第1部 第4章 そして……

 全然何の前置きも無く始まった殺戮は皆が唖然とする中で、殆ど終わっていた。


 まさか、こんな場所で剣で人を平気で殺す殺人鬼がいると思わず。


 彼らにとってもクラスメイト達と同じで、颯真は頭のおかしい自称勇者のダブりだった。


 彼らはあまりに颯真を馬鹿にしていたので、その後の展開が読めなかった。

 

 彼らが驚き唖然としている中で、人間を超えた動きで颯真が次々と雑草を鎌で刈るように斬り捨てていく。


 その惨劇はもう優愛を残してほぼ終わっていた。


 そして、もぞもぞと地面から何かが大量に現れる。


 あれを蟻のようなものと颯真は言ったが、私には小鬼のようなものに見える。


「ウマイウマイウマイウマイ……」


「ヒャヒャヒャヒヤ……」


「ボキボキボキパキリ……」


 彼らは舌なめずりしながら、死体を噛み砕いて食べる。


 そして、地面に零れ落ちた血を丹念に啜って舐める。


 綺麗に綺麗にしていくのだ……。


 感覚がマヒしているのだろうか、そのおぞましい小鬼に対して私達はなぜか嫌悪感を感じなかった。


 まさか、あれも女神が与えたスキルなのだろうか。


 そして、本当に彼は勇者なのだろうか。


 引き連れいてるものが普通じゃない。


 優斗も一真も固まったままだ。


 私はデジャブのようなものを感じていた。


 私には兄が二人いた。


 浅野大翔(あさのはると)は実は二番目の兄である。


 長男だった年の離れた大きい兄さんは、念願の警察官になった時に事故で死んだ。


 私達は殺されたと思った。


 二番目の私と歳が近い兄はそれで空手を習った。


 大きい兄さんはまだ新人なのに、大きな大きな事件を上と揉めながら捜査していた。


 それの捜査を止めなかったから殺されたと思った。


 父が転勤に私を連れて行くのはそれがあるからだと思う。


 目の前でトラックに跳ねられて死んだのだ。


 その時の粉砕されるように血をまき散らして跳ね飛ばされた兄が何故か思い出された。

 

 父は私は事故だと思う、お前たちもそう思ってくれ、もう関ってはいけないと泣いて言った。


 父の親友が殺された絡みの捜査でそうなったのをずっと悔いていた。


 それを何故か思い出した。


 ひょっとしたら、私が彼を導いたらいいのではと……。


 彼なら、その闇も何もかも粉砕するだろう。


 誰も彼も消してしまうと思う。

 

 それは目の前で起こっているので間違いない。

 

「いゃぁぁぁぁぁ! 助けてっ! 助けてっ! 」


 優愛が我に返ったように叫んだ。


 それで私も我に返った。

 

 いやいや、そういう想像はまずい。


 いくら何でも。


 私も父と小さい方の兄に誓ったのだ。


 もう、関わるまいと。


 母も元気になったけど、未だに調子が悪いから、いくら何でもそれは……。


「おい……止めなくていいのか? 」


 泣きそうな顔で優斗が呟く。


 こういう事態になったのはお前が魔物とか言うからだがと言う突っ込みは置いといて。

 

 などと考えている間に容赦なく優愛の首が飛んだ。


「ええと……」


 私が固まっている間に、小鬼達は大喜びで転がった首をむさぼり食べだした。

 

