第6部 第1章 大魔法使い参上
その日は朝から嫌な気配を感じていた。
何故か、窓を見るとカラスがこちらを見ていた。
「うううむ。何か嫌な予感が……」
自慢じゃないが私の勘は当たる。
何故魔族を飼うのかと優斗に聞かれたが、家族を守るためだと話したら感心していた。
私個人は<聖女>としての力がある。
私の<懺悔>と<教化>は想像以上に使える力なので、滅多に負けないだろう。
だが颯真に聞いた話からすると、実は魔物から助けた後に襲撃されて殺されたりとかが良くあったらしい。
自分たちの面子を守るためにも、助かったという事にしたくないらしい。
面子も何も記憶にも証拠も何も残らないのに、陰湿な奴らだ。
だから、女神は陰湿を超える陰険を身に着けているのかもしれない。
相手に対して、即座に切り返す事は必要だからだ。
敵を倒して終わりましたでは済まないのだ。
相手の根絶でもしない限りは続くのだ。
まるで昔のヤクザと戦うみたいだ。
叔父が元受けの建設会社のえらいさんで、若い時にヤクザの下請けを良く使っていたと言うので聞いたことがある。
それはヤクザのイメージと違い、実は下請けで代紋持ちは代紋があるので組に恥をかかせないって事で丁寧でちゃんとした仕事をするそうな。
だから、昔は代紋持ちの下請けの建設会社の方を良く使っていたとか。
そういう部分では凄いきちんとしている
だけど、ヤクザだ。
叔父さんがビビった話だと、某銀行から融資のお金がおりんと代紋の社長に愚痴られたりしてたが、ある日、その建設会社のトラックがその某銀行に入り口に突撃した。
テレビで、その運転手が捕まってるので、よく見たら付き合いのある、その下請けの代紋の会社の若い子だったとか。
そしたら、電話がかかってきて、元請けさんの方で何か新しい仕事はない? って呑気に大紋の社長が聞いてきたから、いやトラックでおたくの若いのが某銀行の入り口に突っ込んでるけど大丈夫なん? って聞いたら、ああ、その会社潰れたからって笑って答えられて……。
新しく別会社を作って、そこに某銀行に新規の融資を頼んで、残した会社に若い衆を一人だけ残して、某銀行の入り口にトラックを突撃させたとか。
だから、その若い衆だけが責任とって刑務所行って、おかげで新しい別会社には某銀行から新しく融資が降りたとか。
まあ、昔の話だそうだから、今なら捕まるが、こんなの相手にしたくないわな。
という事で、あのポチ一号は家族の防衛の為である。
奴は徹底した私のコントロールで、もしもの時は上級悪魔として家族を守ってくれるだろう。
狼は群れ意識が強く、仲間を守るためには徹底的に戦うのだそうだ。
だから、うちの家族がお前の群れの仲間だと教え込んだ。
これで奴は上級悪魔の力でうちの家族を守るために命がけで戦うだろう。
そういう風に話をしたら優斗は感心していたが、まさか一真あたりにも話してんじゃないだろうな。
そうしたら、馬鹿だから一真が真似をするかもしれん。
ゾンビ用の死体はいくらでも探せばあるし。
何しろ坊主だもんな。
祈願寺で葬儀をしない寺もあるが、あそこは墓地もあるし、檀家も多いし。
なんか優斗から聞いて馬鹿な事を考えそうなんだが、まさか、今回の嫌な感じはその絡みだろうか?
そう思いながら、今日は焦っていたせいか、颯真がついてきてしまったが、校門から帰る。
出来たら、別の出口からと思ったが、待っている誰かに会えなかったら会えなかったで誰かが私を校門の前で探すのも困るしな。
すっかり聖女で有名人だし。
僧侶の恰好で一真に来られた日には急に増えた大聖寺の信徒が大量に集まるではないか。
正直、授業が終わって、帰る時には聖女様お疲れ様と言われるのすら辛いのだ。
特に助けてあげた藤井加奈の熱い目が怖い。
なんと、大聖寺の信徒になったとか。
そうやって私に嬉しそうに話してくるので、自称バイトの私は何も言い返せない。
馬鹿なんじゃないのか?
チョロ過ぎだろお前たち。
そんな訳で校門を出ると、想像を超えて黒いローブを着て杖をついた爺さんがいた。
まさか?
魔法使いだとか?
いやいや、そうでなくて私の聖女話に惹かれてきたコスプレイヤーだったら、もっと怖いが。
だが、爺さんだ。
コスプレイヤーはいないよな。
「おう、来た来た。久しぶりじゃな虐殺勇者よ」
その魔法使いはよりにもよって私ではなく颯真に声をかけた。
しかも、虐殺勇者だと?
そんなのが広がったらイメージが悪くなるじゃないか。
「その名前は止めろと言うのに、大豆生田外郎(おおまめうだういろう)。お前にこのわけわかんない名前があるように俺には河村颯真と言う名前があると話したろうが」
「ふん。本当にこちらに戻ったんじゃな。使い魔に探させたら、この高校におったからな」
そう魔法使いの恰好をした爺さんは吐き捨てるように話した。
大豆生田(おおまめうだ)か。
珍しい姓の一つだったな……。
ちなみに、塩、砂糖、味噌、醤油、酢、昆布、鰹も少ないが姓として実在している。
最近は外国人の帰化にともない、三都主とかあるが、一番すごいのは辺銀(ぺんぎん)では無いだろうか。
食べるラー油の元祖を作った中国人夫婦が帰化する時に自らの辺銀食堂(ぺんぎんしょくどう)からとった姓である。
もう何でもありなのだ。
「……ラー油? が食べれるのか? 知らないうちに世の中も変わったな……」
そうその魔法使いが呟いた。
「こ、心を読めるのか? 」
「ああ、読むぞ、こいつ」
そう、颯真が苦々しい顔をした。
「まあ、心の本音と発言が同じお前には問題なかろう。それよりも、このお嬢ちゃん凄いな。普通、こんな状況で呑気に珍しい姓とか考えないぞ? 」
魔法使いが苦笑した。
「まあ、<聖女>様だから」
そう颯真が話すと、魔法使いの爺さんがほうっという感じでこちらを見た。
「バイトだからな」
「バイトってなんだ? 」
「? 」
「わしは百年以上前にこちらから向こうへ行ったでな。1920年代くらいかな? 」
「じゃあ、内職だ」
アルバイトは1940年くらいに出来た言葉で、その前は内職だった。
「ほほう。知識が豊富じゃな……」
魔法使いの爺に感心されてもうれしくないが……と思ったら、ちょっとカチンとした顔をした。
それで本当に心が読めるんだと逆に感心した。
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