第15話

「思い切った仁だの」

 しかし、宗麟がふたたび笑みを浮かべたことでその緊張は瞬時に解消される。

「周囲の者は反対せなんだか」

「父には勘当を申し渡されもうした」

 在昌はそのときの父の形相を思い出し、辟易とした感情がよみがえり思わず眉をひそめた。

 さもあろう、とこちらを見て宗麟はふたたび歯を見せて笑う。

「万人の知るところからはずれた所業をなすと反発をまねく、世の理よ」

 言葉を継いだ彼の笑みには苦味が混じっていた。

 その視線は在昌ではなく、こちらの背後にひかえる家臣たちへと向けられている。

 色々とあるのだろう、と在昌は察した。

 耶蘇教への反発は彼自身も経験し、間近で見聞きしている。ために、その布教を許している宗麟が家中に波紋を呼んでいるであろうことも容易に想像できた。

 在昌が切支丹であることを耳にして家臣のなかにはあきらかな敵意のこもった視線を送ってくる者がいる。たとえ屋形が庇護していても切支丹は安住できないようだ。

「入信の仔細はわかったが、何ゆえに鎮西まで参った。たしかに京は松永弾正が司祭(パードレ)を追放したがために居心地は悪かろうが、あの一事からすでに二年が過ぎておる」

「実は法華宗の門徒との諍いがあり、ついにかの者たちがこちの命を縮めんと動いたという知らせが知己からあったため、京を発つこととあいなった次第でございます」

 先ほどの、父の記憶がよみがえったときにも増して大きな苦渋を在昌は感じる。

 ただ、あの件は自分の頑迷さにも原因があった。

 あのようなことを当地ではくり返さぬようにせねばな――。

「ほう、法華宗宗門徒に付け狙われたか、それは災難であったな。仔細を聞いてもよいか」

「師の司祭(パードレ)ヴィレラを宗門の僧がたずねてまいり、デウスの教えの齟齬を指弾せんという了見のもとにいくども質問をくり返しておりもうした。あの日、師は体調をくずしており、いい加減腹にすえかね月の満ち欠けに関する問いかけにこちが代わりに答えたのです」

 みずからの過ちをさらけだすのに抵抗はあったが、隠し立てすることが自分に有利になるとも思えず在昌は正直に語る。

「されど、ただ論破されただけで命を縮めんと思い定めるほど腹を立てるかの」

 宗麟の問いかけはもっともだが、在昌としても一番答えたくない質問だったために少し言いよどんだ。

「実は、『こちは天文を職といたしておる、在昌と申す者。こちが知るところでは、天文の摂理はさような釈迦が述べるがごとき粗野なものではありませぬ』ともうしてしまった次第で」

 在昌の返答に宗麟はつかの間あっけにとられた顔をした。そして、

「それは、法華宗の者も癪にさわって当然だの」

 宗麟はよりいっそう大きな笑い声をひびく。

 在昌にとっては己の恥じをさらすことになって必ずしも心地のいいものではなかったが、宗麟の側は彼のことをおおいに気に入り目通りは成功裏に終わった。

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