第3部 第2章 とりあえず、減らす 

 優斗はとりあえず試しで弓を撃ちたいと宣った。


 いやいや、人を殺す事になるんだが? と突っ込んだが、意志は固かった。


 確かに、早く魔物を倒して終わらせたいのだろう。


 だが、それだと人を殺す可能性が高いと説得はしてみた。


 そもそも、あの御倉美緒とかは性格はともかく間違いなく人間だったし。


 しかし、彼の意志は曲がらない。


 ううむ。


 積極的に殺しに行くとかポジティブなのか、それとも早く逃げたくてネガティブなのか。


 どちらかわからないが、少しパーティーに巻き込んだのを後悔していた。


 もっと思慮深い奴を巻き込むべきだったか。


 パーティーになると今まで颯真だけを説得していたのが、さらに優斗と一真を説得しないといけなくなった。


 正直、颯真だけで相当大変なのに、それに二人が加わった。


 私はこの二人が一緒に颯真を説得してくれると思ってたら、何と颯真並みの思慮だった。


「止めた方がいいと思うよ」


「いや、どうせしないと駄目なんだし」


「練習は必要だよ」


「いざって時に失敗しても困るし」


 私の意見は一顧だにされない。


 これは誤算だった。


 ゲームかなんかと勘違いしてるのか?


 あの惨劇を見てそれかよ。


 よく分かんないけど、仲間にした私が言うのもなんだが、困ったもんだ。

 

 そして、またしても、こないだの話し合いした公園のある、ぼろいマンションの屋上は鍵が壊れているので実は入れるという、どうしょうも無い地元のものだけが知っている情報でその屋上に行った。


 ぼろいマンションは住んでいる人の減少と老朽化から管理費の増加と修理費の増加で組合側と管理側が揉めて、それで人がさらにいなくなってとかで、殆ど人が住んでいないとか。


 いろいろと問題が見つかったりで修繕が嵩んでそれなら売るわでたたき売りとかなっちゃったとか。


 修繕費と管理費が高くなっているので、安くても買うのを皆が躊躇するのだという。


 その結果、住む人がいなくなった。


 世知辛い世の中である。


 そして、さらに少しでもこの状態を早く終わらせたい優斗達である。


 魔物の退治とか言いつつ人間を殺してんじゃんと言う突っ込みは置いといて、何でか知らんが、弓を射るのに前向き過ぎるのも困ったもんだ。


「百発百中って言えばいいんだな? 」


 そう優斗が聞くと颯真はうなずいた。


 もう少し、良いネーミングは無いものかと思う位のスキルの名前である。


「よし、いくぞ」


 そう言った途端に、真っ黒い長大な弓と真っ赤な血のような矢が現れる。


 武器だけは禍々しいけどカッコいいな。


 実際の忘却の剣も単なる長剣で無く、カッコいい形をしていたし。


「百発百中」


 などと思っていたら、あっさり優斗が発射した。


 すでに仲間に騙してならせた時に薄暗かったので、もうかなりあたりは暗かった。


 今日はこちらの友達とパーティーですと母親に伝えてあったから問題ないけど。


 酷いパーティーもあったものだと思う。


 矢は赤い光をほの暗い中で発しながら飛んで行った。


 それも、大きくホーミングしながら。


「すっげぇ! カッコいい! 」


「おおおおっ凄い風切り音だったぞ? 」


 そうあまりに格好良く矢が飛んで行ったので喜んでいる馬鹿が辛い。


 本当に仲間にするのを間違えたかな。


 確かに、腹は座ってて、あの事件に関係してて、口が堅いと考えたら人選は間違ってないのだけど。


 人を殺すという事に躊躇しないのだろうか。


 まあ、相手が見えないからなぁ。


 馬鹿だから、それもあって、次々と矢をつがえて撃っていく。


 いやいや、どうなんだ。


 心臓に必中って言ってたよな。


 今、矢が6本目かよ。


 六人殺してるじゃん。


 魔物と言うよりは単なる悪人だよな。


 正しいのかな、これ?


 合間を入れてすげぇとか騒ぎながら、矢を一本一本心を込めて撃ちましたじゃないけど、撃っている。


 そうしたら、ピンピロと音が鳴りだした。


 彼らのスマホにメッセージが届いたらしい。


 何の気無しに、一真がスマホを見て青くなった。


「ようし、百発百中っ! 」


 優斗がそう言って矢を射た。


「待ったっ! 」


 そう一真が言うが、矢は放たれた以上ホーミングして相手に当たりに行く。


 自動追尾なんで別に何の手も入れないで放てば当たるのだ。


 恐ろしい矢である。


 ひょっとしたら、トマホークのようなミサイルの能力を持つ矢として考えると案外に科学は向こうの方が進んでるとも見えないことはない。


 あのコンパクトさで自動誘導である。


 ちらと颯真に聞くと、勝手に矢が考えて相手の死角から当たるらしい。


 付喪神みたいなのが憑いてるそうな。


 まさにトマホークではないか。

 

 たまに湾岸戦争時代と今のトマホークのレベルを勘違いする人もいるが、今のトマホークは中身は全然進化させており、AIで迎撃のミサイルすら回避する。


 しかも、音速ではないと貶すものもいるのだが、それはあくまで低空で迎撃されないように飛ぶから衝撃波の問題で音速を出さないだけだし、この矢も同じような仕様らしい。


 となると結構深く心臓に刺さるんだろうな。


 貫くのかもしれない。


 とか考えていたら、一真がパニックになってバタバタ手を動かしていた。


 喋れないほど慌てているらしい。


「落ち着け。どうした? 」


 そう、優斗が笑った。


「道場の溝口先輩がいきなり背後から矢を受けて即死だって……」


 瞳孔が開ききった目で一真が話す。


「あ? 」


 その間にピンピロピンピロとスマホがなり続ける。


「大野さんも心臓を矢で貫かれたって」


 優斗がスマホを持つ手を震わせて答えた。


 そこからは次々来るメッセージを見て震えていた。


 そして、優斗が悲鳴をあげて弓矢をぶん投げたが、消えただけだった。


「あぅぅぅ」


「あぅぅあぅ」


 二人が言葉も発しないで縋る様な目でこちらを見てきたので、私が彼らの言いたいことを要約してみた。


「つまり……半径十キロで魔物に近い悪い奴を7人ほど殺したら、全部知ってる人だったという事かな? 」


 そうしたら、優斗も一真もコクコクと頷いた。


 最悪だ。


 


 



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