聖剣女伝説_7

「うさみ様! 今戦えるのはあなただけです! 私を使って下さい!!」

 頭から巨大な刃を生やしたソラスは剣みたいなポーズをしたままカッと

目を見開いて言う。

「いやどう使えとですミ!? どう持てとですミ!?」

「普通に両手で抱えるんですよ!」

「普通って何ですミ!?」

 押し問答しつつもうさみはソラスの後ろから両手を回して抱えてみる。

「お、重いですミー…!」

「ちょっと!? 何ですかその配慮を欠いた発言は!? これでも結構努力して

絞ってるんですよ!?」

ソラスは顔を赤くして声を上げる。

「そ、そんな事言われても重いもんは重いですミ……」

「刀身! 刀身の部分が重いんです!」

 ここまで律儀に待っていてくれた大トカゲだが、さすがにしびれを切らして

襲い掛かってきた。

「ちょっタイム! タイムですミ!」

 うさみはソラスを抱えたままなんとか後ろに飛び退き、大トカゲの

攻撃を躱す。

 そのまま一旦距離を取ろうとするが、大トカゲの口の中にまた紫色の光が溢れる。

「まずい! さっきのブレス攻撃だ!!」

 タイノが叫ぶ。

「ソラスさん抱えたままじゃ避けられませんミ! 投げ捨てて良いですミ!?」

「なんて事言うんですか!? 私が防ぎます! 私を前に突き出してこのまま突っ込んでください!!」

「突っ込めって……いや、もうやるしかないですミ……!」

 うさみは戸惑いながらもソラスに言われた通り大トカゲに正面から向かって行く。

「聖剣女バリアーッ!!」

 ソラスが叫ぶとうさみの前面に金色の結界が生まれる。

 その大きさは、これまでの比にならない程の大きさだった。

 それはドラゴンのブレス攻撃を全て受け止めて跳ね返す。

「す、すごいですミ!」

 跳ね返ったブレスが顔を覆い、大トカゲが怯む。

「今です! うさみ様!」

 うさみそのまま突き進むとソラスを抱えたまま跳躍する。

「おりゃーっですミ―ッ!!」

 大トカゲの頭目掛け、力いっぱいソラスを振り下ろす。


 ごい~~~ん。


 刃の平らな部分が巨大トカゲの頭に叩きつけられ大きな音を響かせた。

 剣の刃はソラスの両耳側にあるので、現状の真後ろから抱きしめているような

姿勢で振り下ろせば当然顔の正面が相手に向き、刃の面が打ち付けられる形になる。

 刃の振動がソラスの頭まで伝達する。

「痛ったあ~~!! うさみ様! それじゃ斬れませんよ! 角度角度!!」

 頭を打たれた大トカゲは、頭上に鳥のエフェクトをピヨピヨ回らせていた。

その隙にうさみは一旦ソラスの足を地面につけ、90度回して横から抱え直そうと

するが、その体制で強く抱きよせようとすると姿勢がずれて斜めってしまう。

「安定しませんミ……! 首だけ90度回せないんですミ?」

「あ、そっか。うさみ様、頭いいですね! 配慮には欠けるのに!」

「さっき重いって言ったの根に持ってますミ?」

 そう言ってソラスは首を90度回すと丁度いい感じになった。

 同時に大トカゲが、意識を取り戻し、前足を繰り出す。

 ガキィン。

 うさみはそれをソラスの刀身で弾き、続けざまに斬りかかる。

 刀身は今度はしっかりと大トカゲの肩を切り裂き傷口から紫色の光が噴き出す。

「た、体内から魔力が抜け出てるんだな! 刀身自体に、結界と同じような

効果が付与されているんだな!」

 セツメイが木陰から身を乗り出して言う。

「なるほど、いけそうですミ……!」

 うさみは続けて攻撃し、敵の反撃をソラスが結界で防ぐ。

 しばらくその応酬が続く。


「つ…疲れてきましたミ…」

 人造人間たるうさみは、常人より遥かに優れた体力を持っている。

だが、それを以てしても、平均体重より少し重めの女性を抱えて振り回し続けるのはキツかった。

「うさみ様! なんか今配慮を欠いた文章が!」

「地の文を読むなですミ!」

 うさみは大トカゲの爪による攻撃をソラスで弾くと

一旦距離を取る。大トカゲの姿を見渡すと、傷口はほとんど修復されていた。

「まだ体内に相当量の魔力が残っているようですね。このままでは埒が空きません。

思い出しました……! ならば、溜め斬りです!」

 ソラスは両手を広げたポーズのまま、視線だけをうさみに向けて言う。

「溜め斬り…!? 何ですミ、それは!?」

「私を大きく振りかぶり、体制的に一番キツイ所でしばらく踏み留まって

ください」

「一番キツイって………この変ですミ?」

 うさみはソラスを抱え背中を後ろに逸らせる。

「まだ足りません! もうちょっとです!」

「ええ……これ以上はマジでキツイですミ。うぐぐ……」

 うさみはさらに大きく後ろに反り聖剣女を高めに掲げる。

 テュイテュイテュイ。

 突然SEが発生し、金の光が波打つように剣に収束していく。

「そこです! 今、溜まってます! その体制で堪えてください!」

「こっ腰に来ますミー……!」

 うさみは目をつむって歯を食いしばる。

