第46話

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 長門長府の寺のひとつにおいて、毛利元就は鎮西の戦の仔細をつたえにもどった安国寺(あんこくじ)恵瓊(えけい)と対面していた。

 この頃はといえば、前年に織田信長が上洛を済ませ天下にその名が聞こえるようになった時期だ。入洛したからといって即座に天下がその者の手に転がり込むというものではないが畿内の大名でもなく、武田信玄などのようにその名が世にとどろく者でもない、元はといえば尾張のなかでも家柄としては陪臣と呼ばれる織田弾正忠家の者が京に旗を立てたことはやはり驚愕に値する。時の情勢を読むのにすぐれた者であれば、どこか“不吉な”ものを感じたとしても不思議はない。

 後顧の憂いを断っておかねばならぬ――元就が鎮西に攻め入ったのも、毛利家の安定のために領国を接する巨大勢力である大友家をたいらげておく必要を感じてのことだ。領土を増やしたいという欲よりも、家中の行く末、現当主の輝元の将来を案じてのことだった。

「して、戦の趨勢はどうだ」

「国人の謀叛に手を焼き、大友の軍勢は当家の将兵の討伐に集中できておりませぬ」

「されど、大友の奴輩が退(ひ)くようすはないか」

「筑前を毛利家に奪われれば大友家もまた危機に瀕しまするゆえ必死でございまする。また、大友家家中にも勇将は多く、特に戸次鑑連、高橋鎮種などの働きは目覚しいものがございまする」

「根競べじゃな。宗麟入道は己が領土の平穏のためならば弟を見殺しにする男、その性根は腰弱。いずれひざを屈しよう」

 名家の御曹司として育った大友宗麟に対し毛利元就は嫉妬の片鱗を声ににじませた。元々が安芸国内の一豪族にしか過ぎない元就にすれば宗麟という男は恵まれ過ぎといっていいほどに恵まれている。己が力を頼みにのしあがったわしとは違う――。

 そんな主に対し恵瓊はどこか意味ありげな目を向ける。

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