職業戦隊ワークマン 方針会議
タヌキング
会議を始めます
夜の20時。○○市の市役所の第二会議室にて、職業戦隊ワークマンの方針会議が始まろうとしていた。
並べられた椅子に隊員達が座りつつ、隊員達と向かい合うように壇上に立つワークマンのリーダーであるワークレッドこと赤胴 鈴助(あかどう すずすけ)27歳が開催の挨拶をし始めた。彼は市役所で働いており、役所仕事をしながらヒーローとして戦っているのである。極めて平凡な男だが市役所勤めのキッチリとした性格が、チームを上手くまとめ上げている。ちなみに補足情報だが、生まれて今日まで彼女が居たことが無い。
「はい、それでは会議を始めます。宜しくお願いします。」
『宜しくお願いします。』
一同、個性豊かな隊員達だが、社会人ゆえに挨拶だけはちゃんと出来るのである。
「はい司会進行はこのワークレッドこと赤胴が努めさせて頂き、記録係の方はワークブラックこと黒龍 柚葉(こくりゅう ゆずは)さんお願いします。」
「はい、お任せください。」
黒龍 柚葉 22歳。彼女は生まれた頃から大鳳財閥の令嬢 大鳳 雲母(おおとり きらら)のお世話をすることを運命づけらた生粋の執事であり。今日も黒い執事服を着た男装の麗人といった感じで会議に臨んでいる。ツリ目で眼光は鋭いが長い黒髪の美人であり、胸も大きくスタイルも良い。オマケに如才なく全てのことをこなすパーフェクトレディなので、ワークマンのサブリーダーとして皆からの信頼も厚い。
「では今回の議題『職業戦隊ワークマンの問題点改善』に移らせて頂きます。それでは皆さん、挙手でワークマンの問題点を発言して下さい。」
「はい。」
「はい、ワークグリーンこと緑川 光太郎(みどりかわ こうたろう)さん。」
緑川 光太郎 28歳。ワークグリーンである彼は代々大工を生業とする緑川家の長男として生まれた生粋の大工であり。腰痛で休養している父に代わり大工の現場を取り仕切っている。ガタイが良くタフで、腕っぷしも強いので、そのパワフルさでワークマンに降りかかる逆境をいくつも跳ね返してきた。
ちなみにワークマンで唯一の既婚者である。
そんな彼はワークマンに日頃から不満を貯めており、それをココで吐きだした。
「言うのも今更なんだけどよ、この場を借りて言わせてもらうぜ。ワークマンの仕事のせいで作業が滞って家が建たない・・・建たないだよ‼」
思わず声を荒げる光太郎。彼の言わんとしていることが、この場の全員にはすぐに分かった。
「大体よ‼敵も狙いすませたかのように仕事中にやって来やがって!!空気読めよ‼仕事中に来るんじゃねぇ‼仕切ってる俺が現場離れたら作業が滞るだろうがよ‼このままだと予定に間に合わなくて違約金払わないといけなくなる‼べらぼうめ‼」
「緑川さん落ち着いて下さい。気持ちは痛いほど分かります。私も手続きの途中で抜けることになると、他の職員に仕事を回さないといけなくなり、裏でメチャクチャ悪口言われてるんですよ。私は市役所の嫌われ者です。」
緑川、赤胴の発言により会議室の空気が一気に重くなる。各々ワークマンとして戦うことで仕事や日常生活に支障が出ているのである。
ちなみにワークマンは仕事をしていないとスーツを着てもパワーを発揮できないという謎の縛りがあるので、ワークマンだからといって仕事を休んだり、辞めるわけにはいかないのである。
この思い空気の中、一人の男がこう切り出した。
「皆さんなんて、まだ良いじゃないですか。僕なんて身も心もボロボロですよ。」
彼の名前は青野 武之(あおの たけゆき)25歳。普段は交番勤務の警官として働きながら、ワークブルーとして二重に市民の平和を守っている男である。射撃をすれば百発百中の腕を持つ彼は、銃撃戦や味方の援護にとマルチな活躍を見せている。
だが疲れから精悍な顔立ちだった彼の顔は痩せ細り、目の下にどす黒いクマまで作っていた。
「警察官の激務に加え、ワークマンでの肉体労働で、本当にギリギリで生きてます。この間、警察官として下着泥棒を捕まえる時にウッカリ変身しちゃって、ワークリボルバーの銃口を下着泥棒に向けてしまいました。あはは、警察官がウッカリ銃殺しちゃいましたなんて笑い話にもなりません。」
ワークリボルバーとはワークマン達の共通の射撃武器であり、その弾丸は通常時でも厚さ十センチの鉄板すら撃ち抜くのである。
