第8部 第5章 解せぬ

「解せぬ」


 私が呟いた。


「まあ、わしもじゃな。何もしないのに震えられると言うのはどうも」


 魔法使いの爺さんも横で突っ込んできた。


「いやいや、霊感があるとここは本当にやばいけど、彼らの怯えも無茶苦茶感じる」


 などと一真が震えている。


「辺りは熱いくらいなのになぁ」


 颯真もそう不思議そうに見ていた。


「心が繊細で無いとこういうのは無理なのかもしれんな」


 などと兄が宣った。


「解せぬ」


 またしても解せない。


 私だって鋼鉄の心とか言われるとちょっと気になるくらいの繊細さは持ち合わせているのだが。


「じゃあ、さっさと浄化してしまおうか?  」


 段々面倒くさくなってきたので私がそう皆に話す。


「え? 浄化って祈るだけだろ? 」


 いきなり兄から駄目だしのように突っ込まれた。


「いや、見たこと無いだろ? 」


「ネットでお前が祈る映像は出回ってたぞ」


「そこまで? 」


 などと兄がスマホを出すが圏外だった。


 街の離れで人も少なく、廃病院騒ぎでドンドン廃れていって、人が殆ど住んでいないので、さらに廃れていくと言う悪循環になっているそうな。


 一真の話では再開発しようとすると、再開発しようとした会社に不幸が連発するので誰もやらなくなったそうだ。


「ちょっと映像は見せれ無いがお前が祈るのはネットの映像で見た」


 兄がそう話した。


「だったら、それでいいのでは? 」


「いや、インパクトが足りないだろ」


「相手が懺悔して自殺したんだから、インパクトは足りていると思うが……」


「映像としてだよ」


 そう兄が強弁した。


「一応、ポチに限界教化した時は多少身体が光ってたが」


「ポチに? 」


「ポチに」


 私の言葉に違和感を感じて兄が聞いてきたが私は構わず答えた。


「犬のしつけに使ったのか? 」


「いや、あの犬、上級悪魔の狼男なんです」


 そう優斗が話す。


「は? 父さんと母さんが膝に乗せたりしているのに? 」


 兄が瞬きして聞いた。


「ああ。一応、敵が厄介だから、あんなのでも護衛になると思ってな」


「あれはじゃあ、上級悪魔が化けているのか? 」


「というか、狼に近いのは柴犬なんで、お前は柴犬だと教化で教え込んで洗脳した」


 私がそう話すと、兄が無言になった。

 

 震えていた一真も優斗も少し心配そうに兄の大翔を見ていた。


 上級悪魔が家で柴犬になって飛び跳ねていると言うのは流石にって思ったのだろう。


「ひょっとして、撮影いらない? 」


 などと兄が明後日の方向に返事してきた。


 一真と優斗は驚いていたが、私は驚かなかった。


 このイメージビテオもあくまで布教の為と言いつつ金儲けの宣伝の為に撮っていたのであろう。


 だが、兄は教化を私が使える事で、ビデオ自体がいらず、私が祈ることでいくらでも布教できることを知ってしまった。


「それ、布教じゃなくて、洗脳だぞ? 」


 私の心が読める魔法使いの爺さんが突っ込んできた。


 こう言う風に心が読めるのも良し悪しである。


 良い時もある。


 私の代わりに第三者として魔法使いの爺さんが突っ込んでくれた。


 私が突っ込むより効果があると思うのだが……。

 

「いや、同じだろう」


 兄がそう全く動じずに答えた。


「えええ? 」


 魔法使いの爺さんが少しドン引きしていた。


 いや、珍しいな。


「所詮、宗教なんて洗脳だぞ? 」


 いっそ清清しいほどの言葉である。


「いや、それはどうなん? 」


「一休さんと浄土真宗の蓮如上人って友達でな。蓮如さんが留守で、一休さんが留守を待つのも退屈だったので須弥壇からご本尊である阿弥陀の木像を下ろしそれを枕に昼寝をしていたとかある。 そこへ帰って来た蓮如が笑いながら一言。「こら!ワシの米びつを枕にするとは何事じゃ!」って逸話がある。こんな話が仏法を知り尽くしているから素晴らしいって話になってるけど、どうなんかなとか思う。言っていい冗談では無いと思うが……」


「また、ネットで調べた話か? 」


「そうだ。後、一休さんも信徒の奥さんをムラムラして突然に襲って、それで奥さんが逃げて旦那さんに言いつけたら、旦那さんがそれはもったいないって言って一休さんにもう一度襲ってあげてくださいって奥さんを連れて来たって逸話がある。一休さんはもう飽いたって断ったって言うけど。これもどうなんとか思うわな」


「いや、それは高度に仏法を知り尽くした僧侶だけに分かる話で……」


 一真がそう答えた。


「いや、でも、これで信仰するのはちょっとついてけねぇわ。物事には言って良い事や、やって良い事があるはずだし。そんなのでも素晴らしいとか言えるってのはな、ぶっちゃけ素晴らしいと言う思い込みの結果ではないかと……」


「言って良い事とやって良い事に関してはあんたらは何も言えないと思うがな」


 魔法使いの爺さんがそう兄に突っ込んだ。


「うち、寺なんだけど」


 そう一真が我慢しきれなくてぽつりと漏らした。


「まあ、宗派違うじゃん」


 そう兄は話す。


「まあ、授業で習った時にも、宮廷に呼ばれた僧がいきなり天皇や貴族の前で下痢気味でって言って、宮中の皆の見る前で下痢して帰って、流石高僧よって感動したって話をやってたな」


 私がそう突っ込んだ。


「つまり、そう言うのが分からないと駄目だって雰囲気に流されてると言えるかもしれんよな。芸術品が贋作と認定されるまでわからないで、それについて皆で美辞麗句で褒めちぎってたのと同じだよな」


「そう言うのはひねくれ過ぎではないか? 」


 魔法使いの爺さんがそう突っ込んだ。


「まあ、ひねくれてるのは認めるがな」


「「認めちゃうんだ」」


 兄の言葉に優斗たちが唖然としていた。


「ああ。だから、別にビデオはいらんのではと思ってしまった」


 兄が本当に正直に話す。


「いや、じゃあ、撮影はどうすんの? 」


 私が目を輝かせる。


「不動産を買っちゃった、檀信徒さんの立場はどうなるんです? いくら何でも、これで撮影無しは無理ですよ」


 一真が震えながらも話す。


「だから、とりあえず、浄化で一気にやってしまおう。何か一真に聞いた話だと、いくつかクラスがあるらしいから、最大の浄化を使えば一気にいけるのでは? 」


 兄がもはや、興味が無いように話す。


 すでにカメラも持っていなかった。


「本当に思ってた大翔さんと違う」


「本当だよな」


 さわさわと優斗と一真が話し合う。


 確かに、空手の情報誌だったら、真摯に稽古をして空手道に邁進しますみたいな事を言って、歯をキラリとさせるようなキャラクターでやってるからな。


 違和感だらけなのは仕方あるまい。


 内面は所詮、浅野兄妹なのだ。


「それはちょっと……あれだな。そもそも浅野兄妹って何のなのだ? 」


 魔法使いの爺さんが聞いてきた。


「つまり、何故か付き合って親しくなると、そう言われるのだ」


 私がそう困ったように話すと、兄が横で深く頷いた。

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