第8部 第9章 火柱

「「死ね」」


 私と兄が同時に呟く。


 私は教化を使った。


 教化の最大級の上級悪魔を柴犬にした力だ。


 これで怪物が自殺するように持っていく。


 自殺させるために、奴の攻撃の武器である足で踏んでいた細いチェーンを踏むのを止める。


「自殺しろ」


 そう私が冷やかに告げた。


「うごぉぉぉぉぉ」


 それに抵抗しようと怪物が呻く。


 だがそれよりも早く、颯真の剣が奇麗に怪物の首を跳ねる。


 それと同時に兄の渾身の中段突きが入る。


 空手の爺さん先生は古流もしていたらしくて、その直伝の蓮華砕きだ。


 普通の蓮華砕きと違い、あからさまに手が光っていて、それが衝撃派のように出ていた。

 

 首を斬り落としただけでは怪物は死なないらしくて、颯真が首を落とす事でも、まだ抗っていたが、それに合わせて兄の蓮華砕きが胴体の動きを潰した。

 

 その瞬間、待っていた小鬼達が待ちきれなくなったらしい。

 

 次々と飛びついて怪物の肉体をたかって食らいだした。


 さらに、何回も衝撃派のように颯真が与えた斬撃のせいで廃病院が背後で崩れ出した。

 

 そのせいで、廃病院で封印していたのか、光るオーブのような魂のようなものが空に向かって拡散して飛んでいく。


「うわ、あんなに霊魂が……」


 一真がそれを見て身震いした。


 それで看護婦さんの霊も解放されたらしくて空に昇って薄くなっていく。


「ごめんね。竜ちゃん。私も解放されたみたい……」


「みっちゃん! 待ってくれ! 」


 菅原さんがそう叫ぶ。


「ごめんね……」


 看護婦さんの霊が涙を流した。


「……ぼっちゃん。すんません。私も一緒に逝かせて下さい」


 そうゾンビの菅原さんが一真に頼み込んだ。


「いや、えええと、ゾンビの解除ってどうすんだ? 」


 一真が呻く。


「同じところに行けんだろうな。悪いが……」


 魔法使いの爺さんがそう答える。


「それでも、それでも……みっちゃんを送りたい」


 ゾンビの菅原さんが真剣な顔で私達を見た。


「ふむ。ならば、昔師匠から聞いたことがあるのだが、ゾンビの身体を魔法使いが爆裂系の魔法で破壊する。そして、聖女の全力の懺悔の浄化をかける。そうすれば、あるいは同じところに行けるかもしれんとおっしゃっていた……」


