第8部 第6章 問答無用

「誰か来るぞ? 」


 一真がそう身を震わせた。


「誰が? 」


「分からん。霊だと思うのだけど……」


 それで、皆が廃病院の建物をじっと見た。


「え? 」


 ゾンビの菅原さんが凄く驚いた顔をした。


 看護婦さんの恰好をした女性の霊が建物の陰に佇んでいた。


「恥ずかしがり屋さんなのかな? 」


 兄がそう呟いた。


「出てこないな……」


 魔法使いの爺さんも同じように呟いた。


 その女性は陰からじっとこちらを見ていた。


「怖いのかな? 」


 優斗が不思議そうに見た。


「まあ、こんだけ昼よりも明るくなって、夏のように熱い炎の塊が空を飛んでいたらな……」


 私もそう同意した。


 真っ暗な中で、肝試しとかユーチューバーがライトを持って覗きに来たのと違うのだ。


 ワールドワイドの魔法で真昼間にしてしまってたら、そらビビるわ。


「みっちゃん……」


 そう菅原さんが呻く。


 みっちゃん……だと?


 顔見知りなのか?


「やっぱり、竜ちゃん」


 そう看護婦がかぼそい声で呟いた。


 何故か声が聞こえる。


 後頭部の後ろの方から聞こえるかんじだ。


 こう言う感じで聞こえるとは思わなかった。


「なんだ? お知り合いですか? 」


 兄が急にカメラを回してインタビューみたいな事を始めた。


「いや、撮るのやめるんでは無いの? 」


 私がいきなり方向転換した兄に聞いた。


「いやいや、ドラマになりそうだから……」


「はあ? 」


「お爺さんのお知り合いなのですか? 」


 丁寧にゾンビの菅原さんに兄が再度聞いた。


 菅原さんはあまりの展開に驚いて固まっていたからだ。


「……ええ、幼馴染です……そうか……事件が起きた時に点滴を間違えたのは、やはりみっちゃんだったのか……名前が同じだと思ったんだ……」


「てへっ、やっちゃった」


 そうその看護婦さんの霊は舌をペロリと出した。


「だから、みっちゃんに子供の時に看護婦さんは無理だって言ったのに……」


 菅原さんがそう呻いた。


「いやいや、看護婦さんに罪の意識が感じられないな……」


「軽くないか? ちょっと……」


 私と優斗が突っ込んだ。


「ドジっ子なんです」


 菅原さんがそう説明した。


「なるほど、私の空手のお爺さんの先生が言ってた昭和のドジっ子って奴ですね」


 兄がそう解説した。


「いやいや、人が死んでんのに」


「すげぇな」


 私と優斗の突っ込みは無視された。


「まあ、お前ら兄妹も似たようなもんだし」


「失礼だな。俺達はちゃんと意識してやってる」


「そっちの方がやばいと思うが……」


 魔法使いの爺さんが兄の言葉にドン引きしていた。


「まさか、死んでいたとは……その姿だと若いうちに亡くなったのか? 」


 そう菅原さんが看護婦さんの霊に聞くと頷いた。


「ここには恐ろしいものがいるんです」


 などと言い出した。


 いや、点滴間違えて沢山死なせて、テヘペロするあんたも相当怖いがなと思った。


「まあ、同意じゃな」


 菅原さんに気を使って心で思ったのに、その私に同意するとは……。


「正直、人の考えが流れ込んでくるから、お前たちが普通に話しているのに返事するのと、変わらんのだよ。他人の考えが読めると言う感じでは無いのだ」


 などと魔法使いの爺さんが困った顔をした。


「呑気だよな」


 一真が相変わらず震えながら私に嫌味みたいに話した。


「ここはある御方に生贄を捧げているんです」


 そう看護婦さんが少し悲しい顔で呟いた。


「えええと、点滴の間違いも生贄の為だったのですか? 」


 私がとても突っ込めないようなことをカメラを回しながら直球でゾンビの菅原さんと見つめあう看護婦さんの霊に聞けるとは……。


 兄のそう言う所は凄いと思った。


 颯真以外がおいおいって突っ込みたさそうな顔になる。

 

 そう言えば、颯真はじっと病院の奥を見ていた。


 嫌な予感がする。


 本当に何かいるのか?


