第8部 第4章 震え

 という事でいろいろと持ってきていたが、全部無駄に終わっていた。


 わざわざ日本屈指の霊スポットに来て、除霊をするはずが、コスプレとか方向がずれていると思う。


これだけ脱力感のある状況で、実はまだ何も始まってもいないと言う現実は重い。

 

「結局、コスプレも意味が無かったのだし、全部無駄なのでは? 」


「いや、試行錯誤は必要だぞ? ユーチューブだって再生数を上げる為に必死の努力をしている」


「女性のユーチューバーの場合、ノーブラにしたり、服を脱いだりするだけで再生数が上がるのはどうなんだと思うけどな」


「確かにな。まあ、同じ空手をやるものとして、空手の技とかを解説する道場主のユーチューバーが突然娘の道衣の着方のユーチューブをやった途端に二桁違う再生数だったとか泣けてくるがな」


 私の話に兄がそう悲しい顔をして答えた。


「それなら、もう少し色気をアピールした方が良くないか? 」


「見た目だけなら良いんだから、それは言えているかもしれない」


「いや、聖女だろ? そういう下半身系の聖女だと言うのなら悪いが私は辞めさせてもらうが」


 一真と優斗が盛り上がるので、私がきっぱりと話す。


「まあまあ、そういうのでは信徒様も納得はしないからな。今のネットの聖女の騒ぎに水を差してはいけない」


 などと、こんな面倒くさい話にした本人がそうやって良識ぶるのはいかがなものかと思うが……。


「まあ、信徒への宣伝ビデオだし。普通に撮って帰りましょう」


 そう一真が言うと廃病院に向かうが、廃病院の前の進入禁止のテープとか張り巡らされたのと、真っ暗な中で異様な雰囲気にびびっていた。


「僧侶がビビるとかどうなん? 」


「いや、俺、出張除霊とかしたこと無いし、してるとこは結構あるけど、いろいろと揉めるのもあるから祖父も親父も最近してないし……」


 などとしどろもどろになっていた。


「気配はどうなんだ? 」


「霊の気配はするが、魔物かどうかはわからんな」


「何かいるような気はするがな。霊では無くて……」


 私の質問に颯真と魔法使いの爺さんは首を傾げながら答えた。


「なんだか、凄くやばそうだがな……」


 優斗もへっぴり腰だ。


 ビビりまくっていた。


「何で、女の子なのにびびってないの? 」


「まだ、何も出て無いのに? 」


 そう私が言うと兄も頷いた。


「何で、そんなリアリストみたいな態度ができんだ? 」


「いや、浅野兄妹は昔からこんなものだ」


 優斗の問いに私が答えると兄も横で頷いた。


 私も兄も全く動じていなかった。


「まあ、この暗さだとびびるわな。とりあえず、明るくするわ。ライトニング! ライトニング! ライトニング! 」


 そう魔法使いの爺さんが唱えると三方向に太陽並みに明るい光の球が現れた。


 昼より明るい。


「いやいや、これはどうなん? 」

 

 私が突っ込んだ。


「なんと言う事でしょう。真っ暗な中で不気味な雰囲気を見せていた廃病院が三方向から太陽のような明かりを向けられたせいで影が殆ど消えてしまいました。建物の中すら真昼よりも明るいのです」


 などと兄がどこぞのビフォーアフターのナレーションみたいな言葉で言い出した。

 

 見たらカメラを回していた。


「いや、それでいいのか? 」


「いや、撮影だし」


「パクリじゃん」


「でも、分かりやすいだろ。聖女一行の除霊を撮影するんだから、このナレーションならビフォーアフターが信徒に分かると思うが……」


「おいおい、スポンサー、一言ほど兄に言ってやれよ」


 私が兄の事を一真に必死に言いつけた。


「ええと……」


「いや、お前はこの世界しか知らないから言うが、ダンジョンもまずは明るくすることから始めるんだぞ? ちょっとした足元の起伏は危険だしな。特にわしのような老体にはな」


