第5部 第5章 今日からポチ
「お前、何とかしろよ! 上級悪魔だって言ってたじゃないか! 」
そう菅原が泣きそうな顔で内山に叫ぶ。
「魔王だって、皆を見捨てて逃げるんだぞ? こいつの場合」
「俺に任せろって言ってたじゃんか」
「いや、他の勇者を送り込んだと思ったんだ。こいつじゃ、この世界も無茶苦茶になるぞ? 信じられねぇ! 全部破壊する気かよ、あの女神! 」
「そんな馬鹿な狂った奴を送ってきたのか? 」
「失礼な奴等だな」
そう颯真がムッとした顔をした。
「多分、厄介払いしたんだと思う」
私が答えたら、菅原も内山も納得したのか、がっくりと肩を落として項垂れた。
「わ、分かった。お前の言う事を聞く」
そう菅原は観念したように呻いた。
「よし、後で教化もかけるから」
そう私が冷やかに言い放つ。
「お前までそんな事を言うの? 」
颯真が傷ついた顔になった。
「いや、私はずっとそういうスタンスだったろ? それよりもだ。その魔物も渡せ! 」
「ええええええええ? 」
颯真が初めて動揺した。
「共感覚を持っていて、死んだらバレるんだろ? ならば、そいつは監禁するより、こちらで洗脳する」
私がそう断言した。
「洗脳って……」
「ランクがさっき3に上がった。どういう基準になってるかわからんが、パーティーだから、颯真が殺したら経験値が入るのかな? 教化の上のランクが新しく出来た」
そう私が苦笑した。
「魔物たる私を教化だと? あの女神の奴隷になれと言うのかっ! 」
内山が叫ぶ。
女神の使徒とか眷属なら分かるが、奴隷とな?
魔物にこんな事を言われるなんて……。
なるほど、聖女がこんなのだから、女神も相当タチが悪いんだ。
内山の肉体が膨れ上がって毛が全身に生えた。
そして獣の顔に変わっていく。
狼男だったようだ。
それを見て優斗がびびりまくる。
「なるほど。ちょうどいい。今回の転勤で古い一戸建ての借家に住むようになったので柴犬が欲しいと思っていたんだ」
私が満面の笑みを浮かべた。
「柴犬だと? 犬だと言うのかっ! 」
内山が狼男の容姿で叫んだ。
「馬鹿めっ! 世界で狼に一番近い犬種は柴犬なのだっ! 貴様は今日から黒柴のポチだっ! 限界教化っ! 」
きっと限界まで教化する力だと思って私が持つ最上位のその教化を使用した。
「馬鹿なっ! 身体が貴様の教化を受けて変形するだとっ! 」
内山が縮みながら叫ぶ。
「ポチだっ! お前の名前は黒柴のポチなのだっ! 」
私がさらに教化を激しくかけ続ける。
「ぐぉぉおぉぉおおぉぉ、馬鹿なっ! 」
内山の身体が縮んで黒柴の姿になりつつあった。
「貴様は今日からポチだ! おすわりぃぃぃぃぃ! 」
私の叫びが全てを決めた。
内山は黒柴になっておすわりをしていた。
「わん」
はっはっと息を吐いて、前の姿を考えなければ十二分に可愛い。
凄いぞ教化。
聖女からの卒業は大学受験の面接を受けてからにしよう。
どんな状況でも合格できそうだ。
「この力で何でもできるじゃん。まあ、やり過ぎたけど……」
私がそう感想を言いながら、横を振り向くと、わんと叫びながら同じようにおすわりをする菅原と優斗がいた。
身体は人間のままだから内山への教化の余波を受けたらしい。
困ったもんである。
「あーあ、せっかくの魔物が……」
「ふふふふ、心配するな。こいつらから情報を得られるし、こいつ一匹を殺しただけで逃げられるより集めて大量に殺した方がいいだろ? 」
悪代官に微笑む越後屋のように私が颯真に囁くと颯真は即座に破顔した。
やはりチョロイのは素晴らしい。
そして、はっはっと息を吐きながら、私に対する忠誠を見せようとまわりを飛び跳ねる内山、改め黒柴のポチ一号が可愛い。
やはり昔の姿は忘れる事にしよう。
「問題はこちらだな」
私の周りでポチ一号のように関心を引こうと飛び跳ねるポチ二号と優斗がいた。
人間の姿なんで、気持ち悪い。
容姿って大切だな。
黒柴だと可愛く見えてしまう。
「あーあー、優斗はパーティーメンバーだから、すぐに教化はとけるかもしれんが、もう一人は後遺症が残るかもしれんな」
颯真が救いの無いことを呟いた。
こんな犬のようにまとわりつくおっさんはいらんがな。
「しょうがない、さらに教化をかける」
そう私がポチ二号に人間に戻る様に命じた。
勿論、余波が行かないように、ゲームセンターの事務所にポチ一号と優斗は閉じ込めてからだ。
ようやく、四つん這いから二本足に戻ったポチ二号ならぬ菅原に話しかける。
「では、今後は私に協力するんだぞ」
「はい、ポチは頑張りまっしゅ」
そう菅原は警官がするように敬礼した。
「これはいけない」
そうして、何度も教化をかけたせいで、私への忠誠心は厚いがちょっと心配な菅原になった。
「どうすんだ。これ? 」
パーティーメンバーのおかげでしばらくして元に戻った優斗がそれを見て騒ぐ。
「仕方ない。まあ、これで行こう」
「軽っ! お前、そう言うのが多くないか? 」
「転校生プロフェッショナルの心得、その二。やったことは忘れる。どうせ、すぐに次の転勤が来るから」
「いや、お前、転勤で逃げる気か? 」
「そう言われて責められるの初めてなんで新鮮だな」
「ふざげんなよ! 」
優斗が叫んだ。
こうして、うちに黒柴犬のポチが来た。
この犬は加奈さんから貰った事にした。
父と母が凄くポチを可愛がるので昔の姿を思い出しそうになって困った。
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