第5部 第4章 黒幕
「おやおや、懐かしい人に会ったね」
そう、奥から二人出てきた。
一人は優しそうな30歳くらいのおじさんで、もう一人は20歳くらいのこれまたプロレスラー並みの図体をした男だ。
「いやいや、内山さんが出るほどじゃないっすよ」
そうヤンキーどもが20歳後半くらいのプロレスラーみたいな奴に苦笑した。
そして、問題は30歳くらいのおじさんだ。
私はその顔に見覚えがあった。
菅原宏樹。
亡くなった大きな方の兄の警察の先輩だった人だ。
「菅原さん……」
「おやおや、君は……浅野君の妹さんじゃないか……お兄さんは残念だったね」
そう菅原が微笑んでこちらを見る。
兄の生前には見なかった蛇のような目だ。
あんな目の人では無かったはず。
「け、警察を辞めたんですか? 」
「いやいや、警察のままだよ」
私が聞くと、笑って警察手帳を出した。
「じゃあ、なんで? 」
「いろいろと警察官にも仕事があるんだよ」
「こんな半グレ達と付き合う事がですか? 」
そう私が睨んだ。
「そうだ。綺麗な話だけでは無いんだよ。私達が政治の上の御方の命令でさらに異世界の上の御方に必要な接待用の組織を作らされたんだ。異世界と付き合うにはいろいろと配慮がいるんだ。荒事関係は我々も関与するしか無いしね。それなのに半グレがもっといたはずなのに思い出せないしデータも何も無い。ネットで聖女の騒ぎと来たら、何が起こったか何となく分かるだろ? 」
そう冷やかに私を見る。
まるでこちらを値踏みしているような目だ。
「あいつが魔物なの? 」
私が颯真に聞いた。
「いや、そのとなりの俺と同じくらいの体格の方だ……」
颯真の言葉で私が見るとその内山さんと呼ばれた男は凄い表情で颯真を見て震えていた。
「ぎ、虐殺勇者……」
「虐殺勇者って……え? 」
菅原さんがそう驚く。
「言ったろ? 一人だけヤバい勇者がいるって……。王都の侵略で人口の1/4くらいまで魔物化ともう少しまで持って行った。普通、そんなに殺せないから、それでその王国は終わったはずだったんだ。こいつ、全部それを殺しやがった。一人残らずだ。まだ人間だったのも根こそぎに皆殺しだ」
そう内山が騒いだ。
私はどちらかと言うと、他にも勇者がいるという事実に驚いていた。
ヤバいな、私の感覚も結構マヒしてるのか?
「普通は同族でそこまで出来ないだろ? するんだ、こいつ……。泣き叫ぶ子供の前で『すぐ忘れるからね』って微笑んで、魔物化が近いまだ人間の母親を殺したり、魔物もドン引きで。とうとう魔王様まで攻め手にこいつが居たら全力で逃げるようになっちゃって。俺達がこの異世界に逃げてきたのもこいつのせいだ」
そう震えながら内山が颯真を指さした。
そうしたら、颯真がにいっと笑った。
もう、本当に嬉しそうに。
肉食獣と言うよりは魔王の微笑みと言うか……。
やべぇな、本当に本当に早く聖女を卒業しないと。
「ま、待て。大丈夫だ。こいつの兄は凄く正義感が強くて優しいので有名だった。だから、うちの警察内の組織に反抗して、大物政治家や警察の上層部も怒らせて潰された。だから、その妹がいるなら、そんな真似はさせないはずだ……」
「やはり、兄は殺されたんですね? 」
「それは知らん。俺のような下っ端が知るわけない。そうでは無いかと思ってるだけだ。あまりにもタイミングがな……」
「ほほほう」
私も笑った。
優斗が私と颯真の微笑みを見て震えあがったような顔で見ている。
私も颯真と同じような顔をしているのかもしれない。
だけど、しょうがないよね。
「いや、そんな怖い笑い方をするなよ」
