ダブりの自称勇者はホンモノだった……聖女に選ばれた私は悪役令嬢みたいに言われてたけど最後は知らないうちに愛が勝ちました。(改題)
平 一悟
第1部 第1章 はじまり
「すいませんが、私は興味はありません」
そう私……浅野日葵が叫んだ。
高校を出たとたんにガラの悪い連中に遊びに行こうと絡まれた。
1人は金髪のパーマっぽい頭の男で、もう1人はスキンヘッドの男だ。
父の転勤で仕方なしに転校してきた私は編入試験が非常に良かった為に先生方にちやほやされていた。
さらに、私は別に可愛いと思われる気はないけど、母が昔にメークアーティストだった為に、クラスに溶け込めるように可愛くメイクして貰ったのが悪かったのか、一斉に男子生徒たちが歓声をあげたのも悪かったのかもしれない。
ショートカットで可愛らしくした母のメイクの上手さが少しむかつく。
もっと可愛くできるのにと母には言われたが、目立ちたく無かったのでかなり抑えめにしてもらったのに、この始末だ。
それで、私の私物が隠されたり、足を引っかけられたり、ずっと、数名の女子生徒から嫌がらせを受けていた。
特にそれまでクラスで人気だったらしい御倉美緒と川島優愛が酷い。
それを見た男子生徒が何でそんなことするの? と注意されて自分達が軽蔑するような目で見られたのが余計に許せなかったみたいだ。
基本的に真面目な生徒ばかりの高校だから、あんなガラの悪い生徒がこんなとこに居るはずもない。
ちらと、見たら、ささっと離れていく生徒達の陰でにやにや笑っている御倉美緒と川島優愛の二人を見つけた。
わざわざ、中学校時代の友達の伝手でも辿って頼んだのだろうか。
地元の生徒の方がそういうのって有利だよね。
最初は私を庇ってくれてたクラスメイトの男子生徒もこちらを見てるがガラの悪い二人を止めようとはしないで学校に走って戻って行った。
多分、先生を呼びに行ったのだろう。
なら、少し待てば何とかなる。
伊達に父の転勤で高校生なのに、何度も転校しているわけではないのだ。
昔にいろいろあって、父は私が心配でいつも転勤には連れて行く。
二番目の兄は一人暮らしの大学生活をしているのに、私が駄目なのは、女の子だから心配なのかもしれないが。
こちとら高校二年生で、後、数か月で大学受験がある高校三年生だ。
転校した高校で、こんな事に巻き込まれているどころではないのだ。
「困っているのか? 」
いきなり、そう告げられて驚く。
彼は身長155センチの私と違って、185センチはある。
下手したらプロレスラー並みの体格をしていた。
クラスメイトの河村颯真(かわむらそうま)だった。
中々の男前で、私的には推しに入るくらいの容姿はしていたが、一年ほど意識不明の重体で入院していた為に、ダブりである。
そして、問題はその言動らしい。
聞いた話では入院して意識が無い間に「異世界で勇者をしていた」そうなのだ。
しかも、魔物が人間に入り込んで悪事を働く異世界で、次々とそれを始末していたとか。
まさか、高校二年生で……いや本来は三年生か?