青野の発言で更に重い空気になる中、今度は一人の少女が発言をしようとしていた。桃色のツインテールのゆるかわ系ユーチューバーのピーチユカこと桃園 由香里(ももぞの ゆかり)19歳である。彼女はワークピンクであり、可愛いさで相手を魅了し、その隙に相手を倒す戦法を得意としている。
「最近動画の再生数が伸び悩んでてー、どうすれば良いですかねー?」
「・・・あの桃園さん、関係無い発言は控えてもらって良いですか?」
桃園の発言に深く溜息を着く赤胴。多種多様な時代になったとはいえ、空気を読まない彼女の存在も彼の目下の悩みの種であった。
「でも私だってー、ライブ配信中に戦いに駆り出されてたりして迷惑してるんですよー。この間は戦ってる様子を動画でアップしたら、不謹慎だって炎上しちゃうし。」
「そりゃ炎上するでしょ。全部桃園さんが悪いですよ。」
「えぇ、酷くないですかー。プンプン♪」
明らかにキャラを作っている桃園に密かに殺意を抱いた赤胴だったが、それを感じた黒龍が二人の間に割って入った。
「桃園さん、今度、大鳳財閥の食品部門とコラボして新商品のレビュー動画を作りませんか?そうすれば少しは動画視聴も伸びるかと思いますし、ギャラも弾みますよ。」
「あー良いですねそれ。でも手っ取り早く再生数を稼ぐには柚葉に私のチャンネルの動画に出てもらって、私と二人で水着で動画撮りましょうよ♪そしたら再生数なんて簡単に増やせますし♪」
「それは謹んで辞退させていただきます。」
深々と頭を下げてクールに断る黒龍。
ブーと口を尖らせる桃園だが、そもそも会議中に動画の話なんてすべきでは無かった。
話の脱線を憂いた赤胴はココで意見を締め切ることにした。
「さぁ、それでは問題点は大体出揃いましたかね。では今後これらの問題点をどうやって解消するかですが、何か解決策のある方はいますか?」
シーンと静まり返る会議室。赤胴以外のワークマンの顔に苛立ちが浮かび「それが分かってたら、こんな会議なんかするもんか」と書かれている様だった。赤胴もそれは承知の上だったが、進行上の都合で聞かざるを得ないことでもあったので、これは仕方ない。
会議はすっかり煮詰まってしまったかに思えたが、ここでワークマンきっての切れ者が手を上げた。それは黒龍 柚葉であった。
「黒龍さん、何か解決策がおありで?」
「はい、突然ですが皆さんは『パーマン』という作品をご存じですか?」
あまりに突拍子も無い発言に首をかしげる一同ではあった。
世代的にパーマンという名前は知っているが、具体的な内容まで把握している人物はこの会議室室には居ないし、そもそもパーマンが自分達にどういう関係があるのかが分からなかった。
「失礼。存じ上げなくても無理はないと思います。ですが作品を知っている必要はありません。要はそのパーマンにコピーロボットというモノが出てきまして、作中ではパーマンが活動を行っている間、そのコピーロボットが代わりを務めてくれているのです。そこに着想を得た私は、【コピーアンドロイド】なる物の作ることを思いつきました。コチラの資料をご覧ください。」
そう言いながら資料を全員に手渡していく黒龍。ホッチキス止めされた資料の最初のページには【C作戦】とデカデカと書かれていた。
「資料3ページに貼られている写真をご覧ください。二人の私の片方は私であり、もう片方はアンドロイドです。どうです見分けが付かないでしょう?」
皆は一斉にその写真を見たが、確かに直立している黒龍が二人写っているだけの写真にしか見えず、そのどちらかがアンドロイドとは説明されなければ分からない。
「この様に見た目からでは判断できない程に精巧なアンドロイドを作ることが出来るのです。外皮は人間に似せた特殊シリコンで、仮に触られてもバレる心配はありません。」
ここまで聞くと確かに代わりを務めさせることが出来るかもしれないと希望が出てくるが、皆の頭には疑問が湧き、それを緑川が代弁した。
「い、いくら姿が形が似せられてもよ。中身までは似せることは出来ないだろ?俺達は十人十色の性格や千差万別の能力を持ってるんだしよ。」
緑川のこの質問に黒龍は眉一つ動かさず、涼しい顔でこう返した。
「いえ、簡単なアンケートと一ヶ月程の活動データを取らせて頂ければ、ほぼ本人と同じ考えや記憶を持ったアンドロイドが完成します。現に今、私の代わりにアンドロイドが御嬢様のお世話をしていますが、御嬢様は私で無いことに気付く素振りすら無いようです・・・まぁ少し遺憾ではありますが。」