 魔法使いの爺さんがそう考えこんで答えた。


 この爺さんの話だと怪しいんじゃないかと思うんだが……。


「わしの師匠が実際にやったらしいから、本当のはずだがっ! 」


 私の思ってることにイラッとしたらしくて大声で言ってきた。


「それで構いません。例え同じところに行けなくても恨みませんから……」


 そう菅原さんのゾンビは呟くと、一真に許可を求めるようにじっと見た。


「……じゃあ、お願いします」


 一真が深く息を吐くと魔法使いの爺さんに頼んだ。


「心得た」


 魔法使いの爺さんがあからさまにやばそうな呪文を唱え始めた。


「じゃあ、私は懺悔の浄化を使うわ」


 ふと思ったが、これは自殺させたのと似たような奴だと思うのだが、大丈夫なのだろうかと……。


 だが、今度は呪文の詠唱中なのに、私の心を読んだらしくて、魔法使いの爺さんは大丈夫だと言う感じで私を見て頷いていた。


「よし、行くぞ! 偉大なる深紅の炎よ。そのゾンビである身体を焼き尽くせっ! 」


 呪文の詠唱が終わったのか魔法使いの爺さんが叫ぶと同時に火柱が上がって、凄まじい爆発が起こる。


 あからさまなオーバーキルの呪文であった。


 慌てて、私も懺悔の浄化を使ったのだが、火柱がでかすぎて、上手くいったかどうかよくわからん。


 何しろ、離れていた小鬼に食われまくっている怪物も火柱に飲まれたくらいだ。


「おい。小鬼さんが巻き込まれてるんだが」


 兄がそう突っ込んだ。


「大丈夫じゃ、あれは異界の神だと話しただろう? あの程度で死ぬことはない」


「いや、私の方も火柱が凄すぎて、菅原さんがどうなったかわからんのだが……」


「上手くいったと信じようではないか……」


「お前っ! 適当すぎるだろっ! 」


「そうは言うが、ゾンビの身体を焼き尽くさないといかんと師匠に言われていたからな。流石にそうなると火力いる」


「そこまでいらなかったんじゃないか? 」


 私と魔法使いの爺さんの言い合いに兄も参加してきた。


「崩れた廃病院が火柱に飲まれたぞ? 」


「ええええ? ちょっと火柱がこちらに来るぞ! 」


 優斗と一真が叫んだ。


 火柱の直径が急激に拡大していた。


「逃げるぞ! 相変わらず、加減を知らないからっ! 」


 颯真がそう私を腰に抱えて走り出した。


「おいおい、乙女の身体をだなっ! 」


「焼けるよりは良いだろう」

 

 そう颯真が私を抱いて走った。


「ちょっと、大豆生田(おおまえうだ)さんがっ! 」


 一真が叫ぶが、取り残されていた魔法使いの爺さんはあっさり空中に浮いて火柱の拡大に飲まれるのを避けた。


「いや、お前のが危ないだろうがっ! 」


 優斗が叫ぶ。


 僧衣を着ていたので走るのに向いてなかったので、一真が火柱に巻き込まれそうになった。


 それを兄が抱えて逃げたした。


「あああ、大翔さん! ありがとうございます! 」


 一真が感激していた。


 まあ、金蔓だしな。


 ああいう兄の行動を感謝しちゃうとこが甘いところだ。


 私がそれを颯真の脇に抱えられながら思った。


「どうすんの? 」


 私が颯真に抱えられながら兄に聞く。


「しゃーない。逃げるしかあるまい」


「やはりか」


「ええ? 逃げるんですか? 」


 一真が抱えられながら突っ込んだ。 


「だって、剣で斬ったならともかく、魔法は記憶に残るんだろ? 」


「ひでぇな? 」


「火事になるじゃん」


 兄の言葉に一真と颯真が突っ込んだ。


 そうしたら、魔法使いの爺さんが空を飛びながら、今度は廃病院がある山だけ焼けるように防御陣で囲んだ。


「あの爺さん。実は結構凄いのか? 」


 兄がそれを見て感心していた。


「いや、やり過ぎて、自分で自分の魔法に対する防御陣を引くとか、相変わらずだと思うぞ」


 颯真が苦笑した。


「菅原さんに私は言われたとおりにやったんだけど無事に出来たかどうかわかんないと言う状況だもんな。私のは出来たかどうかは結果を見ないと分からんし」


「結構、不便だな」


「まあ、あの爺さんだけにまともな使い方じゃないと思うぞ」


 などと私と兄の話に、颯真が突っ込むくらいやばいやり方なんだろうなと思った。


 結局、私達はそのまま走り続けて……私と一真は抱えられたままだが、そのまま駅についた。


「え? 電車で帰るの? 」


「仕方あるまい。タクシー呼ぶのも勿体ないし」


 そう兄が苦笑した。


「まあ、セーラー服を着た、いたいけない少女が夜遅くに電車と言うのは? 」


「昔、暴走族の全盛期に、警察のパトカーとかに囲まれたときの必殺技が、何とか隠れて市の駐車場にバイクを置いて、そのまま電車で家に帰るって方法だったらしい。バイクは次の日にとりに戻るそうな。現行犯じゃないと逮捕できないんだと」


「いや、そういう知識はいらんけどな」


 空手とかやってると昔DQNだったのもOBでいるから聞いたんだろうが、いらん知識だ。


「魔法使いの爺さんは? 」


「まあ、飛んで帰ってくるだろう」


 私の疑問に颯真が苦笑した。


 こうして、私達は電車で家に帰った。

 

 だが、私達が廃病院に行った、いろんな状況証拠があるのと、あほな魔法使いの爺さんが空を飛んでるのを目撃されたり、火柱がそのまま写真で残ってたりしたせいで、次の日にちょっとネットとかで騒がれたのであった。


 まあ、私が懺悔を使ったせいか、廃病院の山が奇麗に焼けたのは再開発のために良かったとかあちこちで美談になってて笑った。 


 

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