第1部 第2章 勇者じゃなくて殺戮者では?
流石に地元を知り尽くしているだけはあって、こんな場所があったのかと言うところにちょっとした古びたマンションについている小さな公園があった。
そこに、自称勇者と私は誘導された。
流石にカメラはここには無さそうだ。
今時、自動販売機すらカメラがついているので、暴行するの場所を見つけるのも大変だ。
やはり地元出身の方がそう言う場所は良く知っていると言う事か。
とは言っても、もはや、この異常な体験をしたせいか、彼らはすぐに殴りかかってくる事は無さそうだ。
2人とも自分の目の前で起こった事が信じられないような顔をしていた。
「なんなんだ? おまえ? 」
「どうやって俺たちの中段突きや回し蹴りを防いだんだ? 」
2人が訝しげに颯真に聞いた。
「ああ、アンチアタックスキルだ。勇者が持つ敵の攻撃を防ぐ防衛の為のスキルが自動で発動しているんだ」
颯真がそう普通に答える。
「お、おぅ」
「なるほどな」
スキンヘッドと金髪パーマの2人が顔を見合わせた。
その後、私を見た。
ちょっと縋るような顔付きだった。
自分達の聞いた話が信じられないし、信じてるのかと私に馬鹿にされるのも辛いような風情だ。
「ああ、確かに打撃は当たって無かったね」
「何だわかるのか」
恐る恐る金髪パーマが私に聞いてきた。
「兄が空手をやっていて、それで私も空手をやっていたから」
私がそう答えたら、急にこちらに親しみがあるような顔をしてきた。
「何だ空手をやってたのか」
「なるほど、言われてみれば」
などと2人が頷く。
まあ、微妙にやってた奴の動きがわかるのかは知らないが、どうやらガラが悪い以前に体育会系らしい。
空手をやっていただけでこれだ。
「兄の名前は浅野大翔(あさのはると)と言います。
私がそう話す。
ぶっちゃけ、兄は空手で有名人だった。
空手をやっていたら、まず知っているくらいだ。
「え? 高校日本一だった? 」
「あの浅野大翔(あさのはると)」
私が驚く2人に、それで頷いた。
「何だ同じ流派だよ」
「あの人は強いよな。俺らも尊敬してんだ」
急にスキンヘッドも金髪パーマも態度が変わった。
本当にガラは悪いけど体育会系で空手は本気でやってたみたいだ。
兄に対する尊敬の眼差しすら見せた。
「すまないな。俺達の通ってる空手の道場の先輩に命令されたんだ。あんたのクラスの御倉美緒の兄貴なんだけど……」
「結構、兄貴の方がやばい半グレとかと付き合いがあって、怒らせると怖い先輩なんだ」
金髪パーマとスキンヘッドが素直に謝ってきた。
そのおかげですっかり打ち解けて来て、金髪パーマの方が須藤優斗(すどうゆうと)で、もう1人が金沢一真(かねざわかずま)と言うんだそうな。
ちょっと、チョロくない?
「で、そうなるとこいつは本当に勇者って事か? 」
「いやいや、しかし……」
優斗も一真もその結論には抵抗があるようだ。
勿論、私も抵抗がある。
「病気で意識不明で一年ほど入院してたと聞いたけど」
私が聞くと颯真が頷いて話し出した。
「意識不明の間、俺は異世界の女神に頼まれて魔物が人間の身体を乗っ取ったりして、他の人間をそうやって騙して襲って食べたりしてるので、魔物を倒して欲しいと言われたのだ」
「ええと」
素直に頷いていいのか悩む話だ。
「ずいぶんとそれで魔物を殺した。100までは数えていた。だが、そのうちに魔物は人の悪しき心を持つものから産まれて来るのがわかってしまった。だから、人の中で悪しきものを持つ人間を魔物になる前に殺すようにした」
おいおい、人を殺してるじゃんか。
人の悪しきものって、普通の人にも悪い奴っているでしょうに。
私と優斗と一真が顔を見合わせた。
「いやいや、そんなことをしたら騒ぎになるでしょう? いきなり人が殺されるんでしょう? 」
「いや、それで女神に<忘却の剣>を貰ったのだ。人間に化けた魔物だろうが、人間だろうが、これで斬り殺したら、最初はそいつを知っているだけの知人から忘れていき、友人から家族まで忘れて、最後は戸籍などの全ての記録から消えて、その魔物や人間が始めから居なかった事になるのだ」
そう言いながら真っ黒い禍々しい剣を手に顕現させて見せた。
「おいおい」
「物騒だな」
「100まで数えたって、どれだけ殺してんの? 」
私が震えて聞いた。
「わからないが、首都と言っても異世界なので10万くらい程度のものだが、それでも、見るからに、だいぶ人口が減ってしまったのは分かった」
おいおい万単位で殺してるって事じゃん。
私と優斗と一真がさらに顔を見合わせた。
皆の表情が凍りついていた。
勇者と言うより殺戮者じゃん。
「そして、ある日、大体魔物を倒したなと思った頃に女神に呼ばれたので、褒められると思っていたら、元の世界に無理矢理帰された。そして私を導くものが元の世界で待っていると」
そう颯真がなんとも言えない顔で剣を見てから、私をじっと見た。
「だから、君がひょっとして……」
「違います」
即座に私が即答した。
そもそも、それって女神の言い訳で、厄介払いされてるだけだと思う。
優斗も一真も同意見なのだろう、目と目があって何故か分かり合えたような気がした。
ひょっとしたら、理解不能な状況に一緒に置かれたので、吊り橋理論のようなものかも知れないが、互いに非常に心が通じ合えた。
結果として、非常に仲良くなって、私と優斗と一真は別れた。
颯真は最後まで納得していないようだったが。
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