そう菅原が私に媚びるような顔をした。
「私は巻き込まれただけなんで……」
そう私が微笑むのと同時に颯真が剣を出すと一瞬で動いた。
先に前に出てきた、たまり場の半グレの連中の首が一瞬で飛ぶ。
「ひいっ! 」
「何だこいつ! 」
そう叫ぶ間に次々と彼らの身体が微塵に斬られていく。
だいぶ、いろいろとたまっていたのだろう。
一撃だけで殺すのはやめて斬り刻んでいた。
「びげぇぇぇ! 」
優斗が情けない声を上げた。
魔物である内山さんとやらは颯真が斬りつけたり監禁しないので、不思議に思っていたら、何度も何度も颯真が楽しみそうにちらちらと見て微笑んでいた。
「ああ、なるほど。一番美味しいものは最後に回しているわけね」
そう私が颯真の行動を理解した。
「久しぶりの魔物と成りかけだもんなぁぁ」
ごくりと言う感じで颯真が笑う。
「ふぁぁあぁぁあぁぁぁ! 」
内山が情けない声をあげた。
「いやいや待て! 浅野の妹よ! 心は痛まないのか? 」
菅原が叫ぶ。
「いやいや、私は巻き込まれただけだし」
「見て見ぬふりはいじめに参加しているのと同じだぞ! 」
言う事にかいて菅原が叫んだ。
「わかった。参加しますわ」
そう私がにいっと笑った。
「え? 」
「我が持てる限りの懺悔を貴方に」
そう、私が手を組んだ。
「待て待て待て」
「分かるでしょ……。最後は自殺……。でも死んだ警察官が犯罪者って世間が知ったら……。兄の時に産まれたばかりの自分の娘さんの写真を持っていましたよね」
にいっと私が笑った。
「な? 」
「今、私に組織の事とそのほかの事を正直に話せば、全部黙っててやるし、上にもバレないようにしてあげる。だから、私の協力者になりなさい。そして、今回の件は何もなかったと上に報告を……」
「なんだと? 」
「良いのかな? 私のスキルで貴方が懺悔して罪を償い何をしてたかを発表して自殺したとしたら、貴方の家族は警察なのに犯罪者だったと謗られ生きていけないでしょ。娘さんの立場は? 親や家族は? まして巨大な組織は貴方と家族を許さないから、貴方の家族は世間にいびられ続けた上に組織に殺されたりするだろうね」
私がニタリと笑った。
「どんな脅し方だよ」
横で優斗がドン引きしている。
「待て待て、だが、それだと懺悔の脅しだけで終わってしまう」
颯真がそう突っ込んできた。
「大丈夫。教化で裏切らないようにするから。ちゃんとケツの毛まで抜くよ? 」
「なるほど」
「まさにあの女神の<聖女>だ! 貴様も向こうから転生して来たのか? この世界にそんな奴はいないはず! 」
内山が怯えた。
「失礼な」
私がムッとして睨み返した。
「俺は女の子に手を出したことも無いんだ。上からの命令でやっていただけで……」
「知らんよ。選ばせてだけあげる。懺悔なら貴方の情報は全部自白で日本中にばらまかれて、貴方はその後に自殺して家族が地獄になる。私の犬になるなら、少しは家族も貴方も生きれるかもね」
「ほ、保証は? 」
「貴方がバレなきゃいいんじゃないの? 」
「しかし、これだけ死んでるのに……」
「あら、知ってるんでしょ? 記憶も記録も何も消えるし、身体は小鬼が食べてるじゃない」
そう私が微笑んだ。
「ウマイウマイウマイ……」
そう小鬼達が死体をむさぼり食べていた。
それを菅原が見てぞっとしていた。
「あれは蟻だぞ? 」
内山と対峙しながら、颯真がそう話す。
妙にそれに拘りがあるようだ。
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