第1部 第3章 殺戮の始まり

 次の日は普通に学校に行った。


 先生達も心配してくれてたが、何もなかった件を話す。


 颯真君が間に入った事も。


 そうしたら、感心するどころか微妙な顔を全部の先生がしたので困った。


 まあ、分かるけど。


 実際、それで心配してくる人はいなくなったので、恐らく同じような事を颯真君は何度もしているのだろう。


 彼はこの世界にも使命を持って戻ってきたと思っており、この世界の魔物を狩る気なのは昨日の雰囲気で分かった。


 それで、女神が言った自分を導いてくれる人を探しているのだ。


 恐らく、それは女神が手に余った貴方を元の世界に戻すための言い訳なのだろうが。


 とにかく、私を助けた件が広まっても誰も相手にしてないようだった。


 頭のおかしい危ないダブりと完全に皆から軽蔑されているようだ。

 

 危ないのは間違いないけど、皆は単なる厨二の馬鹿だと思っていた。


 何があったのか知らないけど、御倉美緒と川島優愛は今日は出席してないようだ。


 まだ、朝礼も始まってないので遅刻したのかなと思ったら、思いもしない人が来た。


 金髪のパーマの優斗君だ。


 学校の人間じゃないから、あちこちでざわざわざわめきがする。


 そして、私のとこに来た。


 私は廊下の窓の横の席で、窓越しに必死に私に縋る様な目を向けた。


「どうしょう。一真が道場に連れてかれた。俺は必死になって逃げたんだけど、美緒の兄貴に一真が制裁される」


 そう震えながら叫んだ。


 それで、美緒と優愛の二人も朝からいないんだ。


 それで納得した。


「そんなヤンキー漫画みたいな事って未だにあるんだ」


 そして、私がつい少し微笑んで呟いてしまった。


 未だにそんなのがあるとは思わなかったからだ。


「いや、笑い事じゃねえょ。あいつの兄貴はヤバい半グレとも繋がっていて本当にやばいんだって言っただろ? 」


 と必死に優斗君が私に訴えた。


 しかし、そんな事を言われても……。


「とりあえず、警察に……」


「困っているのか? 」


 私が警察に連絡することを提案しようとしたら、のそっと颯真が来た。

 

 クラスがちょっとどよめく。


 でも皆は彼が厨二だと思っているから、一部のクラスメイトは少し哀れみの表情を浮かべていた。


 いや、まあ、あの力を見ていなとそうなるな。


 彼はダブりと自称勇者で、やはり皆に蔑み見られていた。


「いや、警察に頼めば……」


「そんなことしたら報復される」


 そう優斗君が震える。


 真っ青な顔でそれは嘘で無いらしい。


 転校生のベテランだからその辛さはよく分かる。


 人は昔から知ってる人の方を信じるし助ける。

 

 よそ者は助けないのだ。


 それと同じで彼らのようなガラの悪いものは誰も助けてくれないのだ。


 そう言う意味で、自分達が従っているものから制裁をされると誰も助けてくれる人がいないのだろう。


「それでも、警……」


「魔物か? 」


 横から颯真がぼそりと聞いてきた。


 これは、まずい。


「……そうだ! 魔物だっ! 」


 そう思い余って、優斗君が答えた。


 そうしたら、クラスの皆がたまらなくなったのか爆笑した。


 だが、それはすぐに止まった。


 それは颯真が信じられないくらい微笑んだからだ。


 それは心からの笑顔であったが、邪悪な邪悪な笑みに見えた。


 たとえ彼が虚言癖で厨二だと思っていてもたじろぐような。


「行こう」


 そう教室の窓から廊下に飛び出ると優斗を掴んだ。


 私は止めようと手を伸ばした。


 そして、颯真の袖を掴んで気が付いたら、どこかの道場に居た。


「は? 」


「ええ? テレポート? 」


 驚く私達を置いておいて、颯真はリンチされている一真を見て仁王立ちしてる。


 その男は倒れている一真に膝で乗っかって、一真を動けないようにマウントしてボコボコに殴っていた。


 血の付いた木刀も転がっていたので、間違いなくあれでも殴っているようだ。


 そして、それを遠目で笑って見ている美緒と優愛がいた。


 うわぁ、性格悪い。


「は? 」


「どこから入ってきた」

 

 そしたら、殴ってた奴の横に居る奴が私達を見てそう声をかけてきた。


 まあ、驚くだろうな。


 入口は空手の帯で開かないようにノブと近くの出っ張りで締めて止めて開かないようにしていたし、窓は締め切っている。


 どうやっても普通なら入れない。


 それにしてもテレポートとか。


 どこまで異様なスキルを持っているんだか。


「何だ、このでかいの? 」


 そうよく見たら美緒に似ているガラの悪い奴が木刀を持って近づいてきた。


「ああ、兄貴。そいつよ。クラスの勇者」


 そう美緒が説明した。


 一斉にそこに居たガラの悪い奴が爆笑した。


 いや、本当は笑えない状況なんだけど。


 颯真がたまらないって顔で笑って、黒い剣を出した。


 あの<忘却の剣>だ。


「おいおい、流石勇者様だ! 剣を出しやがった! 」


 誰かが爆笑したら、さらに爆笑が止まらなくなった。


 その時、特に人を馬鹿にしたような笑いを美緒に兄貴と呼ばれた人物が見せた。


 それで昔の記憶を思い出した。


「御倉祐介? 」


 私がそう驚いて聞いた。


 御倉祐介は兄が空手の大会で途中で戦った相手だ。


 しれっと慣れた膝蹴りで金的を狙ってきたが、あっさり兄の浅野大翔(あさのはると)に防がれて負けた。


 その時の態度が酷かった。


 あっさり負けたくせに……。


 そうか、どうりで私が美緒の顔を生理的に受け付けないと思ったんだ。


 あの男の妹だったんだ。


「あれ? 俺、有名人? 」


 そう祐介が笑った。


「私の兄は浅野大翔(あさのはると)です」


 そう、分かるように話すと表情が変わった。


 残忍で残虐で、人を人とも思わない顔をした。


「何だ。あいつの妹かよ。ならちゃんと相手をしてあげないとな」


 そう祐介が舌なめずりして私を見た。


 美緒もニタニタと笑っていた。


「そうか、魔物はお前達か」

 

 その時の颯真の顔は忘れられない子供のような無邪気な笑顔だった。


「ははっ、なんじ……」


 そう言った瞬間に祐介の首が飛んだ。


 そして、ボタボタと首が口を開いたまま転がった。

 

 一瞬だった。


 誰も固まった。


 だが、すでに颯真は容赦しない動きで即座に近づいてた美緒と他のまわりにいたガラの悪い奴等を次々と袈裟斬りにした。


 上半身が音もなく次々とずれていく。


 私と優斗と一真は予想していたが、あまりにも躊躇なく簡単に颯真がするので驚いて動けなかった。


 まるで、ゴミ箱にゴミを捨てるような、何でもない慣れた動きに見えた。


 そして、人には暴力は振るうものの、人を殺すまでは行っていない彼らも、固まったままだった。


 だが、理不尽なそれは全く容赦がなかった。


 誰もが悲鳴どころか動けなかった。


 

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