第7部 第4章 初めまして 前

 そうして、私達が乗ったハイヤーが寺についた。


 そうしたら、管長をしている一真の祖父と副管長の父がいた。


 まあ、前の宗派から離脱して10年もたたないので、住職と副住職としての名乗りのままだが。


 独立したら教団の代表として代表役員の管長と副管長になるそうな。


 一真にハイヤーでそう説明されたが、別にどっちで呼んでもいいよって話だったので、何の為の説明だったのか未だに良く分からんが。


 一緒に恰幅の良いお爺さんもいて、それが檀信徒総代だった。


 ぶっちゃけ、信徒の代表である。


 寺は宗派のものではっきり言うと檀信徒のものである。


 住職はあくまで、宗派から派遣されたものとされるそうで、独立には、この檀信徒総代が非常に重要な動きをしたそうだ。


 これも一真に説明された。


 住職が亡くなって、僧侶になる子供がいない場合は、寺から残った家族は出て行かないとならない。


 先祖代々住職として住んでいたとしても、それが宗派のルールなのだそうだ。


 だから、藤子不二雄A先生のように悲哀に満ちた話になると一真に説明された。


 父であるお父さんが亡くなられて、家族で寺を出て、その後母と子ですごい苦労して暮らしてた。


 藤子不二雄A先生が僧侶にならなかったのでそうなった。


 何故、ここで一真の話が藤子不二雄A先生の話になるのか良く分からなかったが、実話なんだそうな。


 まあ、宗派によれば命がけの修行を終わらさないと駄目なんで、親が子供に継がなくても良いよと言うパターンはまれにあるそうな。


 もっと多いのが修行に挫折して逃げ帰るパターンだそうだが、どちらにしろ継ぐ人はいなくなる。


 世知辛い世の中である。


「ああ、聖女のバイトをしている浅野日葵の兄の浅野大翔です」


 そう兄のアピールが始まった。


 目が金に見える。


 まずいな……私の聖女を止めに来たのじゃないかもしれない。


 これは困った。


 兄の反対で……家族の反対で……と言い訳が使えなくなる。


 やばくなった時に逃げれないじゃないか。


 兄のアピールを仕方なく見て、愛想笑いをする私であった。


 私の困惑をよそに檀信徒総代や一緒にいる古くからの信徒に日葵の兄ですを連発する兄であった。


 本気でやべぇな。


「どうした? 」


 その時だ。


 魔法使いの爺さんが颯真に突然に聞いた。


 すでに、颯真は剣を顕現させていた。


「誰か見ている……」


「何が? 」


「わからん。感じないか? 」


「全然」


 魔法使いの爺さんがそう首を振った。


 こう言う探知とかは魔法使いが最初じゃないのか? 


「魔王か? 」


「いや、魔力量がそれより上だ。それで隠形してる」


「え? 」


 その一言で私も驚く。


 魔法使いの爺さんのもっとやばいものと戦うという言葉が頭でぐるぐるする。


 勘弁してくれ。


「敵意は? 」

 

