第6部 第3章 追跡者

 またしても、あのぼろマンションの公園に来た。


 まさか、本人が思わなくても犯人は殺人現場に戻ってくるという事なのだろうか。


 この展開ばっかりじゃんか。


 そう私がイラッとした顔で、のびている優斗と魔法使いの爺さんを見た。


 自分で倒しといてなんだが、気持ちよさそうに気絶しているのでムカムカした。


 かかとでも開いてる口に落としておこうかな……などと考えると、颯真があの<忘却の剣>を出した。


「爺さんを消すのか? 」


 つい嬉しくなって微笑んでしまう。


 めんどくさいのはいらんし。


 いまなら、パーティーメンバーで無いから殺せると見た。


「いやいや、違う。この魔法使いの爺さんも女神に言われてこちらに来ているのに、殺すわけないだろ? 」


 まさかの颯真の正論の突っ込みである。


 凄く自己嫌悪した。


 まさか、颯真にそんなことを言われるようになるとは。


 本当に衝撃である。


 染まり過ぎているんだろうか、この状態に。


「気をつけろ。この爺さん、向こうの世界から何か魔物を連れてきてる……というか追われているな……」


 颯真が呟いて、あたりの気配を伺っていた。


「は? 」


「昔からそうなんだ。魔法の詠唱に時間がかかるので戦闘は誰かのフォローが無いと使えないやつでな。全ての勇者の居場所を把握しといて、何か敵に追われると勇者のとこに来て押し付けるんだ。一緒に戦うとか本人はいつも言うのだが、まあ、魔法の詠唱が長いから結局、勇者が斬って終わりばかりでな」


「なんだ、その迷惑な奴は? 」


「昔から勇者達に嫌われてた奴だからな」


 思いっきり厄介な奴で困る。


 待て待て、迷惑が服を着たようなこいつが迷惑だと言うとは並ではないだろう。


 絶対に何かやばい落ちがある。


 間違いない。


 これ以上厄介なのに関わりたくない。


「どうだろう。ぶすっとその剣で刺してみたら」


「いや、だから、女神に言われてこの世界に来た魔法使いを女神の勇者が女神の剣で殺すのか? 」


「これ以上の面倒ごとは困る」


「仕方ないだろう。魔法をこいつがぶっ放さなければ被害は無いし……敵をあちこちでおびき寄せて来ては、すぐにこっちに振ってめんどくさい事になるだけで、本当に面倒くさいことをやって……んんんん……そうだな殺そうか? 」


 颯真がそう考えながら、いろいろと思い当たるやばい話が合ったのだろう。


 いきなり、剣をかざして魔法使いを刺そうか悩んでいた。


「私は基本的に荒事には関わらずだからな。ただ、今回は君のその行動を尊重したい」


 私がそう微笑んだ。


「なんでじゃああああ! 」


 いきなり魔法使いの爺さんが起き上がって叫ぶ。


「いや、言われてみれば関わって碌なことが無かったなと」


「いや、女神の使命で動く者同士じゃろ? 」


「ああ、そういえば……」


 颯真がはっと自分を取り戻したようになる。


「いやいや、とんでもないの。この聖女。まあ、確かに女神の聖女ってそんなのばかりだが」


 なぜか魔法使いの爺さんが私を睨む。


「こんなのばかりなのか? 」


 優斗も起きたらしくていきなり魔法使いの爺さんの話に乗ってくる。


「基本、女神の屑さで出汁をとったようなのを煮詰めたのが聖女じゃ」


「私は屑ではないぞ? 」


「いやいや、面倒くさかったら同じ使命の仲間を消すのか? 」


「1920年に転移して120歳だろ? そろそろ生きるのに飽いたころではないかと気を使っただけだ」


「まさに聖女の中の聖女だな……。すげぇな。本当に向こうから来たんじゃないのか?  」


 魔法使いの爺さんが感心して話す。


 どうも、納得いかない。


「こちらで勝手に選ばれた」


「選ばれるべくして選ばれた人材と言う事じゃな」


 そう魔法使いの爺さんは深くうなずいて納得していた。


 ますます納得いかない。

 

 そもそも、あれだぞ?


 かってに颯真に懐かれた挙句の聖女だぞ。


 誰もこんなのになりたいと思ってない。


 颯真を利用して亡くなった上の兄の復讐をしようとしただけだ。


「なんじゃ、そんなつまんない話なのか? 兄の復讐とか……」


「ああ、やられたら10倍くらいにして返さないと納得いかない性格なのでな」


「やっぱり、聖女じゃん」


 そう魔法使いが復讐と聞いて呆れたような顔をしたが、私の真実の本音を聞いて、納得している。


 解せぬ。


「とりあえず、魔物がどこにいるかだけ教えてくれ。あんたは魔法を使うな。街が半壊する」


「ふふふふふふ、わしは最強の魔法使い故な……」


「いや、強さを褒めているんじゃなくて、迷惑だと言っているんだ」


 そう私が颯真の言ってることを魔法使いの爺さんに分かるように解説した。


「なんじゃと? 」


 魔法使いの爺さんが心外だという顔をした。


「壁に止まった蚊を殺すのに、壁に上段突きで風穴を開けるようなものなのだろう」


 私が説明する。


 おそらく、そんな感じなんだろう。


「ああ、そんな感じだ」


 颯真がその説明に納得した。


 ちなみに、すぐ上の兄の実話だが。


「お前の兄の話なのか? 」


 心が読めるというのは困るものだ。


 即座に魔法使いの爺さんが反応してきた。


「自分のパンチの凄さを見せたいのかもしれんが、馬鹿すぎるだろ」


「いや、何か、わしはお前の兄に親近感を感じるがな……」


 魔法使いのジジイに私の兄が親近感を感じられても複雑だ。


「おい! 大豆生田外郎(おおまめうだういろう)! 早く見つけろ! 敵が逃げてしまう! 」


「その名前は止めろと言っただろうに……」


「大豆生田外郎(おおまめうだういろう)って名なんだ」


 優斗がそこじゃないとこに驚いた。


 まあ、でも、前に魔物は虐殺勇者が相手だと知ったら逃げると言ってたもんな。


 まあ、前回魔物を斬りそこなったから、余計に斬りたいのだろう。


「だが、感覚を共有で殺したのがバレてしまう話はどうなのだ? 」


「もうバレてると思うぞ。こいつは有名すぎるから。魔王ですら居たら最初に教えろって騒ぐらしいからな」


 私の疑問に魔法使いの爺さんが答える。


 身も蓋もない。


「むう、相手がお前だと気が付いたぞ! 」


 そう言うと魔法使いの爺さんはそのマンションの隣の建物の陰を指さした。


 結構、これが魔物だって感じで良く海外の想像の悪魔の絵で見る身長三メートルくらいの羊の頭の悪魔みたいなのが、颯真を見て物凄い金切声のような悲鳴をあげた。


 むう、本当に怖がられているんだなと実感できる悲鳴のような叫びだ。


 そうしたら、信じられないスピードで颯真が剣を構えて走る走る。


 その羊の頭の悪魔はさらにそれで混乱したらしくて、建物の向こうに逃げればいいのに、公園を横切るようにこちらに逃げた。


 まるで島津の退き口だ。


 そんなの通用するわけないじゃん。


 呆れてものが言えない。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る