第6部 第4章 アホが増えた

 颯真のスピードが上がる。


 羊の頭の悪魔は混乱していた。


 よほど颯真が怖いらしい。


 金切り声のような悲鳴を上げている。


 人がいない場所とはいえ、困ったもんである。


 そして、もっと困った事が起こった。

 

 その羊の悪魔が颯真の追撃を見て逃げ出した前に僧侶の恰好の奴と爺さんがいる。


「おいおい、あいつは何しに来たよ? 」


 私が呻く。


「ああ、そういや、一真がお前が悪魔を飼い犬にした話をしたら、凄く勉強になるとか言い出してな」


「まさかの予想通りかよ……」


「悪魔を飼い犬にしたとな? 」


 魔法使いの爺さんがそれに乗ってきた。


 待て待て、別にお前に話に加わってほしくないのだが……。


「確か、歴代の聖女の中で、聖女列伝とか言われる特別な聖女の中に聖アナベルと言う聖女がいて、悪魔に首輪をつけて飼っていたと言われて賞賛されていたが、同じ事をしているのか? 」


「いや、それで賞賛されるんだ」


 優斗がドン引きして突っ込んだ。


「それはいいが、一真のとこにまっすぐに悪魔が向かってるぞ」


 そう魔法使いの爺さんの話を無視して現実の話に向かう。


「弓で殺すか」


 慌てて、優斗が弓を顕現させた。


 だが、一真の横にいる爺さんが一瞬に動いて悪魔の腹にドスらしきものを刺した。


「あれか……新しいゾンビ……」


 身体ごとドスを固定して体当たりする刺し方で腹に刺した後にぐりっと刃先を捻っている。


 まんま昔のヤクザの刺し方である。


 何か知らんが、子供の時に近所の元ヤクザの爺さんに気に入られて、可愛がられていた。


 もう、90歳超えてるのにシャカシャカ動いて元気な爺さんで、夏の暑い時にも長袖を着ていた。


 後で気が付いたが、全身に入れ墨が入ってた。


 なんでも、昔やんちゃしててなとか笑ってたが、ヤクザの抗争で二人殺してた。


 勿論、刑務所には20年くらい居たらしい。


 しかも、全然それを気にしてなかった。


 生類憐みの令が出るまでは宣教師の手紙にあるように日本人ってすぐに相手をつまらない事で殺して、しかも全く罪の意識がないって驚きの話を書いてるが、そういう感じの爺さんだった。


 んで、その時にドスは身体に固定して当たって刺すのと、刺した後捻るのだと教えてくれた。


 少女の私にそんなの教える奴も教える奴だが、捻って相手の腹の中で傷を深くしてと言う話から、海に死体を投げ捨てた時に腹にガスがたまらないから浮いてこないなどと言う意味の分からん話もされた。


 それは本当に小学生の低学年の少女に話す話じゃないと思う。

 