 人造人間たるうさみは、常人より遥かに強い体幹を持っている。

 だが、それを以てしても、この姿勢を維持するのはキツかった。

 それでもなんとかこらえて溜め続けると、だんだんと収束する光が

大きくなっていく。

「うさみ様! 避けて!!」

 突然ソラスが叫び、うさみは咄嗟に目を開く。

 大トカゲが溜めの隙を狙い攻撃してきていた。

 うさみは溜めの姿勢を崩し、なんとか躱す。

「あっ危ない所でしたミ……」

「すみません! 溜め中は結界が張れないみたいです!」

 うさみがソラスを見ると溜まっていた光は消えて無くなっていた。

「溜めがキャンセルされてますミ」

「なんとか、溜め時間を確保しないと……タイノ様!」

 ソラスは少し離れた場所から様子を見ていたタイノに声をかける。

「なんとか、10秒、時間を稼げませんか!?」

「10秒……!」

 タイノがその言葉を復唱する。

 言葉にすれば短い時間だが、一瞬一秒の隙が命取りになる戦闘の中に置いて

敵を前にしてそれだけの時間動かずに留まる事がどれだけ難しいかを、その経験の

豊富さゆえタイノはこの場の誰よりも知っていた。

 だが同時に、この状況を打破するためにはそれしかないだろうという事も

直感で分かった。

「わかりました! やってみます!」

 タイノは意を決し、右手でバトルアクスを強く握りしめる。

 タイノが大トカゲに向かって走り出すと同時に、うさみは再び溜めの姿勢を取る。

 テュイテュイテュイ。

再びSEと共にソラスに金色の光が収束してゆく。

「こっちだ! 来い!」

 タイノが気を引こうと大声を出すが大トカゲはそれを無視しうさみたちに目を

向ける。

 テュイテュイテュイ。

「クソッ! このお!!」

 やむなくタイノは負傷した腕を抑えながら大トカゲの足に体当たりする。

さしたるダメージにはならなかったが、大トカゲの体制を崩す事には成功した。

 テュイテュイテュイ。

 大トカゲは姿勢を立て直しつつ狙いをタイノに変え前足で襲う。

そこにまだ動ける隊員たちが加勢して大トカゲの注意を散らす。

 テュイテュイテュイ。

 タイノは大トカゲの攻撃をなんとか躱し続けるが、大トカゲは突然大きく姿勢を

変え、タイノ達に背を向けるように回転しながら太い尻尾を繰り出した。

「まずいっ!!」

タイノと隊員たちはそれがうさみ達に届かないよう、全力で受け止め、

そのまま大きく吹き飛ばされるが、大トカゲのしっぽも跳ね返される。

「ぐわあっ!!」

タイノの身体が地面に叩きつけられる。

「タイノさん!」

 ソラスがうさみに抱えられたまま声を上げる。

 テュイテュイテュイ。

「う……くっ」

 タイノはすぐさま体を起こそうとするが全身が悲鳴を上げ、立ち上がれない。

 なんとか起き上がれた隊員たちはタイノを庇おうと駆け寄る。

 テュイテュイテュイ。

 しかし大トカゲはそれを無視し再びうさみたちに目を向けると

ぐっ、と姿勢を下げる。突撃の構えだ。

 テュイテュイテュイ。

「間に合いませんミ……!!」

 うさみは一旦溜めを解除して退避に移るか迷う。

 テュイテュイテュイ。

「くらえなんだなあああああああああ!!!!」

 大トカゲが今まさにうさみたちに突撃しようとした瞬間、木陰からセツメイが

大声をあげながら走り寄り、うさみが落としたカッツバルゲルを拾い投げつけた。

それは運よく大トカゲの目に当たり一瞬怯ませる。

 テュイテュイテュイ。

 大トカゲはギロリとセツメイを睨むとそちらに向きを変えた。

「ひっ!?」

 慌てて離れようとするセツメイだが足がもつれてその場に転倒してしまう。

「セツメーイ!!」

 なんとか体を起こしていたタイノは彼の名を叫ぶ。

 テュイテュイテュイ。

 大トカゲが牙を剥き、セツメイに迫る。

 テュイテュシャキーン!!

 うさみが抱えていたソラスの身体が溜め完了を告げる輝きを放つ。

「撃てます! うさみ様!」

 だがうさみたちから大トカゲまでの距離は剣の間合いを遥かに超えていた。

 大トカゲがセツメイに飛び掛かる。

「間に合いませんミ!」

「問題ありません! ここから届きます!! 振ってください!!」

 うさみはソラスに言われた通り、大トカゲに向けてソラスを大きく振る。

「うおりゃああああですミイイイイイ!!!!!」

 ソラスの刀身が黄金の光に包まれ、それが剣先に向かって放出される。

 それは大トカゲまで届くと吹き飛ばしながらさらに太く広がり、その巨体を全て

包みこんで奥の岩肌まで届く。

 ギャアアアアアアアアア。

 光の中から大トカゲの悲鳴のような鳴き声が上がる。

 やがて光の放出が収まり、放たれていた光は舞うように散っていく。

その跡に大きなトカゲの姿はもう無かった。

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