第5部 第3章 たまり場

 また、親に嘘をついてしまった。


 新しい友達と一緒に勉強するから帰るのが遅くなると。


 その確認の電話が親からあった時だけ、頼むと加奈さんにお願いした。


 という事で、すでに夕暮れも暗く、こんな時間からスマホの変更もできないだろうから、今日だけはそのままのスマホでお願いと言う事だ。


 親のスマホの番号を教えて、それだけは出てくれるように頼んだ。


 だから、始末に時間がかかっても何とかなるだろう。


 優斗の案内で、バスで乗り継いで向かう。


 バイクで行こうと言われたが、三人で乗れないだろって突っ込んだ。


 颯真曰くテレポートは温存したいそうな。


 回数制限があるようだ。


 なんだか、地味だけどしょうがない。


 現実はそんなもんだ。


 記憶もデータも消えるから、移動の記録が残っても心配しないでも良いのがメリットだ。


 その場所は、昔、営業していたような地下のゲームセンターだった。


 すでに営業はしていないようで、そこを勝手に使っているようだ。


「どうだ? 中にどのくらいいる? 」


 私が颯真に聞いた。


 颯真は索敵スキルも持っているらしくて、それで魔物に近い人間は分かるのだそうな。


「そうだな。10人くらいかな? 」


「そうか、辺りにはどうだ? 」


「外には気配はない」


「という事は全部中に集まっていると言う事だな」


 多分、加奈さんが来たら皆で再度襲うつもりなのだろう。

 

 所詮、下半身が発達している魔物だ。


 そう言う話には全員参加という事だ。


 とりあえず、何があったかをメールで煽ってるわけでもないので、前に襲った奴は全部死んでいるのではないかと私は見ていた。


 加奈さんにしたら襲われたときの記憶が無いだけでなく、その時の損傷なども無かった事になるそうなので、その辺りは良かったのではないかと。


「やっぱり、全部やるんだ」


「私はしないぞ」


「いや、まとまってるとこを襲うのに? 」


「私は見てるだけだ」


「いやいや、そらそうだけど……」


「まあ、ちょっと手間かもしれん……」


 颯真が珍しく呟いた。


 本人の自称話だと、軍隊とも一人で戦って殲滅させた男がえらい弱気だな。 


「何かあるのか? 」


「魔物がいる。一体だが。そして、魔物になりかけの人間もだ」


「は? 」


「え? 」


 そう私と優斗が驚く。


「人間でなくて魔物? 」


「ああ、魔物だ」


「いきなりリスクが上がったじゃん」


「ああ、逃げられるリスクがな」


 私が慌てると颯真が別の方向にリスクを感じているようで驚く。


「逃げられる? 」


「ああ、なんだか知らんが、こんなにフレンドリーな俺なのに、奴らは無茶苦茶に俺を恐れるからな」


「ほほう、恐れているのか? 」


「容赦のない正義を行うからな」


 そう自分に酔ってるように颯真が答えた。


 私と優斗が顔を見合わせる。


 どうも、こいつは想像のもう一段上のヤバさらしい。


「逃げられたら追いかけるのが大変だからな。異世界は一応、国王とかも手伝ってくれてたから馬とか用意してくれたが、ここの世界だと電車賃とかがかかってしまう」


「なるほど、切実だな」


 確かに国がバックアップしてるとか全くないわけだから、電車賃がかかるとか大変だ。


 こちらは所詮、学生だし。


 あれ?

 

 待てよ?


「待て待て、お前はテレポートできるじゃん。その時の為に温存してるのじゃないのか? 」


 私が思い出したように突っ込んだ。


「いや、せいぜいテレポートできるのは20キロくらいだからな。テレポートの距離範囲はその程度で連続しすぎるのは無理だし。あいつら、1000キロくらい平気で逃げ続けるんだ」


「ほほう」


 私と優斗が再度顔を見合わせた。


 どうやら、こいつは想像の二段は上のヤバさみたいだな。


「いやいや、逃げたられたらどうなるんだ? 」


「俺の事がバレる」


 いやいや、すでにバレバレなのでは?  と思ったが言わないで置いた。


「魔物を殺してもバレるからな。奴らは共感覚を持っていて仲間が死ぬと分かる。それで、バーッと逃げるんだ。魔王と呼ばれた奴まで蜘蛛の子を散らすように逃げるからな」


 魔王まで逃げる……。


 こいつ、想像の10段は上なのでは?


 そうなると手に余るのでって女神が厄介払いって私の想像は当たっている事になる。


「まあ、じゃあ、魔物は殺さないのか? 」


「うむ。監禁しようと思う」


「「監禁」」


 もはや、どちらが悪人かわからんな。


 恐ろしい展開だ。


「仕方無いだろ? 」


 颯真が苦笑した。


 私も早く全部を終わらせるか、導くものとやらに頼んで聖女を卒業しなきゃ。


 その辺りは凄く焦る。


「じゃあ、行くか? 」


 そう颯真が笑った。


 嬉しくて嬉しくてしょうがないらしい。


 やべぇな。


 本当に戦闘狂だしジェノサイダーだ。


 そうして、地下への入り口を降りる。


 どうやら、それなりに喧嘩とかあったらしくて、地下のドアはいろいろな鉄板の薄い奴とかくっつけていて、頑丈にしてあった。


 襲撃されたりとかあったんだろう。

 

 それで優斗がゴクリと息を飲む。


 どれだけヤバい場所かわかったようだ。


 そして、颯真はそのドアを愛おしそうに撫でた。


 こっちの気持ちの方が分かるので、私もヤバい奴になってきてるのだろうか。


 優斗はそのドアを見て、何かあったら俺達は逃げれ無いぞと恐怖を感じたようだが、颯真と私は、このドアなら奴らは逃げれ無いだろうとほくそ笑んでいたのであった。


 まずいまずい、早く導く人に任せて聖女を卒業しなきゃ。


 そう思いながら、颯真と一緒にドアを開けて入る。


「おいおいおい! 来た来たお嬢ちゃん! 」


「あれぇ、何かプロレスラーみたいなのがいるぞぅ? 」


「おおっ誰か頼んだのかな」


「写真と違うけど、可愛いじゃん」


 それぞれ鉄パイプを持ち出して笑ってる。


 優斗が身震いしていた。


 私は早速、微笑みながら入り口を持ってきたチェーンで頑丈に開かないようにノブと別の場所を巻き巻きしていた。


 前にしたのと同じことである。


 段々巻くのも慣れてきたので困ったものである。


 それを見て、一部の奴が騒いでる。


「おいおい、こちらに勝つ気かよ」


「閉じ込めて勝てると思ってんだ……」


 でも颯真は本当に嬉しそうに笑っていた。


 それで、皆が黙った。



 

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