聖剣女伝説Ⅱ_2

「ぎゃあああああああああああですミィィィーーーーー!!」

うさみはソラスと共に大砲で空高く飛ばされ丸くなってくる来る回りながら

ハテーノ大陸に向かう。

 その場のノリに流されるまま飛ばされていたうさみだったが

やがて地面が近づいてくるとこれ着地すると死ぬのではないかと危惧したものの

さしたる衝撃は無くすとんと無事地に降り立つことが出来た。

「ここがハテーノ大陸ですミか……」

 安堵しながらうさみはあたりを見回すと、周りの植物にはうさみが見たことが無い

花や実をつけているものもある。

 木々の向こうには大きな城や雲まで届くような高い塔も見え、さらに遠くの空には

小さな島まで浮かんでいる。

「すごいですミ。うさみの地元より遥かにファンタジー色が強いですミ。テンションが上がりますミ」

「じゃあまずはあの街に向かいましょう」

 ソラスは景色に見とれているうさみに声をかけ木々の奥を指さす。

 そこには大きな石積みの壁に囲まれた街の入口があった。

「ようこそ! ここはハジメノ街です!」

 うさみ達が門を抜けると入ってすぐの所に立っていた男が聞いても居ないのに

街の名前を教えてくれる。

「厳重な壁で覆われていた割にはよそ者でも簡単に通してくれるんですミね」

「あくまで外壁は主に獣やモンスターの侵入を阻むためのようですね。

ここには世界中からたくさんの冒険者が多く集まってくるらしいですから」

 地図を持って歩くソラスに案内されながら、うさみは街を見渡す。

 街中の様子もうさみの地元とは大分違っていた。

 街行く人のほとんどが様々なデザインの鎧やローブを着て、剣や杖を携えている。

 数人でパーティを組んでいるような者達もあちこちに居た。

「まずはあそこの冒険者ギルドに行って仲間を集めましょう」

 ソラスはそう言って大通り沿いにある大きな木造の建物を指さした。


 中は広々とした酒場のような場所で、飲食が出来る椅子やテーブルがあり

壁には冒険者たちへの依頼が張り付けられた掲示板などもあった。

 うさみは物珍しそうにそれを眺める。

「じゃあ、ここで良さげな人がいないか、少し様子を見ましょう」

 そう言って席に着いたソラスに促されうさみもソラスの向かいの席に付く。

「うさみ様は何にします?」

 この店は飲食も出来るようでテーブルの脇にはメニューが添えられていた。

 ソラスはそれを取るとうさみにも見えるようにテーブルに広げる。

 うさみは人造人間ゆえ食事は必要としないが、ソラスに席に付く以上は何か

頼まないと、と促されしぶしぶと紅茶を頼む。

 人造人間たるうさみは固形物は摂取できないが、水冷装置を備えており、

液体であれば経口摂取で貯水タンクまで送れるように出来ているのである。

 しかしジュースなどの砂糖を含むものはタンクがベタベタになってメンテの時に

めんどくさいからと黒魔女に控えるように言われていた。

 ソラスはDXナポリタンセットとチャーハンとメロンクリームソーダを注文した。

 そして2人でギルド内の冒険者を眺める。

 少しするとカランカランと入り口のドアに備え付けられた鈴が鳴り、

店から出ていく冒険者と入れ違いに、大柄な男が入ってきた。

 威厳のある顔には左目をかすめるように大きな傷跡が残り、全身はゴツゴツとした鎧で覆われ、背中には身長と同じくらいの大剣を携えている。

「おお、見るからに強そうな戦士タイプですミ、あの人誘いますミ?」

 うさみはソラスに問いかけるが、ソラスはテーブルに両肘をついて指を組み、

その手を口元に添えた姿勢を取り、男を凝視していた。

 ちなみに先程注文した料理は一瞬で平らげている。

 そしてしばらく凝視した後、何処か失望したような顔で男から目を背ける。

「ダメですね」

「え? 何でですミ? あんなに強そうなのにですミ」

「うさみ様には見えませんでしたか?」

「え……? 何をですミ……?」

「彼が入ってくる時すれ違いざまに店を出て行く方が居ましたよね、

その人は彼が通りきるまで扉を開いて押さえてくれていたのに

彼は会釈の一つもしませんでした」

「それダンジョン攻略に必要な要素ですミ!?」

「何を言っているんですかうさみ様。 パーティを組むにあたって最も重要なのは

お互いを思いやる心です。協調性のない人間が一人パーティに居る、

たったそれだけの亀裂からパーティーの大崩壊に繋がるのですよ!」

 強い口調でそう言われ、うさみは少し身を引いた。

「いや……でも今日一日の話ですミよね?」

「だからこそ、ですよ。常日頃から気を配れる方であれば出会ってすぐにでも、

上手く連携できるものです。そう言う人を探しましょう」

「そう言われても、そんなの見てもわからないですミ」

「うさみ様はそもそも洞察力に欠けているのかもしれません。

正しい配慮とはまず周りを見る事から始まるのです。

周りの状況を把握できれば、己が何をすべきかも自ずとわかります。

まずは洞察力を養いましょう。私をよく見てください。

今日はいつもと違うところがあります。わかりますか?」

「いつもと違うって、まだ数回しか会ってないんですミが……」

そう言いつつもうさみはソラスをじっと見つめる。

「少し太りましたミ?」

「うさみ様のバカーッ!! 違いますよ!!

まあ2キロ太りましたけど!! そこじゃありませんよ!!」

「太ってんじゃねーかですミ! しかも前会った時から1週間くらいしか

立ってませんミよ!? そこから2キロですミ!?」

「今それは良いんですよ! とにかく、他の所です」

 うさみは改めてソラスを見るが何もわからないので首を横に振って言う。

「わかりませんミ。ほかに何か違いますミ?」

「私、今日朝一で美容院に行ってきてるんですよ」

「わかるわけねーだろですミ!!」

「ちゃんと見てください。この前お会いした時より全然毛先とか

整っているでしょう?」

「前会った時にそこまでソラスさんの毛先を注視してないですミ!!」

「全く、それが至らないというのですよ、うさみ様……」

ソラスはやれやれといったふうに両手の平を上に向けた。

(こ、この人……実はとんでもなくめんどくさい人だったのではないのですミ……!?

帰りてえですミ……!)

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