いつもお世話している御嬢様が機械人形に簡単に騙されていることは黒龍にとっては不服であり、キャラにもなく彼女は少し頬を膨らませた。
隣でそれを見ていた赤胴はそのギャップに萌えを感じたのだが、すぐに会議に集中し直した。
「じゃ、じゃあ僕の代わりに交番勤務してもらえるんですか!?」
「俺の代わりに現場の指揮もしてくれるってのかい!?」
「そのアンドロイド、動画に出して良いですか♪」
「青野さん、緑川さん、それは所属団体や他に働く人との交渉次第ですが、現実的には可能かと。桃園さん、コピーアンドロイドはトップシークレットの事案なので、それは駄目です。私が水着で出るぐらい無理です。」
それを聞いて青野と緑川は喜び、桃園だけは素に戻ってチッと舌打ちした。
赤胴も平静を装っていたが、コピーアンドロイドが自分の代わりに仕事をしてくれるなら、同僚達から陰口を叩かれずに済むかもしれないと安堵し、睡眠導入剤を飲まなくても寝れる日が来るかもしれないと、未来に希望を見出した。
こうして有意義な会議は終わりを迎え、会議室には椅子や机の片付けの為に赤胴と黒龍だけが残っていた。
「すいません黒龍さん、片付けを手伝わせちゃって。」
「いえいえ、どうせコピーアンドロイドが御嬢様のお世話をしていますから、急いで帰る必要もありません。フーッ。」
やってられないといった感じに深く溜息を着く黒龍。代わりをコピーアンドロイドが務めるにしても、やはり長年お世話をしている御嬢様には気付いて欲しかったようである。
赤胴はそんな彼女の心情を察してか、励ましの言葉をかけることにした。
「今日は黒龍さんがコピーアンドロイドの提案を出してくれて助かりました。会議を開こうと言い出したのは僕ですが、何も良い案が浮かばなくて胃痛が止まらなかったんですよ。本当にありがとうございます。」
「・・・赤胴さんはいつもお優しいですね。覚えていますか?いつだったかワークマンとして戦っている最中、私が敵の攻撃に倒れ、追撃のビームを受けそうになった時、アナタは身を挺して私のことを庇ってくれましたね。」
「あぁ、そんなこともあったかもしれませんね。まぁ一応リーダーとして隊員の命を守るのは当然の・・・。」
そこまで言いかけた赤胴だったが、突然後ろから黒龍に抱き締められ、背中に当たるムニュッとした柔らかな感触に頭が真っ白になり、持っていたパイプ椅子をガシャーンと落としてしまった。
そこから頭の再起動まで10秒程かかり、ようやく我に返った赤胴は顔を真っ赤にして焦って黒龍に話し掛ける。
「こ、黒龍さん‼何をやっているんですか⁉」
「何って?アナタのことを、あすなろ抱きしているんですが?」
「どうしてそんなことを⁉あと胸が当たってます‼」
「当ててるんです。駄目ですか?」
焦る赤胴に対して、いつも通り極めて冷静な黒龍。実はこうなることまで彼女の予想通りだったのである。
彼女がコピーアンドロイドの提案をしたのは何も皆の為だけにあらず、赤胴との二人っきりの時間を捻出するために考え出した一手であった。
そうとは知らない赤胴は突然のことに戸惑うばかりであったが、そんな彼が可愛いと思えるほどに黒龍は赤胴にゾッコンラブであった。
「もう市役所には誰も残って無いんですよね?」
「えっ?・・・あぁ、はい、一応そうですが。」
「じゃあ、会議室の電気消しましょうか。」
「えっ、いや、なんで?」
「電気消しましょうか。」
「・・・はい。何分そういうことに経験の無い男なので、宜しくご指導ご鞭撻のほどをお願いします。」
「はい、手取り足取り♪」
パチンと電気の消えた会議室で何が行われたのか?それを聞くのは野暮である。
今宵も夜が更けて行く。
次回予告
ワークマンに最大のピンチ‼大幹部のカバ元帥の猛攻に倒れるワークマン一同‼
やはりカバは強かった‼
その窮地に現れた黄金の戦士の正体とは⁉
あとなんかレッドとブラックがイチャイチャしている理由とは⁉
次回‼職業戦隊ワークマン17話『追加戦士は自宅警備員⁉』
はい、お仕事楽しいです‼
職業戦隊ワークマンはカクヨムの提供でお送りしました。
職業戦隊ワークマン 方針会議 タヌキング @kibamusi
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