聖剣女伝説Ⅱ_8

「くっ どうすれば……」

 一番大きく吹き飛ばされたシュヴァーは俯きながらなんとか体を起こす。

 うさみは人造人間故の耐久力でまだ半分以上HPが残っているが、他の2人はもはや極わずかである。

 あとほんの少しでも攻撃を受けたら戦闘不能は免れない。

「まずいですね……次あの攻撃が来たら多分僕は耐えられそうにない……

最後に矢を放てるだけ放って、離脱します! ごめんね、アーチェ」

「ううん、イーテがそう言うなら、私もついてくよ」

 弓からアーチェの声がする

「そうだな、おそらく私も最後までは戦えそうにない……。不甲斐ないよ」

 シュヴァーもそう言ってすまなそうにクロイランスをちらりと見る。

「いえ、わたくしの力も及ばず申し訳ありません」

 クロイランスもシュヴァーの気持ちを察して応える。

「うさみ君のHPだけはまだ余裕がある、君たちだけならなんとかなる!!」

 シュヴァーがそう言って、最後に出来るだけドラゴンにダメージを与えようと、

特攻の体制を取ると、イーテもそれに合わせて構える。

「ダメですっ!!」

 ソラスが叫び、それを制する。

「私たちは一蓮托生。それで私達だけでクリアなんて許されません……」

「ソラス君……しかし」

「だっとそうでしょう。ここまで6人で協力して来て、クリアできたのが私達だけ

なんて……! 私がもし、逆の立場だったら一生根に持ちます! この先一生

顔を合わせる度に、あ、以前ダンジョンで散々協力をさせるだけさせて最終的に私を差し置いてレアスキル取った人たちだっていう視線を送り続けますし!! 人に紹するときもこの方たち私達差し置いてレアスキル取ったんですよ~って

言って回りますもん!! そんな事になるくらいなら……どうせ失敗するなら全員失敗しましょう!!」

「いや……私たちは何もそこまでは……」

 ソラスの気迫にシュヴァーもイーテもドン引きしている。

「この聖剣女と関わったのが運の尽きですミ……」

 うさみも引いている。

 ソラスは失敗するなら全員で失敗しましょうと言ったが、本当にそうなったら

なったで何言われるかわかんないしもう絶対にクリアしなくては後が怖いと、

結果的に全員の心はこれ以上ないほど一つに結束した。

「うさみ様! もう一度溜めです! 今度は必ず直撃させます!!

シュヴァーさん、イーテさん! もう一度だけ、さっきの様に隙を作ってください!!」

 ソラスが叫び、シュヴァー達も決死の覚悟で再びドラゴンに猛攻をかける。

「フハハハ!! 愚かな!!ならば次で終わりにしてやろう!!」

 ドラゴンはあざ笑うようにシュヴァー達の猛攻を凌ぐ。

「くっ……もう、魔力も……」

 ソラスの溜めが完了する直前、イーテは最後の力を振り絞り、また目くらましの

矢を放つ。一瞬、ドラゴンの視界が遮られるがドラゴンは咆哮しながら爪を振り、

その光を切り裂いた。

「ハッ! 2度も同じ手を喰らうか!!」

 光がかきけされ神龍はうさみの姿をを捕らえる。

 しかしうさみが抱えていたはずの聖剣女の姿は無かった

「なにっ!? 剣はどこに…!?」

 神龍はフロア内を左右に見渡す。

「上ですミ……!」

 うさみはそう言ってほのかに笑い天井を指さす。

「まさかっ!……上に投げてそこから先程のビームを!」

 神龍はとっさに顔を上に向け、上方に先ほどの結界を張る、しかしそこにはただ

天井があるだけだった。

 と、次の瞬間。

「オラーーーーーーー!!!!!」

 神龍の股の下後方からから掛け声が上がる。

 神龍の目をくらました隙に床を這って神龍の股の間に潜り込んでいたソラスが

 勢い良く立ち上がりその頭の刃そ神龍の尻に突き立てる。

「ッオアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーー!!!!!!!!!????????」

 完全に想定外の位置からの攻撃にドラゴンは尻を抑えて背中を逸らせる。

「ボルテッカアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 ソラスは謎の叫び声と共に収束されたエネルギーを刃から一気に神龍の尻の穴に

放出する。

「アアアアアアアアアッガアッオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!????????」

 ドラゴンは腰を突き出すような姿勢で上空に吹き飛ぶと放物線を描くよううつぶせに落ち、尻を突き上げる形で突っ伏した。

「アアアア!! み……見事だ……!! クソ挑戦者共があああああああああああああ!!」

 褒めたいのか罵倒したいのかわからない叫びをあげながらドラゴンの身体は

光となって崩壊し、やがて完全に消滅した。

 パッパラパーとクリアを告げるおめでたい音楽が鳴り、スキルを得るための

クリスタルがある部屋への扉が開く。

「おお……やった……! 本当にあの状況から全員でクリアできるとは!」

「すごい、さすが伝説の聖剣女ですね!」

 シュヴァーとイーテは口々に賞賛の声を上げる。

「いえいえー皆様の協力があっての事ですよー」

 と、ソラスはいつもの調子で謙遜しながらうさみの元に歩いていくと剣の

ポーズを取る。

「え? もうクリアしたのにまた抱えるんですミ?」

「ええ、ダンジョンを出るまでは武器ですから、武器状態じゃないとスキル

貰えませんし」

「まあ、もう別に良いですミが」

 そう言ってうさみはソラスを抱え直す。

 一同はクリスタルの部屋へ向かい、シュヴァー、イーテと、クリスタルに

手をかざすと2人の体と、持っている武器がきらめき、スキルを獲得する。

 続けてソラスもうさみに抱えられたまま手をかざすが反応が無い。

「あ、あれ? 私だけ、何も起こらないんですが……」

 すると弓からアーチェの声がする。

「そりゃそうだよ、ソラスさんじゃなくて、うさみさんが触れないと」

「え? これって武器に付与できるスキルでは……!?」

 ソラスが尋ねると、シュヴァーが答える。

「スキル自体は武器じゃなくて使用者の方に付与されるんだよ。

ただし、その効果はこのダンジョンをクリアしたときに装備していた武器に対して

発動するっていう、かなり珍しいタイプのスキルなのさ、それゆえその武器をずっと使い続ける事になるからこその高い効果だよ、まあ私たちの様にずっと一つの武器を使い続けるような者にはうってつけのものになるのだが」

「えっ、じゃあうさみ様に装備して貰わないと意味ないって事ですか?」

「うん、そうだけど、何か問題でも?」

「うさみは本命のパートナーが見つかるまで一時的に協力しているだけだったの

ですミが……」

「なるほど、そういう事だったのか。だったらもういっそ、2人で組んでしまえば

いいんじゃないかい? 君たち息ピッタリじゃないか」

 シュヴァーはそう言って笑う。

「いえ…うさみ様は…人としては好きですし、尊敬もしているんですが、

生涯添い遂げるパートナーとして見ると…ちょっと違うっていうか…ズッ友としてならアリなんですが…なんていうか…。ごめんなさい。うさみ様」

「いや謝んなですミ!! こっちも求めてないですミ!!」

「ま、まあ。スキル自体は獲得できたんですし、いずれどこかで役に立つことも

ありますよ……」

 イーテは笑顔を取り繕ってフォローする。

「うう……これじゃあくたびれ儲けじゃないですか~」

 ソラスは項垂れ。全員はダンジョンを後にした。


〈続く〉

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