡単な呪文の攻撃で良いじゃん」
「お前ら、他人事かよ」
魔法使いの爺さんが戦うよりこちらに文句を言うのがメインになってきた。
「いや、必殺の攻撃を颯真が続けているのだから、魔法使いの爺さんは相手の避ける動きを邪魔するように小さな魔法を積み重ねていけばいい」
「あ、そうか」
魔法使いの爺さんが私の言葉ではっとした。
「お前! 軍師の仕事を取るなよっ! 」
「いや、何も言わないからだろ? 」
兄が私に不満げに罵った。
「そもそも、軍師って何のスキルがあるんだ? 」
「いや、ステータスオープンで出るだろ? 」
「ステータスオープン? 」
そう兄が不思議そうに呟いたところ、パネルが出て来て、本人のHPとか載った黒い画面のようなものが出てくるがスキルが無い。
ただ、軍師と書いてあるだけだ。
「なんなんだ、この職って? 」
「ファンタジーで軍を率いていない軍師とかする事なんて無いからな」
「これなら、空手家とかの方が良いじゃん」
兄がむっとした顔で呟いた。
そうしたら、軍師の職の名前は空手家に変わった。
「「「「は? 」」」」
私だけでなく、一真と優斗も……それどころか、兄すらも驚いていた。
「いや、おかしくないか? 」
私が突っ込んだ。
「お兄様は女神に直接言われて勇者や聖女に指定されているわけではない。だから、その軍師と言うのは貴方が貴方自身で勝手に作った職なのだ」
戦いながらも怪物が叫ぶ。
「なんか、ボロボロになりながら、わざわざ説明をどうも……」
兄がそうすまなさそうに頭を下げてお礼を怪物に言った。
颯真の攻撃が凄すぎて、流石に怪物は左手が落とされて、血は出て無いものの大苦戦しているのが分かる。
死ぬのを待ってるのか、いつもの小鬼たちがまわりを遠回りで取り囲んで、じりじりと待っていた。
「まだ戦っている段階で律儀だな……」
「あれが小鬼か? 」
「そうだ」
「随分と禍々しいな」
「そう言ったろ? 勇者と共生状態にある異界の神らしい。ああやって、颯真が相手を倒したら襲って食いつくすんだ」
「いや、説明は受けていたのだが、本当に異様な光景だな? 」
兄が苦笑した。
「だから、貴方……浅野兄妹は我らの王族なのです! 」
必死にそう怪物が叫び続けている。
「いやいや、んなバカな」
「明確に否定できるぞ」
私と兄は失笑していた。
「いや、まあ、そうだろうけど……名指しで言われると……」
優斗が困惑していた。
「心配するな。異界の王族は自販機の釣銭口に手を突っ込んで取り忘れの釣銭を確かめたりしない」
「その通りだ。半額シールを店員に無言の圧力で残っている総菜に貼らさせたりしない」
「せっかくできたファンの女の子におごるよとか言って割り勘にするような奴は王ではない」
「お前、柴犬を買うのが夢だったから、中古住宅で飼おうとして、その値段を見て仕方ないから上級悪魔を柴犬にするようなせこい真似をしたろ? 」
「いや、割り勘は酷いだろ。自分で飯でも食いに行くかって女の子を誘っといてだぞ? 」
「空手の為にプロティンとか買って摂るんだって金がかかるんだぞ? 」
「いや、なら女の子とか誘うなよ」
私と兄の暴露合戦で泥仕合になりつつあった。
「超絶的な戦いを続ける颯真と怪物の前で、なんでそんなみみっちい話で罵りあいしてんの? 」
優斗が悲しい顔で見た。
「糞女神のせいだ! あの女神があの御方達を無茶苦茶にしてしまった! あんな貧乏な小心者の親の子にしてしまって……」
そう魔法使いの爺さんと颯真の攻撃を地味に受けてボロボロになりながら絶叫した。
「「は? 」」
私と兄の顔が変わる。
確かに、小心で心配性でそれでも必死にうちの兄弟を育ててくれた父母の事を貶されたのが許せなかった。
私と兄がそれで憤怒のあまり激発しそうな顔に変わる。
「お前、言っていい事と悪い事があるぞ! 」
「その通りだ。貴様、私達の父母は関係なかろうが! 」
私と兄がずかずかと颯真と魔法使いの爺さんと激しい戦いをしている中に向かっていく。
「おいおい、危ないぞ! 」
一真が叫んだ。
「ば、馬鹿! 戦ってる範囲に入ってくるな! 」
魔法使いの爺さんが颯真の援護で撃ったファイアーボールの数発が兄にあたりそうになったので叫んだ。
だが、兄はそれをあっさり片手で全部払い落とした。
颯真の剣が私の方へ来るがそれを私が回し蹴りで剣の側面を蹴って突き放す。
怒りのあまり、魔法使いの爺さんと颯真の攻撃をあっさりと払いのけると、憤怒の表情で兄と私は怪物の前に立った。
表情を見せない怪物だったが、身体は微妙に震えていた。
細いチェーンで対応しようとしたが、本数の少なくなったそれは、すでに兄と私が踏んづけて動かせないようになっていた。
「ああああああああああああああ! 」
怪物が恐怖の塊になって絶叫した。
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