第7部 第6章 交渉は終わらず
住職と檀信徒総代達の米軍ヘリと金髪少女の記憶が消えたために、そのまま今後についての話し合いが始まった。
消えているという事はあの金髪の少女は消えたのか。
魔王よりも魔力が強いとか言っててあっさりである。
まあ、颯真と魔法使いの爺さんに聞くと、さっきのは本当の必殺技らしくて、後はエクストラモードを使って使用するくらいしか上は無いとか。
さらに、空に撃ったので影響は目に見えなかったが、両方とも対地でやると巨大な城を両断したり消し飛ばしたりできるとか。
こんな変な人間兵器を戻してくるなと女神には言いたい。
そして、まさかの、私と私だけでなく浅野兄妹と言うあの少女の指摘だ。
なんかあったっけ?
それまでの人生でこんな異常な事は無かったはずだ。
意外と記憶は良い方だから、記憶の空白の期間は無いはずなんだが。
兄も俺も覚えは無いなと答えた。
考えられるのは上の兄が亡くなった事件の関係なのかもしれないが。
一方的に轢かれて亡くなった上の兄に、こんな異常な敵といろいろあるとか大それた事をする暇があったのだろうか。
正直に言って、浅野兄妹の良心と呼ばれるくらい非常に常識的な兄だったので、逆に大したことは出来ないと思うのだが……。
下の兄の名を出すのもなんだが、大翔兄さんみたいにキレだすと簡単に人間としての一線を超えれる、そういう奴でないと、こんな化け物連中と関わるなど無理なはずだ。
「いや、お前の方が容易く一線を超えてると思うがな。キレて超える奴よりは普通に一線を超えてる奴の方がやばいだろ」
魔法使いの爺さんが私の心を読んだのか、突っ込んできた。
「いや、その心を読むのをやめろよ」
「流れ込んでくるんだから仕方あるまい」
「いや、二人とも、そんな話は良いから、お前のお兄さん止めたら? 」
優斗がそう突っ込んできた。
信じがたい事に兄もパーティーメンバーになっていた。
そして、そんな職業を聞いたこと無かったのだが、軍師とか出ていたので本人がマジで喜んでいた。
「俺! 軍師やってみたかったんだ! 」
などとアホな事を言い出していた。
いや、軍師なんてパーティーメンバーにあるのはおかしいだろ。
なんのファンタジー異世界なんだ?
そして、調子に乗った兄は、俺に任せろと言うと、聖女のバイト料の値上げと、最終的には聖女の部分だけ地区教会化を提言していた。
「いや、暴走しだすと止まらんのだ」
「兄妹してかよ! 」
「なんか、想像していた大翔先輩と本当に違うんだけど……いや違い過ぎるんだけど……」
優斗の言葉も解せねが、一真の思ってた大翔先輩ってなんなんだ?
軍師の職業名だけ見て大喜びで兄が大聖寺との話し合いに入ったので、詳しい軍師のスキルとか見てないが、何のスキルがあるんだろうか。
少なくとも、交渉を見る限りでは全く、力押しで交渉をしているようにしか見えない。
作戦も無く言い張ってるだけだ。
「あの、地区教会化って、あれか? 昭和の新宗教が良くやったやり方かな? 」
「何だ? それ? 」
魔法使いの爺さんが私に聞いてきた。
だが、流石にそんなのは知らん。
「いや、新宗教って意外と稲荷講社とか金光教とか日蓮宗とか真言宗とかそういう大きい教団の教会長をしてから信徒を引き連れて独立して起こってんだ」
「へえええ。でも、昔ならともかく。今時新宗教なんてって思うけど? 」
「それは思うな。私の子供の頃とかは、まだネットが発達してなくて、相談場所が無いからな。大学とか就職で田舎から出てきた人間の困り事に親切に相談してって感じで信者を増やしていたけど、今はネットで相談できるから。その宗教の変な噂もすぐに書き込みされるし、昔みたいには無理だと思うんだが……」
などと一真の父親の副住職に突っ込まれた。
兄を一真の祖父の住職に任せて、こっちに来たのだ。
「いや、多分、兄はネットの聞きかじりで話してんだと思います。すいません」
「この小さな街にはうちの寺だけで充分だから、教会化とか無茶だし」
「多分、本音は私のバイト料値上げが目的では? 無茶な要求をしてそっちは引っ込めて譲歩しましたという状態にしたいのではと。ぶっちゃけ、兄もいっちょ噛みたいだけかなと……」
「なるほど、サポート料でいいのかな? 」
「……」
私が一真の親父の副住職殿を見ると目が金に見えた。
なるほど、一真の祖父の住職に兄を任せて、こちらに本音を探りに来たわけか。
「虚々実々だな」
魔法使いの爺さんが苦笑した。
「あんたに言われると辛いわ」
「まあ、何か買いたいものがあるみたいだな。お前の兄は……」
「なんとわかりやすい……どこが軍師なんだ? 」
「まあ、攻撃に関しては的確だったがな」
「そうか? たまたま倒せただけだろ。失敗してたら国際問題になるだろうに」
「いつもはあんたも適当なのに……」
「ここまで大きな問題は誤魔化せんだろ」
優斗の突っ込みに私が言い返す。
「どちらかってーと、そういうのは良いから、逆になんで浅野って名前を知っていたのか、しかも浅野兄妹って指摘してたのがやばそうだがな。何かを知らないと兄妹って言わないだろうし。しかも厄介そうに言っていたし……」
「だよねぇ」
「まあ、これで逃げれんぞ」
そう魔法使いの爺さんはにやっと笑った。
非常に不本意であった。
しれっと私の意見を聞いた一真の父親の副住職の再度交渉参加によって、兄の要求は自分のサポート料の時間給をいくらにするかに移っていた。
五円十円の時間給の争いを聞いてて悲しくなってきた。
やはり、上の兄が生きてないと、うちの浅野家は駄目かなぁ。
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