 そう言うと魔法使いの爺さんが杖を顕現させた。


 レゲエの格好した爺さんが杖を出しても……。


「待て待て待て、何をやっている? 」


 一真が真っ青になる。


 寺が大変な事になると驚いたのだろう。


「いや、敵意はまだないな」


 そう颯真が答えた。


「いや、敵意が無いのに攻撃するなよ」


 私が突っ込んだ。


 敵を増やしてどうなるよ。


 と思ってたら、もっと厄介なことが起こった。


「そ、それが剣かっ! 勇者の剣なのだな! 」


 そう一真の爺さんの住職が叫ぶ。


 だが、おどろおどろしい剣なんだけどな。


「本当に勇者なんだな」


 檀信徒総代の爺さんも興奮していた。


「いや、触ったら駄目だ。刺されたら本当に死ぬ。死体も小鬼に食われるんだ」


「異世界の神じゃがな」


「蟻だぞ? 」


 一真の必死に止める姿に、横から初めての人には分かんない事を突っ込む魔法使いの爺さんと颯真であった。


 ううむ、ここで小鬼とかを見てドン引きされても困るのだが……。


 まずは一真に寺に相談しに行くが普通の信徒には会わないようにとお願いしておいて良かった。


 檀信徒総代とそのまわりの古くからの信徒だけなら、何を見ても大きな騒ぎにならないだろう。


 これは勇者や聖女と違うと切り捨てられる可能性もあるが……。


「なるほど、異世界の神で小鬼……鬼神というものじゃな」


「おおおぅ。護法の神ですな」


「毘沙門天みたいなものですか? 」


「いやいや、魔物を食べているなら夜叉鬼神の類の天部の麾下の眷属でしょうな」


 などと勝手に盛り上がっていた。


 あの不気味なものが毘沙門天とか……。


 まあ、天部の神様で武神は夜叉鬼神が多いから仕方ないのだが、毘沙門天などは一部の宗派では如来に近い扱いもされているとか……。


 そういや、仏教はいろんな方々の説と神仏習合もあいまって、何でもありだから、正当な話で言うと女性の如来はいないのだが、明恵さんとか一部の高僧が「仏眼仏母」を如来として見ているから、諸説入れると、もうよくわかんない話が多い。


「いや、お前さん。本当に腹が座っているな。こいつがやばいって言ってるときは相手に敵意は無くても大体最後は無茶苦茶な凶悪な災厄になるパターンだが」


「そんな知らん話を言われても……」


 私が動揺した。


「なんだ。こっちで何かあるのか? 」


 そう兄が不思議そうに聞いてきた。


「こちらの世界に危機が訪れるので、それに勇者と聖女達を遣わすと言うのが、夢枕で女神から言われた話で……」


 管長と言うか住職の一真の爺さんがそう話す。


「いや、うちの妹はバイトだし、別に異世界から来たわけでは無いけど……」


 兄がストレートに答えた。


「いやいや、そちらの河村颯真君もこちらの世界から向こうの世界に行って勇者として帰ってきたし、そこの大豆生田外郎(おおまめうだういろう)さんも向こうの世界で100年くらい暮らして大魔法使いになって戻ってきたらしいから……」


「ええ? 魔法使いさん、そんな名前? 」


 管長というか住職の一真の祖父に説明されて兄が違う方に驚いている。


「その名前はあまり言わないで欲しいがな……」


 魔法使いの爺さんがそう顔を歪ませた。


「一応、手を尽くして調べたら行方不明になってるけど、戦前の戸籍にあったんだ」


 そう檀信徒総代が調べてきた戸籍の写しかなんかを出した。


 どうやって取得したのかが怖い。


「120歳なんで死んでる事にはなっていた」


 そう一真の爺さんの住職が説明した。


「まあ、これだけ長い間、行方不明になってればなぁ。戦争もあったみたいだし」


 そう魔法使いの爺さんが少し切なそうだ。


「家族はどうなんだ? 」


「曽孫が東京にいるようだ……」


 優斗がそう気の毒そうに聞くと一真の親父の副住職が答える。


 管長とか副管長とか言いにくいので住職で統一するが……。


 曽孫では会っても互いに分らんだろうな。


「あれか……」


 いきなり空気を読まない感じで颯真が空を見ている。


「あれって? 」


 どう見てもヘリコプターだ。


「米軍のヘリコプターなんだが……」


 兄は目も良かったので困ったように呟いた。


「米軍って……在日米軍か? 」


「いや、そりゃあ、日本とアメリカは同盟結んでるから空母とかから来てるかもしれんけど、何で魔物退治で米軍? 」


 兄がマジで不思議そうに聞いてきた。


「いや、私も唖然としている」


 私も素直にそれを認めた。


 いやいや、陰で何か倒してるだけなら良いが、相手が国家権力とか困るんだが……。


 そのヘリは大聖寺の上空でホバリングを始めた。


 だいぶ上空なのに五月蠅い。


「降りてくるぞ? 」


 そう颯真が呟く。


「ヘリがか? 」


 一真が騒ぐ。


 降りれそうなスペースが無いからだ。

 

 だが、想像していたのと違った降り方をそれはしてきた。


 飛び降りてきたのだ。


 しかも、まさかの少女が……。


 彼女は上空500メートルはありそうな場所から何もつけずに飛び降りて来て、ふわっと目の前に降り立った。

 

 白人の金髪の少女で14歳くらいか? 


 それでいて、瞳孔が変だ。


 蛇のように見えた。


 彼女はそんな上空から飛び降りて来て、こちらを見てスカートの裾をつまんで一礼してきた。


 西洋の礼法のカーテシーとか言う奴だ。


「ハジメマシテ……ワレラガカミノシシャトシテキマシタ」


 そう、こちらを見て陶器のような肌で笑った。

 

 まるで感情を感じなかった。


 しかも、使者なのに神の使者とか、さらに魔王より魔力量が多いとか。

 

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