「みっちゃん……俺がヤクザになったのは知ってるよな……」


 そう菅原さんが静かに聞いた。


「……ええ」

 

 そう、看護婦さんが遠慮がちに頷いた。


「今はゾンビですけどね」


 兄の容赦のない突っ込みが続く。


 菅原さんがそれに無反応なのが逆に怖い。

 

「ここはうちと対抗している組が拷問とかに使ってたはずだが……。それも関係しているのかい? 」


 菅原さんがなるほどの視点で話す。


 兄より余程まともなのでは? 


「いや、妹がそういうの思うって、もうどうなんだって感じだな」


 魔法使いの爺さんが苦笑した。


「帰ったら、良く話し合おう」


 意外と地獄耳なので兄が聞いてて、私に突っ込んだ。


「話し合ったって、意見なんて変わらんぞ……」


 そう私が苦笑した。


「酷い兄妹だな。本当に」


 そう優斗が苦笑するかどうかで颯真が動いた。


 手には例の黒い剣が握られていた。


「ま、待って! 刺激しては駄目っ! あれは生贄さえもらっていれば騒がないからっ! とても人間が勝てるようなものではないの! 貴方達の力を見たら普通じゃないのは分かったけど……でも、それでは……」


 と看護婦さんが止める発言の間にもうすでにいつもの速さで廃病院の何かに上段から唐竹割りで一撃を入れた。 


 その一撃で廃病院が縦に一撃で斬り分けられた。


 凄まじい轟音と建物が崩れる地響きがする。


「えええええええええええええええええええええええええええええええええ? 」


 看護婦さんの霊が凄い顔をして張り付いていた。


 菅原さんも颯真の攻撃は一度は見てるとはいえ驚いていた。


 二人ともこちらも人間じゃないと言うのを理解したようで黙る。


「どうした? 」


「避けた」


 颯真が今度は剣を腰だめにしてジリジリと次の一撃の構えをとる。


「何かいたな」


 魔法使いの爺さんがここで初めて気が付く。


「いや、そう言う索敵とかは普通に魔法使いの爺さんの仕事じゃないの? 」


「いや、気配を消すのが上手い。こないだの米軍のヘリに乗ってた奴と同種みたいだな」


 私の突っ込みに今度は臨戦態勢に魔法使いの爺さんが入る。


 杖の方から禍々しい力が湧き出す。


「おいおい、二人とも壊す範囲を考えてくれよ? 」


「むう。だが、こいつに加減してる暇があるか? いつの間に、こんなのが蔓延る様になったんだ? わしの元の世界は? 」


「分からん。昔、向こうに転移する前には感じれなかったからな」


 颯真と魔法使いの爺さんがジリジリと構えながら、左右に廃病院を囲むように分かれて攻撃態勢で動く。


「やっぱり、話し合いとかしないんだな」


 一真が少し震えが止まったのか、困り切った顔をして呟いた。


 多分、さっきの一撃で廃病院の霊とやらも斬られて結構消えたんじゃないかなと思

った。


「一応、こないだのとは別なんだから、話し合いをした方が良い様な気はするがな」


 などと兄が呟いた。


「いやいや、あんたがあの時は焚きつけたくせに今更……」


「だが、今度のは話ができるかもしれんだろ? 今の一撃が当たって無いのなら、とりあえず話をしてみるべきじゃないかな? 」


 などと兄が颯真と魔法使いの爺さんを見回した。

 

 「百発百中! 百発百中! 百発百中! 」


 だが、脆くもそれは真横にいた優斗に潰された。


 優斗は相変わらずのセンスのないスキルの名前を叫んでいた。


 絶対に当たる矢を相手に撃ちまくっていたから、……まあ、当たってるだろうな、相手に……矢が。

 

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