第43話
他方、在昌を歓喜させる出来事はほかにもあった。
先日、南蛮の天文の書が手に入ったのだ。サンチェスがデウス堂の書物を整理した折に見つけたといって持ってきてくれた。題名を『アルマゲスト』という。南蛮の天文の知識の結晶ともいうべき一冊、そのことをここ数日の空の観測で在昌は実感していた。
在昌は眠気を忘れて夜な夜な、目を無数の星々に負けないほどに輝かせながら空を見上げている。
書物に記されている通りに――正確に星は動いている。
星同士の距離や高度を、腕をいっぱいにのばして見たときの指の間隔ではかりおよその角度を割り出しては興奮するということをくり返していた。
惑星は、太陽の星座のなかの通り道である黄道十二星座のなかに必ず見えることを実感する。惑星は黄道星座のなかを行きつもどりつしながら、日にちがたつと星座のなかで位置を変えていくから他の星と見分けられた。
熒惑星(けいわくせい)(火星)は赤い輝きを放ちながら、西から東に順行し、一度逆行をはさんでふたたび順行する。
歳星(さいせい)(木星)は黄道十二座のなかを毎年、一星座ずつ移動していき十二年で空をひとめぐりし、その明るさゆえ黄道星座を見つけるときのよい目印となった。
これを頼りとすれば、天文の予測も容易となる――『アルマゲスト』の中身が確かだと確認するたびに在昌のよろこびはふくれあがっていく。
夜だけでなく、宵の刻や明けの刻限もまた太白星(たいはくせい)(金星)の観測で在昌の心は躍っていた。
さらにおどろかされたのは、大地が球でありそれが虚空に浮かんでいるという事実だ。世界の中心に人間の住まう球があり、そのまわりを月、辰星(しんせい)(水星)、太白星、熒惑星、歳星の順に並んで円周上に動いているという。
これは天動説にのっとった考え方で、在昌が知るよしもないがやがてコペルニクスの地動説に取って代わられる運命だ。しかし、この頃は未だに定説は天動説のほうだった。
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