珍妙なる来客_2

 永杉は常人離れした速度でヘル子の目の前まで走りよると、立ち塞がる様に前に

立ち、ゆっくりと腰を屈めて目の高さを合わせた。

「おじさんだあれ?」

 ヘル子はきょとんとした顔で目の前の不審者に問いかける。

 永杉はメガネを光らせてヘル子に顔を寄せ、口を開いた。

「お嬢ちゃん、ちんこ好き?」

「死ねですミーッ!!!!!」

 走ってきた勢いのまま、うさみは永杉の側頭部にドロップキックをかます。

 吹き飛んだ永杉に飛びつくように覆いかぶさりそのまま崩れ上四方固めで

抑え込む。

「不審者ですミーッ!!誰か警察呼んでですミーッ!!!!ヘル子ちゃん防犯ブザー

鳴らしますミーッ!!」

「も、もがーっ!」

 うさみに抑え込まれた永杉はもがきながらうめき声を上げる。

「あっうさみちゃんだー! 今ちょうど遊びに行こうとしてたんだー。

この人うさみちゃんの知り合い?」

 ヘル子はあっけらかんとした様子で全力で永杉を拘束するうさみを見下ろす。

「知り合いなどでは無いのですミ! 完全な不審者ですミ!

危険なのでヘル子ちゃんは離れているのですミ!」

 そこにうさみの声を聞きつけた王国警察の2人組が駆け付けた。

「どうかしましたか? 大きな声が聞こえましたが」

「変質者ですミ! 小学生に卑猥な言葉を投げかけていましたミ!」

「い、いや、違いますよ、私は……」

永杉はなんとか拘束から逃れ声を出す。

「とりあえず、お話を伺いましょうか」

 うさみが崩れ上四方固めを解いて永杉を引き渡すと警官達は永杉の両腕を抑え

 離れていく。

 うさみとヘル子は遠目でその様子を見守るが、警官たちは永杉と少し話をした後、

永杉に敬礼をして去って行ってしまう。

 揚々と、うさみ達の元に永杉が戻ってくる。

「いや~、お待たせしました」

「待ってないですミが!? なんで戻ってきてるんですミ? 王国の警察は一体何を

やってるんですミ!?」

 永杉は綺麗な白い歯を見せ、さわやかな笑顔を作る。

「ああ僕、親が官僚なんで親の名前出して圧かけたら簡単に解ってもらえました。

ハハッ」

「この国腐ってるんですミが!?」

「いやはや、そんな事よりお嬢ちゃん。お名前は?」

 永杉は腰を下ろすと改めてヘル子に話しかける。

「地獄谷ヘル子。 聖ドッコイ小学校の三年生だよ」

「ヘル子ちゃん! 知らない人に安易に個人情報を開示してはいけないのですミ!」

 うさみが叱責するもそれを意に介さずヘル子は会話を続ける。

「ヘル子ちゃんっていうのか。おじちゃんはポコンチャーズっていう

ちんこを世界に広める為の会社の社員なんだ」

「あっ、知ってる! クラスの男子の間で流行ってるキンタマケンダマ作ってる

メーカーでしょ!?」

「なんですミ!? そのふざけた名前のケンダマは?」

「おお、その通り! まさに我が社の製品だよ! いやあー嬉しいなあー。

クラスで流行ってるなんて。あれは我が社の製品でもとびきりこだわって

作り抜いた一品ですよあれは」

「一体どんなケンダマなんですミ……?」

 うさみの問いにヘル子が答える。

「ケンダマって普通玉ひとつじゃない? でもキンタマケンダマは玉が2つも

ついてるんだよ!」

「普通のケンダマに玉が2つついてるだけなんですミ?」

「うん、そう」

「つ、つまんねえ商品ですミ……!」

「本当は、持ち手の部分をちんこの形にしたかったんですけど、それだと玉を乗せる部分がなくなるんで、そこは妥協しました」

「全然こだわってねーじゃねーかですミ!」

「じゃあ、今開発中のグッズも見て貰えないかな。生の小学生の意見や感想を

聞きたいんだ」

 永杉はジュラルミンケースを地面に置いて開きながら言う。

「いいよー」

「ダメですミ、ヘル子ちゃん! ちんこのグッズなんて見るだけで目に毒ですミ!」

 うさみがそう言うもヘル子の目は永杉が開くジュラルミンケースに釘付けに

なっている。

 そして永杉が意気揚々とそこからひとつ取り出した。

「ちんこ柄の風呂敷です!」

 永杉はそれを掲げて広げる。

 そのまんま、ちんこの柄の風呂敷だった。

「く、下らないにも程がありますミ……! そもそもうんこちんこでで喜ぶのは

