第3部 第3章 ゾンビマラソン

 あれからマンションの屋上を慌てて出ていく優斗と一真は見ものだった。


 何しろ、人殺しになってしまったのだ。


 魔物を殺してないしね。


 私達。


 それで、殺人犯のような顔でびくびくしながら歩いていく。


 聞いた話だとその仲間の間で犯人探しが始まっているらしい。


 警察なんかに任していられるかって事だそうな。


「どうしたらいいんだ」


「いや、だから言ったじゃん。止めたらって」


「いや、だって、早く魔物を全部倒して終わらせたかったのに……」


「まさか、矢が残って殺人事件になるなんて」


 私の突っ込みに優斗も一真も震える。


 襟を伸ばして顔を隠したのが笑った。


 いやいや、本当に犯罪者みたいだ。


 まあ、犯罪者なんだけど。


「いや、笑ってる場合じゃないだろ? 」


 そう一真が叫ぶ。


 だが、パトカーが走りまくっていて、慌てて優斗と一真が黙って顔を反らした。


 こんなにパトカーが走り回ってるのを初めて見た。


 私のスマホにもニュースで連続殺人事件と騒ぎになっていた。


 場所がバラバラなのにほぼ同時に起こった事から組織だった動きなのではと見られているんだそうな。


 まあ、そうだよな。


「あのさ。<忘却の剣>って死体にも通じるの? 」


「魔物とかに乗っ取られたりとか動いてるなら通じるはず」


 そんな恐ろしいことを颯真が答える。


「魔物かぁぁ」


 私が考え込んだ。


「頼むよ。あんたが頼りだ」


「あんたの知恵で何とかしてくれよ」


 そう優斗と一真が必死に頼む。


「ゾンビでも<忘却の剣>は使えるし、ゾンビのもう一度殺された死体とかあの小鬼は食べてくれるの?  」


「それはどちらも大丈夫だが、あれは蟻だぞ? 多分」


「あれが蟻に見えるんだ」


 まあ、ひょっとしたら見え方が違うのかもしれないが。


「となると、ネクロマンシーの出番だよね」


「ど、どうするんだ? 」


「どうせ、遠距離操作とか出来るんじゃないの? 」


 私が聞くと颯真が頷いた。


「ああ、確か半径10キロメートルの死体をゾンビ化できる」


「そうか、じゃあ、ゾンビにして、こちらに向かわせればいいよ。それで颯真が来た奴を片っ端からゾンビとして斬って殺して、それを小鬼に食べさせよう」


「蟻だぞ? 」


 異様に小鬼を蟻と言い張るな。


 それよりも、この雰囲気だと颯真にはパーティーじゃないけど協力者としての味方は向こうの世界に結構いたのではないかと思う。


 だって、それぞれのスキルに詳しすぎる。


 嘘は言えない性格のようだから、考えれるのは味方をしてくれたけどパーティーにならなかったというかなれなかった……。


 つまり、多分、巻き添えで全部死んでるんじゃないかなと……。


 巻き添えで関わった人間を追える捜索スキルとか持っているのが、どうも引っかかる。


 怖くて、今、聞く気になれないが……。


「じゃあ、早速……いてっ! 」


 いきなり街中でネクロマンシーの力を使おうとした一真のスキンヘッドをチョップで叩く。


「人のいないとこでしないと駄目でしょ。それと、私達と離れた場所で目ただない場所で颯真に<忘却の剣>でゾンビを殺してもらわないと」


「なるほどな」


「私達が下手に手伝って失敗したらまずいしね」


 そう私が言うと颯真はなるほどと言う感じで頷いた。


 嘘である。


 そんな修羅場が目の前で起こってほしくない。


 それだけだ。


  そもそもネクロマンシーが自分の大切な使徒であるゾンビ化したものを呼び寄せて殺すとか倫理的にはどうなのだろうか?


