聖剣女伝説_9〈完〉

 ドラゴン(仮)討伐から一夜明け、黒魔女亭の自室では昨日の疲れから

昼まで寝ていたうさみはドアをノックされる音で目を覚ました。

「うさみ、お客さんだぞ」

 続いて聞こえてきたのはケンの声だった。

「う~ん、うさみにですミ?」

 うさみは体を起こしながら、そういえば先程まどろみの中で館のドアノッカーの

音がしていた事も思い出す。

「客室でお待ちだ」

 ケンに促されうさみは素早く身支度を整え客室に向かう。

 客室に居たのはは聖女ソラス改め本名聖剣女クラウソラスであった。

「あ、ソラスさん……で良いんでしたっけミ?」

 本名がクラウソラスと判明した後も、本人の意向で呼称は自他ともに慣れ親しんだ

ソラスを使う事にしていた。

「はい、うさみ様。昨日は本当にありがとうござました」

 ソラスは一度ソファから立ち上がって丁寧に挨拶する。

「これ、気持ちばかりですが」

 そう言って差し出されたお礼の紙袋をうさみも丁寧に受け取る。

「これはどうもご丁寧にですミ。わざわざお礼を言いに来てくれたのですミ?」

「あと、一度ご挨拶をしておこうかと」

「挨拶ですミ?」

 うさみはソラスの言葉の意図がわからず首をかしげる。

「ええ、記憶が戻り、私が何者なのかを思い出しました。私が再び目を覚ました

という事は、かつての魔王に匹敵する、この世界にとっての脅威が生まれつつあるという事なのかもしれません」

「世界にとっての脅威ですミか……」

 うさみはそれはまさか黒魔女の事ではないかと疑う。

 そうだとしたら是非討伐して欲しいところだが、仮にそうだとしても

今ここで多分それ今この館の地下でくだらない実験してる奴ですよと告げるのは

いろいろ時期尚早であろうと案じ口には出さなかった。

「ですのでこれから私は、共に世界を救う新たなる勇者様を探す冒険に

赴きます。もしかしたら、長い道のりになるかもしれません」

「そうなのですミか。出会ったばかりとはいえ、それはちょっと寂しいですミが

ご武運を祈りますミ」

「そう言って貰えて嬉しいです。あの日、神殿で目覚めてから今日までの事は、

もう決して忘れません。教会での日々も……この街の人々との交流も……

昨日の戦いの事も……昨日うさみ様に重いって言われた事も!!」

「それまだ根に持ってましたミ!? 謝罪して撤回しますミ!」

「あとはじめてこちらを訪れたときに、お茶の一つも出されず廊下で立ちっぱなしにされたことも……!」

「そ、そういえばそうでしたミ? それも悪かったですミね……」

「それから……」

「まだなんかありましたミ!?」

「いえ、これから先はうさみ様関係なく教会や街で起こった

ちょっとこれ配慮が足りないんじゃないと思ったベスト30選を……」

「そんなもんここでうさみに聞かされても困るんですミが?」

「うーん、そうですか? 盛り上がると思ったんですが…… まあそれもこれも、

今となっては大切な思い出です……」

ソラスは目を閉じてしみじみと言う。

「そうである事を願っていますミ……」

それからなんやかんやでソラスは世間話に花を咲かせ、数時間居座った挙句夕飯までご馳走になってから帰り支度をする。


「では、うさみ様。ごきげんよう」

 もうすっかり日が落ちており、ソラスは黒魔女亭を出て、見送るうさみに手を

振りながら黒魔女亭を去って行く。

 結局ソラスの配慮が足りないんじゃないと思ったベスト30選を聞かされた

うさみはぐったりした様子でソラスの後ろ姿を見つめていた。

「なんか……昨日より疲れた気がしますミ……」

うさみはやがてこの聖剣女のパートナーになるであろう勇者の心労を憂いた。


第4話 聖剣女伝説 編〈完〉

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