男子小学生だけですミ……! 女子小学生にこんなの見せたらむしろ悲鳴

上げますミ!」 

「ぶあはははは!!!!」

ヘル子は前かがみの姿勢で両手をバンバン鳴らしながら大笑いしていた。

「マジで何が面白いんですミ!? こんなもので笑っちゃダメですミ!! 品性を

問われますミ!!」

「他のはー?」

ヘル子は笑いすぎて出てきた涙を拭いながら永杉に問いかける。

「じゃあ、次はとっておきですよ……! 今、開発部でもこんな物本当に発売して

良いのかと議論になるほどクオリティの高い一品です!」

「えーなになにー?」

「おい待てですミ。それどういう意味で議論になってるんですミ」

 ヘル子は目を輝かせ、永杉も得意顔でジュラルミンケースからゆっくりと、

もったいぶってそれを取り出す。

「じゃーん! フィギュアです! 1/1スケールスーパーリアルちんこ」

 うさみは完成されたフォームの上段回し蹴りを永杉の顔側面に叩きつける。

 永杉はきりもみ状になって吹き飛び、スーパーリアルちんこは手から離れて地面に落ちる。

 うさみはそれを拾って完成されたフォームで百メートル程先にある川に

投げ捨てた。

 ヘル子は倒れた永杉の傍にしゃがみこんで傍に落ちていた小枝でつつく。

「気絶しちゃったよー?」

「チャンスですミ。このまま殺して埋めますミ」

「えー? 駄目だようさみちゃん、殺人は」

「ハッ!? 一体何が!?」

永杉はすぐに意識を取り戻し、がばりと起き上がった。

「ちっ、起きてしまいましたミ」

「ちんこは!?」

「川に流しましたミ」

「川に!? そんな……ひどいじゃないですか! なんて事を……」

永杉は狼狽した顔を見せるが一瞬考えハッとした顔になる。

「そうか……! そう言う事か!」

「どういう事ですミ?」

「もし学校帰りの小学生が川を流れてきたちんこフィギュアを発見したら、これは

爆笑必至!! なるほど、さすがはあの黒魔女様に作られたというだけの事はある、

僕なんかより、圧倒的にちんこの扱いに長けている……!」

「誤解を招く言い方すんじゃねーですミ!」

「ねーねー、おじさん。これはなーにー?」

 その声でうさみと永杉がヘル子の方を振り向く。

ヘル子は永杉のジュラルミンケースを勝手に漁っていてその中の物を一つ手に持って

掲げている。

「ああそれは、ちんこ三節棍。三節棍は遠心力を生かした強力な打撃と、防御が

困難な複雑な軌道を併せ持つ、打撃武器最強とまで言われる事もあるほどの強力な

武器ですが、それゆえ非常に扱いづらく、使いこなすとなると大変な修練が必要と

なる、本来は扱うのに非常にハードルの高い武器なんだ。それを親しみやすい

ちんこ型にアレンジする事で子供からお年寄りまで使える手軽な護身用グッズに

早変わり、って寸法の商品さ!」

「親しみやすくしたところで扱いづらさ変わりませんミが? そもそも別に親しみ

やすくもないですミが?」

「あはははははは!!!!!!」

 またもヘル子は大笑いしながら、そのちんこ三節棍を華麗に振り回す。

「ヘル子ちゃん! そんなモン握ってはいけないのですミゴファッ!?」

 うさみが止めようと近づくとまさに三節棍の持ち味である予想外の軌道で

ちんこ三節棍が顔面に激突した。

「あっ! ごめーん! うさみちゃん大丈夫!?」

 ヘル子はうさみに詫びながらちんこ三節棍を束ねると永杉に返す。

「いやあ、怪我には気を付けないとね。でも、気に入ってくれて嬉しいよ。

実は今、我が社の総力を結集して学生様に開発した。勉強に使える最新のちんこ

グッズがあるんだ。ただこっちは教材で、それなりの値段がするから、できれば

お母さんと一緒に見て貰って購入を検討して欲しいんだけど、家に連れて行って

貰っても良いかな?」

「うん、いいよー!」

「ダメに決まってますミ!? こんな奴に家知られるとかありえないですミよ!?」

「このおじさん面白いから大丈夫だよー」

「そんなの大丈夫な理由になりませんミ! ヘル子ちゃんは警戒心というものを

持つべきですミ!」

 しかし結局、永杉はヘル子宅へ招かれることになり、ヘル子を守る為うさみも共について行く事にした。

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