 結局、またしてもぼろいマンションの屋上に私達は戻り、マンションの近くにある、あのカメラの無い公園で颯真が待つことになった。


 そして、一真のネクロマンシーの力で半径10キロ以内の死体をゾンビ化させて呼び寄せた。


 実は大きい兄さんの警察時代の話を聞いていたおかげで、この近くに検視をしたりする病院と普通の大病院も集中しているのを知っていたから、ほぼ全員ゾンビとして呼び寄せることが出来るはず。


 問題は別の死体が混ざるかどうかだが。


 それはしゃーないよな。


 どうせ消えるし。


 そうして、屋上で一真が自分の黒いモニターを出した。


 これはパーティーに参加したら、自分のステータスとかスキルは全部乗ってるらしい。

 

「えええと、ゾンビ招集って言ってたよな」


「ええ」


 私は一真の言葉に頷きながら、このネーミングの悪さは何とかならないのかと真面目に思っていた。

 

 酷すぎる。


「では、ゾンビ招集。集まる場所はこのマンションの公園に」


 そう祈る様に一真が言った。


 その瞬間、どす黒い渦が一真を中心に広がっていく。


 絶対に善なる神様のスキルだとは思えない。


 女神は実は悪神だと思う。


 そして、悲鳴が始まった。


 一斉に街中で次々と悲鳴が上がるのが聞こえる。


 阿鼻叫喚である。


 むう、解剖中だったかもな……。


 そう彼らは胃や腸をまき散らして走っているのかもしれない。


 だから、見ない。


 見たくない。


「始まった」


「うええ、溝口先輩、胸が開いてる」


 一真と優斗はわざわざ見て細かい解説のようにこちらに話すが、私は聞きたくないのに。


「ちゃんと斬ってる? 」


「ああ、小鬼も群がって食べてるよ。解除してないけど、ゾンビでも本当に食っちゃうんだな……」


 そう一真が私の質問にゲロを吐きそうな顔で答える。


「あああ、先輩が……」


 優斗も呻いた。


 私も大きい兄ちゃんが目の前で死んだ時ショックだったから、やはりショックだろうな。


 まして彼らは直接殺しちゃってるし。


「本当に悪い事してたんだな。まあ、噂はあったけど……」


「まあ、半グレと付き合いがあると言うより、そのまま、半グレやってたし」


「レイプとか行方不明にさせたとか怖い噂もあったもんな。本当だったのかね」


「おいおい。どんな連中とお前らは付き合ってんだよ」


「御倉先輩と関係してる半グレがいるって言ったろ? 良く道場に来てたから」


「それでこの事態に、ビビってるけど少しすっきりした顔をしてんのか? 」


「友達もリンチされてから、どこ行ったかわかんなくなったしな」


「いや、それで良く、その相手を先輩とか言うな? 」


「「怖いもの」」


 笑えねぇや。


 私は深いため息をついた。


「終わったぞ? 」


 颯真がスマホで連絡してきて、公園の砂場に降りた。


 また、遊具の古びた錆とか全部ついでに舐めとられて綺麗になってた。


 と言うか、あんなとこまで血が飛び散ったんだ。


 見なくてよかった。


 その夜はネットで次々と飛んできた矢で亡くなった人の話と血まみれゾンビの話で盛り上がっていたが、例によって消えていくので、規制だのなんだの最初は大騒ぎをしていた。


 そして、騒いでた連中もしばらくして黙った。


 何が起こったか、全部忘れたのだろう。


 そして、その投稿も消えていく。


 恐るべし<忘却の剣>だ。


 こいつらも忘れてくれたらいいのにと、座布団を乗せたスマホが隙間からピカピカしまくってる。


 夜に思い出して優斗と一真が耐えられなかったみたいだ。


 見たりするからだと思う。


 私に愚痴ろうとか、そうはいかない。


 そうして、私はため息をついてスマホを無視して布団をかぶって寝た。



 

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