第8部 第3章 なんだこれ

 タクシーの運転手さんが行く場所を聞いてビビりまくる。

 

 無線で「マジか」とか本部と言い合っていた。


「……いや、まあ、近くまでなら良いと言われてるんですが……」


「え? まずいんですか? 」


 優斗が困ったように聞いた。


「昔、随分とそう言う肝試しが楽しみで行ってる人達がいろいろあって、ようやく大人しくなったと思ったら最近はユーチューバーとやらが来ていろいろやって……」


「ほほう」


 大翔兄さんが頷く。

 

 ちなみに、こちらには大翔兄さんと優斗が乗っていた。


 もう一台のタクシーはゾンビの爺さんと一真と魔法使いの爺さんと颯真と言う濃ゆい面子だった。


「知っているんだな? 」


「まあ、検索したら出てくるよ。変死したのがいるそうな。それで、逆にその手のユーチューバーが集まって来たらしい」


「まあ、そんなもんだな。彼らにとっては良いネタだろうし」


 私がそう呆れる。


 地元のタブーも配信して登録者数と再生を稼げるなら、大喜びでそれを乗り越えるのがそう言う人達の常だから。


「そしたら、もっと死んだらしい」


「……呪いってそういうものなのか? 」


「ちょっと変ではある」


「まあ、そんなわけで、警察からもそこへは行かせるなって内々のお達しが来てまして」


 タクシーの運転手さんがそう呟いた。


「じゃあ、行けなくなるわけか? それは良かった」


 私がそう苦笑した。


 腐っても警察に言われたら仕方あるまい。


 うっかり不動産を買ってしまった信徒さんも残念だが仕方あるまい。


「いや、行けるよ。大体、空手とか武道って警察関係といろいろと関係が深くなるからな。先輩通して警察にも頼んだし、寺の方からも話が言ってる」


「は? 」


「だから、近くまで行って歩いていくことになる」


「いやいや、なんだ、その小技」


「いや、高校の時に空手もやってたが、結構、空手だけでなくて、柔道も一緒に習ったりするんだ。んで、そっちの先生が講道館の有名な先生でな。って話してただろうが……」


「あったな……」


 古い格闘技の習い方だが、お爺さん先生が空手の師匠のせいか、こういう古い習い方を兄はしていた。


 空手だけだと掴まれたり投げられたりした時に危険だからと柔道も習うという奴だ。


 今なら、総合格闘技で良いじゃんと思うのだが。


 ちなみに、私も柔道を兄に続いて、そこで習っていたが、そちらの方は段を取れなかった。


 昇段試験が勝ち抜き戦でやるので、その日の相手の選手の面子がとんでもなくて、お前まだ段とってなかったのかよとか言う面子で勝てなかった。


 受験と同じで運も大切だ。


「なんだ。また、昔の柔道の段をとれなかった話を思い出してるのか? 」


「いや、まあ、ちょっと思い出しただけだ」


「空手は持ってんじゃん」


「そういうのとは違うだろうに」


 私がそういうと兄が苦笑していた。


「まあ、特に講道館の大先生が動いてくださったから大丈夫だ。何しろ、高校で昔に教えておられて、道場の音がうるさいと言う近所からの何度も来る匿名のクレームの手紙を警察のルートで筆跡鑑定までして、最初の頃に来ていた名前付きのクレームの投書と一緒に持って警察と行って、同一人物だよねと殆ど脅しに近い説得してきて終わらせたくらい警察とは関係が深いし」


