第8部 第2章 廃病院

「でだ。何故、俺も行く事になっているのかな? 」


「パーティーメンバーだし」


 そう一真が愚痴る優斗を宥める。


「まあ、魔物が出るなら俺は良いが」


 などと、颯真に幽霊と言わずに魔物と説明したらしい兄を私がジロリと見た。


「あんまり変わらんだろ? 」


「んなわけあるか」


 私が兄に突っ込んだ。


 だが、兄は奇麗にそれをスルーした。


 自分にとって都合の悪い事は鮮やかにスルーするのがいつも通りで素晴らしいくらいだ。


「大丈夫なのか? この面子で? 」


「いやいや、真顔で言われると俺も困るんだが」


 勢いで賛成して、兄の提案にうまうまと乗ってしまった一真が現実を考えて絶句した。


 私と颯真と兄と魔法使いの爺さんと優斗。


 この面子で何も起こらないってあり得ないだろ。

 

 しかも、一真はヤクザの爺さんゾンビも連れて来ていた。


 ゾンビと幽霊ってあんま変わんないよな。


「妹が大翔さんが来るならって来ようとして止めるのに必死だった」


 そう優斗が愚痴る。


 たしか、一真の話だとクォーターの美少女だったな。


「何で、兄さんが来るならになるんだ? 」


「いや、結構、大翔さん有名だから、空手の雑誌なんかで特集されるし、それで見たことあるから会いたいとか……まあ面食いなんだ」


「なるほど」


 兄が満更でも無いように笑った。


 大学でもモテモテらしくて、困ったもんである。


「で、もっと怖い事実があってな……」


「なんだよ」


 優斗が声を潜めた。


「妹が颯真のスマホの画像を見たら会わせろと食いついてな」


「それは重症だな」


 面食いもそこまで来ると困ったものだな。


 確かに、兄もモテモテだが、颯真も負けず劣らずのハンサムだ。


 だがな。


 兄もどうかと思うが、颯真は中身がやばすぎる。


 兄の残念を通り越して危険だからな。


「まあ、そうだな」


 魔法使いの爺さんが頷く。


「その私が心に思った事に相槌を打つのを何とかしろ」


「流れ込んでくるのだから仕方なかろう」


「流石に夜に行くから親も止めてくれたから良かったが……こっちも大変だった」


「いや、大変なのはこれからだがな」


 優斗のため息に一真が突っ込む。


「いや、お前が考えたんじゃないのか? 」


「そうだろ? 」


 一真に優斗と私が突っ込んだ。


 だが、一真は両手をこの方ですって差し出すように私の兄を見た。


「そう言えばそうだったな……」


「ええ? ひょっとして、大翔さんってあの廃病院の事を知らないんですかね。親は転勤してきたばかりだし、一人暮らしで大学に行ってるって言ってましたよね」


 優斗が少し慌てた顔をした。


「やばいのか? 」


 私が真顔で聞く。


「県で屈指……いや日本で屈指の心霊スポットだ」


「マジか」


「そういうインパクトのあるところで無いと駄目だろ」


 そう兄が苦笑した。


「俺ですら噂は聞くからな」


 そう颯真が答える。


「まあまあ、そのおかげで檀信徒の不動産屋が買っても激安でな。何より、どうせ取り壊すから破壊もオッケーって事らしいから、腕を振るえるだろ」

 

 などと兄が気楽に颯真の魔法使いの爺さんに話す。


「まあ、<忘却の剣>は魔物も斬れるから、霊も斬れるしな」


 そう颯真は呑気に宣った。


「魔法も魔物も霊も同じじゃし」


 そう魔法使いの爺さんも笑った。


 それで、兄と颯真と魔法使いの爺さんも笑った。


「あの……近所に建物は無いけど山だから火事は困るから」


 そう一真が注意した。


「あの……三日月病院ですかね? 」


 そういつも無口のヤクザの爺さんのゾンビが聞いてきた。


「ああ、そうですけど」


 兄がそう笑った。


「あそこはヤバいですよ」


 そう無口のヤクザのゾンビの爺さんがぼそりと呟く。


「な、なんかあるの? 」


「病院の入院患者を点滴の薬の入れ間違いで何人も殺してしまう事件がありまして。それでその時に患者の管理体制がガバガバ過ぎたのがばれて、処罰されて院長が自殺。んで、その後、うちの敵対してる組が廃病院になったんで、そこと敵対してたうちの組員を攫って拷問して殺しに使ってたんですわ」


「その看護婦の点滴の薬違いで患者が大量に亡くなって院長が自殺って聞いたけど、その後の話は知らないな」


「ええ、それはあっしみたいな半端者しか知りません。そもそも、事件自体が40年くらい前ですから」


「40年って凄く古くないか? 建物は大丈夫なのか?  」


 私が少し驚いた。


「まあ、開業したばかりの事故だから、まあ、鉄筋だし大丈夫じゃないの? 」 

 

 兄が凄く軽かった。


「まあ、それ言ったら、向こうの城なんか石造りで200年とか普通だったしな」


「女神の大聖堂とか800年前とかに建ったって言ってた」


「いや、向こうの異世界の話は知らんがな」


 私が魔法使いの爺さんと颯真に突っ込んだ。


 まあ、でも地震が無ければそれくらいは普通に持つだろうし、この街は大地震の想定の場所にはなってないし、そんなものかと思った。


「で、誰が映像を撮るの? 」


「最初は信徒さんでする話だったが、この廃病院と聞いてビビって来なくなった。しょうがないから、ほら、手振れ防止機能のしっかりした高い奴で俺が撮影する」


「兄さんが? 」


 私が驚いた。


「いや、何故、驚く? 」


「メカとか昭和並みに壊れたらパンチで直すとか言って、破壊して無かったか? 」


「いや、それは常識だろ? 」


「心霊系は普通に撮影のビデオが止まったりしますから、それはしないでくださいね」


 慌てて、一真が注意した。


「ほほう、そんなのあるのか? 」


 魔法使いの爺さんが感心している。


「良くあるぞ。うちの寺は祈祷してるからな。心霊のせいでカメラやビデオカメラが止まるとかが起こるのは知っている」


「ほほう」


「心霊写真とかあるのか? 」


「大体は間違いだがな。だが、本物もある。で、問題は映るのは知らせたいからだから問題は無いが、実際にやばいのは祖父の話だと何も映ってないのがやばいらしい」


「それは初耳だな」


「映らないでやばいのは命を取りに来る奴なんだそうな」


「ほぅ」


 私が感心した。


「そういえば、心霊写真でも民族性は出るそうな。日本人とかの場合、集合写真で隅にひっそりと映るが、アメリカ人の場合、ど真ん中でピースサイン出してたりするのがあると祖父から聞いたことがある」


「それはネットでも聞いたことがあるな」


「となると、今回女神様の為ならと不動産を買ってくれた信徒さんが急いで除霊してくれって真剣な顔して騒ぐので、何かと思えば、不動産屋が持ってる間は良いんだが、個人で買って名義変更すると次々と年内で死ぬってのは本当なのか? 」


 一真と私の話に兄が突っ込んできた。


「いや、そんなもの買わせたのか? 」


「良くある大げさ話だと思った」


 私の突っ込みに軽く兄が笑った。


「いや、多分、それガチだと思う。その話は聞いたことがあるわ」


 一真が少し慌ててた。


 それでようやっと頼んでいたタクシーが2台来たので乗り込んだ。


 すでに午後9時で真っ暗だった。

 

 私もそう言うのはあまり信じないが、優斗が横でいろいろと聞いてたせいか真っ青になっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る