「いや、いくら何でも……」


 殴られ続けて変形した顔で一真がそう颯真に突っ込んだ。


「奴等に対しては油断しては駄目だ。逃がした魔物は復讐しようとする。だからこそ、徹底的に根こそぎにしなければならない。これは正義の戦いなのだ」


 迷いもない目で颯真が私達を見た。


 駄目だ逝っちゃってる。


「しかし、こんな……」


 辺りを一真が見回すが、すでに死体は綺麗に骨まで貪り食われて、血は舐めとられていた。


 そして、道場の内部はまるで建てたばかりの綺麗さを取り戻していた。


 血を啜り舐めるついでに汚れも全部舐めて落としていたのだ。


 まるでハウスクリーニングだ。


「心配するな。この正義の行為はお前達の記憶から全て消えていく。そして、彼らが存在したことも全部忘れられる。すぐに誰も思い出せなくなる。記録さえ消える。思い出せるのは私を導くものか、もしくは……その……私とパーティをだな……結んだものだけだ……。その、どうだろうか? 私と……」


 そうもじもじしながら颯真が私達をチラチラ見た。


「「「お断りします!!! 」」」


 私達は同時に叫んでいた。


 後で聞いたが、本人曰く、なぜか自分とパーティーになってくれるものが現れないのだともじもじして話した。


 いや、そらそうだよと私達は目と目で語り合った。


 ヤバすぎる。


 小鬼が死体を食べるとこを見ても、絶対にまともな女神じゃねぇし。


 そうして、ちょっとがっかりした顔で颯真は学校に私をテレポートで廊下に送り届けてくれた。

 

 私は転校して……いや高校生になって初めて遅刻した。

 

 驚くことに、教室まで優斗が来た最初の出来事も全部無かったことになっていた。


 そして、美緒と優愛の机も午前中には残っていたが、午後には消えていた。


 放課後に先生に遅刻の件で怒られたときに先生の持っているちらりと出席簿を見たら、恐ろしいことに名簿からも彼女たちの名前が消えていた。


 本当に全てが消えるのだ。


 そして、一番恐ろしい事に私はこの事件を忘れていなかった。


 まさか、導くものが私なのか? 


 まあ明日は休みだし、一晩寝たら忘れれるだろうと思っていたのだが、残念ながら覚えていた。


 休みの日は小さい兄である浅野大翔(あさのはると)との習慣であるジョキングをいつもの近くの大きな公園でしていたのだが、残念ながらその時も覚えていた。


 まさか、大きい兄ちゃんの事件にあの殺戮兵器を使えとでもいうのだろうか。


 たが、確かに彼なら……。


 そう考え込んだ。


 そうしたら、最近よく聞く声で近くのラーメン屋でクレームをつけるのが聞こえた。


 そちらを見たらラーメン屋で颯真が店主に叫んでいた。


 耳を澄ませて聞いてずっこけた。


「これがチャーシューメンだと? チャーシュウが一枚ではないか! 」


 颯真が店主に叫んだ。


「いや、だから肉厚の大きな肉じゃないですか」


「一枚のチャーシュウをチャーシュウメンとは呼ばない」


 颯真は真剣だった。


「いや、それなら食べなくても結構です」


「貴様、居直るとはっ! さては魔物だな? 」


 とうとう颯真が禁句を吐き捨てるように話す。

 

「待った待った! 」


 颯真の手が剣を出す動きになったのを走って行ってしがみついて止めた。


「おおっ、君は日葵さんではないか」


「おじさん。私が払うので、彼に大型チャーシュウを一枚トッピングで」


 私がそう店主のおじさんに話す。


「いやいや、私が言いたいのは」


「ここは肉厚チャーシュウが売りで、これでチャーシューメンなの! 」


 そう私は先日に父と食べに来たので知っていた話をした。


 チャーシュウで人を魔物として殺したりとか、馬鹿もほどほどにして欲しい。


「しかし、魔の心は……」


「それは向こうの世界だからっ! 」


 そう私は颯真の文句を押し込んだ。


 そうして、しぶしぶとチャーシュウメンを食べ始めた颯真の横で仕方なく普通のラーメンを追加で頼んで食べた。


 この殺戮兵器を殺された兄の仇に使うかどうするかはまた考えようと思いながら。


 そして、これが最終的に兄の仇を討つとともに、この世界に存在した信じがたい最悪のものと戦う事になる事も知らないままで……。

 


 

 

 




 


  

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