第7部 第5章 初めまして 後

 そうしたら、想像を超えたことが起こった。

 

 ってーか、するか? 普通?


 容赦無さすぎだろ。


 颯真が躊躇なく剣で一瞬にして金髪の少女に斬りつけた。


 そして、それは火花が散って何かで弾かれた。


「お、お前っ! 馬鹿だろ? 」


 私が動揺しまくりだ。


 そして、その行動は一真の爺さんの住職と父親の副住職達にはあまりの速さで何が起こったかわからないで、檀信徒総代達とぽかーんと見てた。


 14歳の金髪の白人の少女はあきれ果てた顔で颯真を見た。


「アナタハマダテキニナルカドウカモワカラナイアイテニコウゲキスルノカ? 」


 金髪の少女が責めるように話す。


 そして、もう一人を見てさらにため息をついた。


 魔法使いの爺さんがすでに魔法の詠唱に入っている。


 杖から凄まじい光の輪が迸っていた。


「待て待て待て、寺は壊さないって言ったじゃんかっ! 」

 

 一真が絶叫する。


 優斗が流石に魔法使いの爺さんを取り押さえた。


「とにかく。相手は攻撃してないし、敵になるとも宣言すらしてないし」


 そう私が魔法使いの爺さんに叫ぶ。


「イヤ、ドチラカトイウト、ソチラノカタヲトメテホシイ」


 そう金髪の少女は私に颯真を見て話す。


 見たら、剣を中腰で腰だめして、刃先を見せないように背後に回しながら何か異様な力を集中させている。


<忘却の剣>から黒い稲妻のようなものが出ている。


「待て待て待て! まだ敵じゃないっ! 」


 私が絶叫した。


「いや、しかし。ハジメマシテなどと言う魔物はほぼ敵として戦うパターンだが……」


 颯真が何を言っているんだって感じで話す。


「いやいや、それ礼儀でしょ? 」


「そうやって、油断させて攻撃してくるんだ。話し合いとか言うのは隙を作るためばかりだったぞ? 」


 颯真が信じられない話をした。


「虐殺勇者が攻撃を始めた場合はほぼ敵だ」


 魔法使いの爺さんも信じられない事を言う。


「いやいや、先に攻撃して戦いになっている場合があるんでは? 」


「本当だよ」


「そうとしか考えれないんだが……」


 そう一真と優斗が話す。


「それは仕方あるまい。どうせ戦闘になるのだ」


「こちらが致命的な一撃をくらった後に無かった事に何て出来ないからな。戦いは先制攻撃で始まって、それで終わる戦いが意外と多い」


 颯真と魔法使いの爺さんが好戦的な話を続ける。


「いや、それは正しい。先輩の親友の半グレの喧嘩屋が最初に相手の顔面を殴ることからやってるから」


 寄りにもよって兄が同意した。


「いや、兄さん。それはどうなの? 」


「先輩の親友によれば顔面パンチで鼻を狙うと素人が殴っても相手が鼻血を出すそうだ。それで9割は鼻血で戦意喪失して謝ってくるそうな。最近の奴は殴られ慣れてないかららしいんだが」


「いや、残りの1割は? 」


「鼻血を出してにやっと笑ったりしたら、即座に土下座するんだと。大体、そういう場合でにやっと笑うのはバーサーカー並みの喧嘩が強い奴多いとかで……」


「そういう卑怯なの喧嘩屋っていう? 」


「宮本武蔵だって勝てる奴としかやんないじゃん」


「うわっ、大翔先輩……ちょっと思ってた人と違う」


「ええ? 」


 兄の言葉でショックを受けている優斗と一真であった。


「いやいや勝てる喧嘩しかしないから強いって言われるんだぞ? 」


「いやいや、空手家としてはどうなの? 」


「俺は喧嘩とかしないもの。空手家とか格闘家って凶器を所持してるって見なされるから喧嘩して捕まったら刑罰が重いし……」


「そういうリアルな話はいいんだけど」


「だから、喧嘩屋はわざと黒帯とか段位を持たないようにしてるそうだし」


「えぐい話だな」


「どんな喧嘩屋なんだ? 」


「基本、その人はいきなり相手の横に現れて、顔面殴るのが得意だって」


「もう、喧嘩じゃねぇよ。それ襲撃だよ」


 兄の言葉に私が突っ込んだ。


「タチノワルイユウシャトマホウツカイダトキイタガ、コチラモカ……ヨリニモヨッテ、アサノキョウダイダト? マオウニキイテイルイジョウニ、ショウワルノメガミダナ……」


「は? 何で、私の名前を? 」


「ほら、何かあるって言ったじゃん」


「やかましいわ! 」


 魔法使いの爺さんの突っ込みに怒鳴り返した。

 

 何で、私が……まてよ……兄妹だと?


