第26話
ただ、それからは在昌の側が一方的に有利にことを進めるというわけにもいかなかった。
油断を捨てて動く相手方のふたりの武士の挙動はさすがにすばやく、また在昌の側の者は地金が出て敵から送られた鞠を拾い損ねる場面が多く出る。
じょじょにだが点数差が開いていった。
が、それが途上で変化する。石宗側の武士が鞠を受け損ねる頻度が圧倒的にあがったのだ。
来た――在昌は会心の笑みを浮かべる。
その上、こちらに鞠を放つ武士も精彩を欠いて在昌側の者が受けやすくなった。
ちら、と石宗の顔色を確認すると、「なにゆえだ」とでも怒鳴りたそうな顔つきをしている彼の姿がそこにはある。
そんな石宗の視線がこちらをとらえたことを認め、在昌は濡れ縁で見守っている宗麟からは死角になる位置で太陽を指さしてみせた。
とたん、石宗の顔に愕然としたものが広がる。
小細工をろうすることに熱中するあまり、そちは大局を見誤ったのだ――在昌は声に出さずに告げた。瞞天過海(まんてんかかい)、擬装の手段をもちいて相手を誘いそれにつけこんで勝利をおさめる策略を在昌はとっている。
在昌側の背後にはだいぶ地平線に近くなった太陽があった。白から紅へと色彩を変えた日輪はその光の筋でもって石宗たちの目を射ている。
これではまともに勝負することはできない。
結局、その後は在昌側が得点を一方的にかさね、興醒めした大友宗麟の命で石宗の敗北が決まったところで蹴鞠はお開きとなった。
「いやあ、さすがでござる」「まこと、すばらしい」「眼福でござった」
敵味方関係なく、在昌は蹴鞠に参加していた武士から称賛の言葉を送られる。やはり、褒められるとうれしいものだ。
ましてや、父に蔑まれて育った身。自然と在昌の口もとには笑みが浮かんだ。
しかし、武士たちから少しはなれた位置からこちらを凄絶な目でにらむ石宗に気づきその気持ちが一気に冷める。
また、やってしまったか――在昌はそんな思いを抱いた。京での法華宗との件と同じことをくり返している愚かな自分に対し、失望と虚脱感をおぼえる。元々、敵愾心を燃やしている人間が相手とはいえ、それを煽って何か得になることなどあるはずもなかった。
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