聖剣女伝説_8

「今度こそ、終わりましたミ……」

 うさみはぽつりと呟く。

 やはり、出来る事なら救いたかった。

覚悟はしていたつもりだったが、それでもやるせない気持ちはこみ上げてくる。

うさみしばらく、あたりを漂う光の残滓を眺めていた。

「こ、これは……? ドラゴンがトカゲになっているんだな……?」

 セツメイがいつのまにか岩壁の方に行き、屈んで地面を見下ろしている。

「え? ですミ?」

うさみはソラスを下ろし、そこに駆け寄る。

 小さなトカゲが仰向けになっているのが見えた。

紫色で尻尾が黒い、黒魔女に大きくされていたトカゲだ。

 まだ息はあるようで、おなかがゆっくりと動いている。

「生きてるんですミ?」

「き、気絶してるだけだと思うんだな」

 説明はメガネを摘まみながらトカゲに顔グッと寄せる。

「な、なるほど、つまりこれはドラゴンでは無かったんだな。トカゲが何らか原因で

膨大な魔力を帯びて突然変異してしまっていたんだな」

「なんだと……そんな事があり得るのか?」

 タイノもよろよろと近寄ってきて、トカゲを見下ろす。

隣には元の姿に戻ったソラスが寄り添い、聖剣女の力で腕の骨折を治療していた。

「ふ、不可能ではないんだな……ただ、並の魔法使いでは到底及ばない程の

魔力が必要なんだな。とても人間技とは思えないんだな……。

この前の巨大昆虫事件といい、とてつもなく強い力を持つ邪悪な何かが、この王都で

暗躍しているのかもしれないんだな……」

「そ、それはおぞましいですミねー」

 うさみは後ろめたさから視線を泳がせる。

やはり黒魔女の事は早くなんとかしなければならない。

「もう止めを刺さなくていいのか?」

 タイノは治療してもらった腕の具合を確かめるように動かしながら言う。

もう骨折は治っているようだ。

「も、問題無いと思うんだな、もう魔力が残っている痕跡はないし、

また変異するという事は無さそうなんだな」

「ふうむ、まあ、お前がそういうのなら、大丈夫そうだな」

 タイノは治療してもらった腕の具合を確かめるように動かす。

「し、しかし、上手く魔力だけ吹き飛ばせたんだな。あとちょっと強ければ

このトカゲは死んでいたし、ちょっと弱ければ魔力を飛ばし切れず、

完全に元には戻せないんだな。絶妙な力加減なんだな」

「そうだったんですミ……」

 うさみはただ、ソラスを力任せに振っただけだった。

ならばソラスが手加減してくれていたのだろうと察した。

「やはり……聖女と呼ばれるだけの事はあるのですミ……」

 うさみは、タイノの骨折を治療し終えて他の隊員たちの治療に回っている

ソラスに感謝の眼差しを送る。

 そのままセツメイがトカゲを近くに落ちていた小枝で突いていると、

トカゲは目をさましてちょろちょろと岩壁を登って行ってしまう。

「あ、いいのか? うさみさん、神殿で捕獲しようとしていたが」

タイノは少し慌てた様子でうさみに問いかける。

「元に戻れたなら、いいのですミ」

うさみはそう答えて、丘の上の方に消えてゆくトカゲを見つめていた。

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