「それはどうかと思うがな」


「まあ、武道と警察は切っても切れない関係だからな」


 兄がそう苦笑した。


「では、一応、上で話が通ってるんで、近くまでは行きますよ。私も信徒なんで、聖女様の力に期待しております」


 などと、車のバックミラー越しにタクシーの運転手さんにキラキラとした目で言われるとうんざりした。


「やはり、聖女様は知られてるんですか? 」


 兄が興味深そうに聞いた。


「あの事件の時にうちのタクシー仲間がたまたま目撃しましたからね」


「うげっ」


 世界の狭さにうんざりした。


 という事で、その廃病院の近くにタクシーが止まった。


 近くと言っても500メートル以上離れている。


「聖女様の活躍を期待してます」


 などと、降りるときに声をかけられた。


 タクシーが速攻で走り去るのを見て、ため息をついた。


「早く父さんが転勤しないかな? 」


「後、数年はここの支社で働くって言ってたぞ、残念だが……」


 そう兄が余計な突っ込みをしてきた。


 転校のプロフェッショナルといえど、運が大事で離れがたい学校の時はすぐに転校するのに、早く転校したいような学校の場合は長かったりする。


 そして、先に降りていた一真達と合流して、もっと深い深いため息が出た。


 同時に乗ったが、信号の問題で一真達は早く着いていたのだ。


「なんだ、その恰好は? 」


「いや、向こうでの勇者の格好だ。こないだ一真に聞かれて説明していたんだが、本当に作ってくるとはな……」


 そうファンタジー世界から出てきたような革と鉄板を仕込んだような服を着こんだ格好に颯真が着替えていた。


 そして、魔法使いの爺さんはレゲエから最初に会った時の姿になっていた。


「うーん。やってみたけど、違うかな? 」


 兄がそれで注文をつけた。


「そうですね。私が提案したんですけど、ちょっと浮いてますよね」


「いや、思いっきり浮いてると思うぞ。本当にコスプレ軍団じゃないか」


 兄と一真の話に私が突っ込んだ。


 いくらなんでも酷すぎる。


「今、ゾンビのお爺さんに渡されたんだけど、じゃあ、これを着なくて良いんだよね」


 優斗が本当に嬉しそうに聞いてきた。


 その渡された服を見て、もっと、うげっとした。


 革鎧だが、異常に簡素だ。


 普通は戦場で弓兵って花形なのだが、転移した世界の国柄なのか、あまり防御に気を使っていない服装だった。


 直接には弓兵は斬りあわないし、距離をとって戦うからだろうが、せこすぎる。


 多分、貧乏な国なんだと思う。


「なんだ、この服? 」


「いや、あちらの弓兵はそんな感じ」


「こちらでその恰好は本気で浮きまくりだと思うが……」


「俺は向こうでこの格好で、あちらの世界もそんな感じだったから、あまり違和感は感じんぞ」


「わしも、こちらの世界より向こうの世界の方が長いからな」


 私の突っ込みを少しむっとした感じで颯真と魔法使いの爺さんがして言い返してきた。


「どうしょうか。これで撮るとなると、ここでは無茶苦茶浮くかな? 」


「場所的には浮きますね。場所が廃病院ですし」


「聖女がセーラー服だもんな」


「単なるコスプレ集団ですよ。信徒のお爺さんお婆さんが引くと思います」


「それは困るな。やはり、元の服に戻ってくれ」


 などと兄が言うので、颯真と魔法使いの爺さんがブーブー言った。


「まあ、私的には宜しいのでは無いかと思うのですがね」


 などと、ヤクザの爺さんが苦笑した。


「そう言えば、お爺さんの名前は? 」


「菅原竜二です」


「うわっ惜しいな」


「確かに」


 私と兄がそう突っ込んだ。


「まあ、似てるって言われてましたがね」


 そう少しはにかみながら笑ったので余計似てた。


「菅原さんは出さないぞ。あくまで我々のボディーガードだから」


「キャラ的に難しいよな」


 一真も仕方なさそうに否定したが、それに優斗も同意した。


「いずれ、内々では副住職との話し合いで大聖寺の「長生きプラン」のモデルで、別の爺さんと出てもらう計画はあるがな」


 などと兄が狂った事を言い出した。


 私の適当な話がいつの間にか事業化の方向とか。


 本気で全てがなんだこれ状態だった。

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