「俺、ここでバイトすらしてないんだけど……」


 そう兄も困惑していた。


「ヤッカイナコトニナッタ。ソノウエハナシアイモデキナイ、サルミタイナヤツラトカ……」


「いや、まあ、話し合いで済むなら話し合いで構わないが……」


 そう私が間に入る。


「イヤ、コウゲキシテキタジテンデ、ハナシアイハオワリダナ」


 そう金髪の少女は薄笑いを浮かべた。

 

 その後は激しい剣音と火花が飛び散る有様だ。


 もう容赦せずに颯真が攻撃を始めたからだ。


 やばすぎだ。


「ほら見ろ! 」


 そう言いながら颯真が連続で斬りつけ続けている。

 

 何かバリアみたいなのが金髪の少女には、あるみたいだ。


 全てが弾かれて火花が飛び散り続けている。


「その調子だ」


 そう魔法使いの爺さんが微笑んで再度杖を構えて呪文を唱えだした。


「待て待て! お前! 止めろ! 」


「いやいや止めなくていいんじゃないか? 」


 私が魔法使いの爺さんを止めようとしたら、兄が止めた。


「ええええ? 」


「多分、バリアを出している間なら、向こうは攻撃できないんだ。バリアごと破壊できるならやった方がいい」


「いや、颯真は? 」


「彼は死なないと思う」


「思う……かよっ!  」


 なんという兄の容赦のない評価。


 私が突っ込むが兄は止める気は無いらしい。


「良かろう。わしの最大最強の攻撃を見せてくれるわ」

 

 兄の煽りを受けて、炎のようなオーラを魔法使いの爺さんが揺らめかせる。


「ふ、不動明王じゃっ! 」


「なんてこった。魔法使いでは無かったのじゃ」


 などと古い信徒が騒いでる。


 今、どれほどやばい状況になっているのかわからんらしい。

 

 あの魔法使いの爺さんは街ごと吹き飛ばす気だと分かる。


「待って! 」


「止めて! 」


 一真と優斗が絶叫した。


 それで私が慌てて盾になるように魔法使いの爺さんの前に両手を広げて立った。


「モウイイ。ドンナヤツラカワカッタ。キョウハアイサツダケノツモリダッタカラナ」


 私の姿を見た金髪の少女は忌々し気に呟くと消えた。


「消えやがった」


 魔法使いの爺さんが呻く。


 颯真も連続攻撃をやめた。


 相手がいなくなったからだが……。


 それにしても、あれほど凄まじい攻撃をしていながら颯真は息を切らしていない。


 本当にたいしたものだ。


「な。帰ったろ? 」


 兄が笑った。


「なんだ。その為にか……」


「ああ。話し合いにならないと大物ぶってる奴はああやって帰るからな……それにしても、サルだと? 俺もか? 」


 兄の顔が笑っていなかった。


 そういえば、昔、まだ兄が子供で背の低かった時に空手の試合でぴょんぴょん跳ねて蹴る様を本人は牛若丸(道場の先生が爺さんなんで表現が古い)とか先生に言われたと胸を張っていたが、単なるぴょんぴょんサルじゃねぇかと貶した仲の悪かった道場の先輩を練習試合に見せかけて血祭りにあげたことがあったっけ。


 間違いない、兄はブチ切れていた。


 何故か知らんが、サルと言う言葉は兄には禁句だった。


 あの金髪の少女はヘリに戻ったらしくて、米軍のヘリは海の方に大聖寺の上空から離れて行った。


「なぁ。お二人さん。ああいう遠距離を攻撃できる技とかあるのかい? 」


 離れて海に出てゴマ粒のように見える米軍のヘリを見る、兄の張り付いたような笑顔が怖い。


 やべぇな、これ……。


「あるぞ? 」


「ある」


 颯真と魔法使いの爺さんが答えた。


「知ってる? 話し合いが決裂したとしても、ああいう威張った奴って用心深くなくて、意外と帰る時って背中が無防備なんだよ」


 兄が優しく微笑んだ。


 颯真も魔法使いの爺さんも同じように優しく微笑んだ。


 そして、颯真と魔法使いの爺さんとの二人の凄まじいオーラが爆発した。


 またしても<忘却の剣>からは黒い稲妻が、そして魔法使いの爺さんは炎のようなオーラが拡がった。


「聖剣七星落とし! 」


「偉大なる神の浄化! ホーリークロス! 」

    

 魔法使いの爺さんもさっき詠唱は止めたけど終えていたのだろう。


 米軍のヘリがキラッ光って消えた。


「お見事! 」


 兄がそう拍手した。


「やっちまった……」


 私がその場に崩れ落ちる。


 一真と優斗も固まっていた。


 まさか、米軍と関係ある敵だったとして、それを消し飛ばしてしまうとは……。


「まあ、心配するな。剣は使ったし。関係したものは全部データも記憶も消える」


「ホーリークロスを使えばあんなもの跡形もなく消える」


 などとこの馬鹿二人は宣った。


 私はめまいが止まらなかった。


 そして、住職も檀信徒総代達も固まっていた。


「心配するな。何とかなる。今までもそれでやって来たんだろ? じゃあ大丈夫だ」


 そう兄が微笑んだ。


「……なるほどな」


 私もそれで納得した。


「いや、納得するか? 」


「待て待てっ! 」


 優斗と一真が騒ぐ。


 だが、またしても今回の件の全ての記憶は住職達と檀信徒総代達から30分ほどで消えていた。


 恐るべし<忘却の剣>であった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る