聖剣女伝説Ⅱ_6

 その後は特にギミックは無く、ひたすらモンスターとの連戦が続いた。

 うさみの耐久度、シュヴァーの殲滅力とイーテのサポートでうまく連携し、

3組は順調に進んで行く。

「う……うさみ様……ちょっと……」

  声を掛けられうさみはソラスの顔を見るとまた真っ青になっていた。

「え? まさかまた宝箱ですミ?」

 うさみは恐る恐る辺りを見回すがそれらしきものは見当たらない。

「いえ……酔いました……。吐きそうです……うぷっ」

「ちょっ! ここで吐くなですミ!? なんで酔うんですミ!?」

うさみはソラスを抱えたまま顔から距離を取るように上半身を仰け反らせる。

「うさみ様が乱暴に振り回すからですよ……私、三半規管弱いんです……」

 シュヴァーが心配そうにソラスの顔色を伺って言う。

「じゃあ、少し休もうか。今は周囲にモンスターがいる気配も無いし。

そろそろ最深部も近い、ここで少し体制を立て直そう」

「そうですね、僕もちょっと休憩したかったですし」

 シュヴァーの提言にイーテも賛同し、壁際に腰を下ろす。

「なんと気の利いた配慮でしょう……さすがです……」

 ソラスは青ざめたまましおしおと声を出す。

「まあ、確かにうさみもずっとソラスさん抱えっぱなしで疲れましたミ。

ええと、じゃあ横に倒して寝かせますミ?」

 うさみはソラスを一旦床に置こうとするが

「あ、いえ、私も座って休みます」

 といって自ら着地し、すたすたと壁際まで歩いてもたれかかって座る。

「自分で歩けるんですミ!?」

「え、そうですけど?」

 ソラスは青い顔のまま何当たり前の事言ってんのと言った顔を向ける。

「じゃあモンスターいない時は自分で歩けよですミ!」

「両手両足を伸ばしてるのも疲れるんですよ?」

「だったらそれこそ一緒に疲れる事はないのですミ……無駄に体力

使いましたミ……」

 うさみはへなへなとその場に座り込む。

 うさみとソラスはしばらくぐったりした様子でその場で休み、

シュヴァーは座らずに槍をひじの内側で抱き込むようにして立ったまま壁に

寄りかかっている。

 イーテは座ったまま布で弓になっているアーチェを手入れするように拭っていた。

 うさみはそれを横目で眺めながら言う。

「うさみもそっちの武器使ってみたいですミ。一時的に交換しませんミ?」

「ちょっ!? うさみ様なんて事言うんですか!? 浮気ですか? 不貞行為ですか?」

 ソラスは咄嗟に顔を上げうさみに抗議する。

「恐縮ですが、自分はお嬢様以外に振るわれる気はございませんので」

 黒い槍からクロイランスの声がする。

「ハハ。すまない、こう見えてこいつは気難しい奴でね」

 と、シュヴァーが笑う。

 弓からも「アタシもイーテ意外とは組まないって決めてるから」と声がした。

「それに、クリアするときに武器を交換しちゃっていたら……」

 続けてイーテが何か言いかけた時、シュヴァーの目の色が変わり咄嗟に姿勢を

正して槍を握り直す。

「おっと、残念ながら休憩時間はここまでのようだ」

 通路の奥から何体かのモンスターがやってくる気配がし、イーテも立ち上がり

弓を構える。

「ソラスさん、大丈夫ですミ?」

「ええ、なんとか……回復しました。でもうさみ様、もうちょっと丁寧に、繊細に、

お願いしますよ」

「出来るだけ善処しますミが……」

 ソラスも立ち上がり再び剣のポーズをとるとうさみはそれを抱き抱える。

 やってきたモンスターたちを撃破したうさみ達はそのまま進み、

やがて大きな扉の前にたどり着く。

「これは、仰々しい扉だな。おそらく、この先が竜の居る最深部だろう」

 シュヴァーはそう言いながら扉を見上げる。

「じゃあ、準備は良いかい……? 開くよ……!」

 シュヴァーは少し緊張を見せた様子で扉に手を掛け、他の2組は固唾を呑んで

その様子を見守る。

 大きな扉の向こうは、所々金色の装飾が施された白い壁に囲まれた広々とした

円形の部屋であった。

 高い天井の中央には魔法で作ったような真っ白い光の球があり、部屋全体を

眩しく照らしている。

 正面の奥には豪華な装飾が施された、小さな扉がある。

「きっとあの扉の向こうにクリスタルがあるのでしょう」

 ソラスが言った。

 うさみが最初に部屋に踏み込み。続いて全員が部屋の中に入ると、今入ってきた

扉がひとりでに閉まり、ガタンと錠のかかるような音がした。

最後に入ってきたイーテが試しに扉に手を掛けてみるが、びくともしない。

「やっぱりもう、出られないみたいですね」

 イーテは覚悟した面持ちで部屋の中央を見る。

「来るぞ……!」

 シュヴァーがそう言いながら戦闘態勢を取ると部屋の中央の床に巨大な魔方陣が

出現し、光を放つ。

 そこから這い出るように姿を現したのはとてつもなく巨大なドラゴンであった。

 その隊長は数十メートルにも及び、以前うさみたちが対峙した巨大トカゲとは

まるで比べ物にならない。

 身体は白銀色をしており角や牙は神々しい黄金色をしていた。

 背中には大きな翼があり上体を起こして後ろ足2本で立っている。

ドラゴンはうさみたちを遥か上方から見下ろすように睨みつけ、口を開く

「よくここまでたどり着いたな。挑戦者たちよ」

「しゃべりましたミ……! これも幻影なのですミ?」

 うさみの言葉に、ドラゴンが応える。

「フハハ我はこれまでに貴様らが出会ったザコモンスターとは違う。

このダンジョンの管理者の記憶や思考を魔力により

実体化させた、いわば魂の具現化。貴様たちが新たなる力を授けるに値するか、

試させてもらう!!」

 ドラゴンが大きな咆哮を上げ、戦いの火蓋が切られた。

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