こんな厨二の生徒がいるとは。
しかも、田舎でも進学校でまともで有名な高校なのに……。
という事で私は返事はせずに、さっきのクラスメイトの男子生徒が連れて来る先生を待つことにした。
勿論、警察でもいいし。
「でかっ! 」
「ああ、こいつだ。クラスに勇者がいるんだって美緒が言ってたじゃん! 」
そう言うとガラの悪い二人は笑い出した。
やっぱり。
余程頭が弱いのかやらせた相手の名前を出しちゃったね。
これで誰がやらせたか、警察でもくれば分かるはず。
ちらと御倉美緒を見たら舌打ちしてた。
ヤバいと思ったのか、二人とも他の生徒に紛れて逃げていく。
「てめぇさ。クラスじゃ馬鹿にされてるんだって? まあ、良い歳して厨二とか流行らねぇよ」
「俺ら空手やってるからさ。別に図体でかい奴なんて大したことねぇんだ。こうやってボディに叩き込めばな」
そうスキンヘッドの男は空手のサンチンの構えで息吹を放ってから強力な中段突きを放つ。
流れるようにそれをした事から有段者であることが分かる。
何故、分かるかと言うと、私も空手は多少やっていたし、大学に行ってる兄が空手の三段だからだ。
だが、奇妙な事が起こった。
中段突きはドンと異音はするものの河村颯真に当たっていない。
音はするから何かに遮られているようだ。
側から見ると打撃は当たっているように見える。
だが、私の目は誤魔化されない。
当たっていない。
そして、それは中段突きを放った本人も気がついてるようだ。
かなり、驚いていた。
「おいおい、だらしねぇな」
そう言って、回し蹴りを金髪のパーマの方が河村颯真に当てたが、また音はするけど当たっていなかった。
これまた、回し蹴りを放った方も気が付いたようだ。
相手は渾身の回し蹴りを無防備に食らっているのに揺らぎもしないのだ。
何かが彼らの打撃をバリアのように避けてるようだ。
「お前らは魔物か? 」
そう、河村颯真が淡々と聞く。
もし、今までの異常さが無ければ、私でも爆笑していただろう。
だが、何か尋常でない事が起こっている。
兄とともに空手をかじっている私は分かった。
さらに、中学生から転校歴が三回で小学校からだと六回にもなる転校生のベテランの私は誤魔化されない。
これは関わってはまずい案件だ。
河村颯真は無表情で涼しい顔をしていた。
それで、暴行していたスキンヘッドも金髪のパーマの方も表情が変わる。
さっきまでなら爆笑しただろうが、この異常な事態を二人も感じていたようだ。
私なら逃げる。
しかし、さっきから他の生徒の目を見る限り、このガラの悪い二人を知っているものがいるようだ。
つまり、地元ではそこそこの顔という事だろう。
だから、勇者だと名乗りってダブりで笑われている男に自分たちの自慢の空手が全く効かずにいるのを見られては困るのだろう。
「おい! 人目につかないとこに行くぞ! 」
「ついてこい! 」
二人が叫ぶ。
そう言われてついていく奴などいない。
だがしかし、よりにもよってこの自称勇者はついていこうとした。
「ま、待って! もうすぐ先生が来るし! 」
思わず私は自称勇者に声をあげてしまった。
「ちっ! 」
二人が舌打ちした。
だが、自称勇者は彼らについて歩くのを辞めない。
勇者だからか?
「ちょっと! 」
私が声を張り上げたが、自称勇者はちらと見ただけで気にしない。
自称勇者がついて来るから、当然二人のガラの悪いのも、そのまま連れて行くのを辞めなかった。
私の磨かれた転校生としての危機意識は非常に危険な信号を感じていた。
これは関わっては駄目なものだ。
だが、転校生には転校生としての、してはいけないルールがあるのだ。
つまり、転校生はすでに出来上がった人間関係の中に入るわけだ。
そんな中で自分を助けてくれる人こそ、関係をはぐくんでいかねばならない。
つまり、自分に対して気を使ってくれたような人物に対して知らないふりは出来ないのだ。
この異常な現象を見たうえで、絶対に関わってはいけないのにと思いつつも、引くに引けないのだ。
「あの子は助けてもらったのに助けてくれた人を見殺しにした」などと言われれば、もうどうにもならない。
勿論、それはあのガラの悪い、今時絶滅したかもしれないようなDQNのヤンキーみたいな連中も同じだろう。
自称勇者にびびって逃げたと言われれば終わる。
お互いに皆の目があるから逃げれ無い。
それは悲しくも現実であるのだ。
まるで蜘蛛の巣に絡めとられた虫のようだ。
私はため息をつくと彼らを追いかけた。
それが関わってはいけない特大の地雷だとしても。
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