 今考えるとボケてたのかもしれん。


「やったか」


 弓をつがえようとした優斗が弓に矢をつがえるのを止めた。


「いや、人間ならあれでいいが、駄目だな」


 そう魔法使いの爺さんが呟いた。


 確かに、人間ならやばい有刺鉄線もクマなら背中を掻くための<孫の手>扱いだ。


 身体の大きさはそれだけの差を生じさせる。


 何しろ身長が3メートルを超える魔物だ。


 流石に無理か。


「ふぅ、仲間を亡くしたか」


「いや、諦めっ! 早っ! 」


 私の呟きに優斗が突っ込んできた。


「本当に聖女の中の聖女だな」


 そう魔法使いの爺さんが感嘆している。


 そんなのいらんのだが。


 ドスを刺した多分ゾンビだと思う爺さんに必殺の一撃を加えようとした羊の悪魔よりも早く、凄まじい颯真の一撃が襲った。


 まさに両断だった。


 羊の悪魔は上半身がずれるように二つに分かれていった。


「相変わらず、糞強いの」


 そう魔法使いの爺さんがこれまた感嘆するほどだった。


 そうして、分断された悪魔は美味しそうにまた小鬼が出て来て食べているようだ。


「あいつら悪魔も食べるんだ」


 少し私は感心していた。


「小鬼の事か? あいつと共生関係らしいからな」


 そう魔法使いの爺さんが呟いた。


「……考えないようにしてたんだが、やはり、そうなんだ」


「ああ、あいつの周りにいたら、いくらでも食べるものはあるからな。あれは女神とは別の異形の神みたいなもんだから」


「神なんだ」


「奴は蟻と呼ぶがな。見るものによって姿が違って見えるらしい。わしも小鬼に見える」


 そう魔法使いの爺さんが呟く。


「……あれはな。本当にやばいものと戦う勇者としか共生せん。魔王がそのやばいものかと思ってたが、多分、もっとやばいのと戦うんじゃろうな。あの男は……」


 優斗がその言葉で瞳孔が開いてる。


 同じパーティーでいる以上、それは私達にも同じ事であるという事だ。


 仕方ないので、推薦の早い奴で大学を受験しようと思う。


 普通の受験よりは早く合格できるし、それで聖女から卒業できる。


「いや、無理じゃねぇかな。あんたもなんかあるぞ。多分。普通じゃねぇもん」


 そう魔法使いの爺さんが苦笑した。


 うむ。


 聞かなかったことにしよう。


 私にそんな話は通じん。


「ひょっとしたら、聖女列伝の筆頭になりそうな聖女だな……」


「私はそういうのは聞こえないから」


 即座に耳を両手で塞いで宣言した。


 そうしたら、大豆生田外郎(おおまめうだういろう)が苦笑しやがった。


「だから名前は出すなと」


 そう大豆生田外郎(おおまめうだういろう)が愚痴る。


 心を読めるので本当に面倒くさい。


 そのやり取りを優斗がドン引きした顔で見てた。


 そうしたら、小鬼が魔物を食べつくしたみたいで、颯真が剣を消した。


 そして、一真と爺さんと颯真がこちらに歩いてきた。


「やはり、ヤクザをゾンビにしたか」


 予想した通りだったので、そう私が一真に突っ込んだ。


「ああ、うちも急に繁盛するのはいいけど、それを狙ってか知らんが、いろいろと変な奴等が近づいてきていて、雰囲気が少し悪くなってきたからさ。曾祖父の代からうちはヤクザの葬儀も仏になればみな同じで積極的にやってたんで、こないだ亡くなった元ヤクザのおじいさんにゾンビになってもらった」


 などと一真が馬鹿な事を話す。


 私は呆れてものも言えなかったが……。


 ヤクザが静かにこちらに頭を下げた。


 なんか、あのヤクザ役とかやってた超有名な俳優に似ていた。


 爺さんだけど本当に男前だ。


「若い頃は人斬りで有名なヤクザさんでさ。で、聞いた話だと、ゾンビは定期的に聖女の小浄化をかけるって言ってたじゃん。ゾンビと一緒に暮らしてる人が向こうでいたって颯真の話であったでしょ」


 そう笑顔で一真が話す。

 

 ううむ、ゾンビのヤクザの爺さんの周りに何かいる。


「なんだ? なんかいるじゃん? 」


 優斗が同じように気が付いた。


「昔殺した敵対組織の人の霊だって」


「くっ、これだから坊主は……」

 

 そんなこと言うから、霊が見えちった。


 ヤクザの爺さんの陰からじっと少しだけ顔を出して見ている。


 知ってんのか?


 18歳までに霊を見るとずっと一生霊が見えるようになるって話。


「そうなのか? ヘぇ18歳までに霊を見ると駄目なんだ。わし120歳超えてるから大丈夫だな」


 口に出さないようにしてた話を勝手に心を読んで言ってしまう無神経さが非常にイラつく。


「嘘だろ? 見ちゃったよ」


 優斗がヤクザの爺さんの陰かちらちらとこちらを見る堅気でない処か人間でもない何かを見て呻く。


 いまさらだろ、もっと異形は見ているだろうに。


「ははははは、確かにな」


「その心に思った事に突っ込んでくるのやめろ! 大豆生田外郎(おおまめうだういろう)!  」


「だから、名前で呼ぶなよ」


 そう魔法使いの爺さんが愚痴る。


 だが、チラチラ霊に見られるのが嫌で先にこちらをやった。


「小浄化」


 私がそれをすると確かにチラチラ見てるヤクザの霊が消えた。


「おおおっ、本当に消えた。除霊もできるじゃん」


「いや、坊主に言われるといらっとするな」


「あくまで、坊主は祈祷で本尊に頼むだけだからな」


「お前もそういうとこがいらっとするわぁぁぁ! 」


 魔法使いだけでなく、この糞坊主もムカつく。


「なんだか、お前のパーティーは面白そうだな。わしも入るわ」


 などと魔法使いが颯真を見てよりにもよって宣った。


「え? 」


「は? 」


「あ、メンバーが増えた……」


 颯真のあの真っ黒なモニターみたいなのを見て呟いた一言で私の何かがはじけ飛んだ。


 私は魔法使いの爺さんにもう一度回し蹴りをしてノックアウトさせた。


「この糞爺が一番ムカつく」


 そう呟きながら

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