 などと魔法使いの爺さんが胸を張る。


「いや、しかし、ここまで明るくしたっけ? 俺の時は精々ライトニングを使うと言っても一つだ」


 あの颯真が突っ込んだ。


「いや、そこが駄目じゃ。三方向から照らすことによって陰を無くすのじゃ。これでゴブリンとかついうっかり見過ごしてしまう弱くて小狡い奴らの奇襲も即座に分かるようになる」


「まあ、確かに、たまに、目が闇に慣れるから松明だけとか言う奴もいるがモンスターの方が夜目が効くからな。人間の常識で考えると酷い目に合う」


「じゃろう? 元々、この手の魔法はたいしてマジックポイントも使わないし、しばらくはこれでわし等について明かりも移動する。まずは安全にダンジョンを行く。これが大事じゃ」


 魔法使いが妙に説明臭いと思えば兄が撮っていた。


「いやいや、除霊であってダンジョンの探索では無いだろ? 」


 私が慌てて突っ込んだ。


「建物の中に入っていくんじゃろ? こういうのはな、安全第一じゃ」


「なるほど現場猫とか適当なのは駄目だという事ですね」


「現場猫が何かは知らんが、その通りじゃ」


 などと兄がインタビュアーみたいな事を始めていた。


「お前、うちの兄は完全に撮影の方向性がずれてると思うぞ」


 私が突っ込むが一真は震えが止まらないようだ。


「どうした? 」


「いや、相当やばい。こんなにやばいと思わなかった」


「だから、兄とか無理だと言ったのに」


「いや、そうじゃなくて、この廃病院やばい」


「「「「え? 」」」」


 一真の悲鳴のような言葉に私と兄と颯真と魔法使いの爺さんが驚いた。


「いや、寒気はするよな」


 優斗も居心地悪そうにしていた。


「いやいや、こんなに明るいのに」


「怖さなんて全くないだろ」


 私と兄がそう言うが、一真は震えていた。


「ふはははは、ならば簡単じゃ。ヒートファイアー! 」


 そう魔法使いの爺さんがそう魔法を使った。


 そこに巨大な熱い火の玉が中空に光の球とともに浮かんだ。


 それの熱波がこちらを襲う。


 真夏の暑さのようだ。


「こ、これは? 」


 颯真が感心していた。


「ふふふふ、ダンジョンとか寒いものだろう。ずっとじめじめとしていて暗いのだから。それゆえにわしのような老体にはキツイ。それで編み出したのがこの魔法じゃ。太陽のような熱波で温まれるのじゃ」


「なるほど、ストーブのようなものか」


 私も流石に感心した。


「これなら、暗くて寒いダンジョンの中もあっという間に暖かい日差しの中の縁側のように変わると言う事ですね」


 兄の言葉遣いがインタビューの人からテレホンショッピングのお兄さんの言葉遣いに変わった。


 もはや、やばすぎるビデオになっているのではないか?


 そう言うのが心によぎった。


「何かやばいか? 」


「いや、何か最初の聖女の除霊と全く方向性が違うからって……心を読むなというのに……」


「いや、黙っていても心に流れてくるし、やばいとか思われると気になるではないか」


 魔法使いの爺さんが必死だ。


 意外と気が小さいと言うか言われることを気にするタイプだ。


「そうだよ。老人はな。ちょっとしたことでも気になるんだよ。疎外感が皆からある事が多いし」


 などと魔法使いの爺さんが愚痴る。


「いや、だから、霊感的なもので、そういう寒さじゃないから」


 一真が震えながらもそう答えた。


 確かに霊感はある奴は気にするが、無い奴は全く気にしない。


 裏を返したら無い方が良いのかもしれない。


「まあ、そう言う所はあるわな」


 そう魔法使いの爺さんがまたしても心を読んで突っ込んできた。


「こ、こっちも恐怖で震えてるけど、向こうの霊も恐怖で震えてるよ」


 などと一真が言った。


「何で、霊が恐怖で震えるんだ? 」


 私が不思議に思って聞いた。


「いや、そりゃ、こんな連中来たらビビるでしょ」


 そう優斗が苦笑したら、横でゾンビの菅原さんも苦笑していた。


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