黒魔女亭の怪物(ｸﾘｰﾁｬｰ)

聖剣女伝説_6

「ぐえーっですミーっ!!!」

　大トカゲのアッパーカットを喰らったうさみは盛大に宙に飛ばされる。

　拍子に手に持っていたカッツバルゲルも落としてしまう。

「うさみ様ー!?」

　ソラスが吹き飛ばされたうさみに気を取られた直後、大トカゲは

背を向けるようにして、尻尾でソラスとその傍にいた隊員をなぎ払う。

「きゃあっ!?」

　咄嗟に張った結界ごと弾かれ、ソラス達はまとめて吹き飛ばされる。

「このおっ!」

　タイノはボロボロの身体で飛び上がり、尻尾を躱して着地すると、

一気に距離を詰め、大トカゲに斬りかかる。

　しかし皮膚がさらに硬くなっており、タイノも負傷した影響で

全力でバトルアクスを振れず、小さな傷が出来る程度であった。

　それでもその後の大トカゲの前足での攻撃をバトルアクスで受け止め、

ボロボロの体でなんとか応戦する。

「聖女様!　今です!」

　タイノの呼びかける前に、ソラスは起き上がって大トカゲに走り寄っていた。

大トカゲの側面に回り込みむと両手を大トカゲの側面に当て、体内に

埋め込まれるように結界を繰り出す。

「ギャアアアアア!?」

　大トカゲが悲鳴のような鳴き声を上げる。

結界をぶつけた場所から紫の光がはじけるように放出された。

その部分の皮膚も何かが抜けたような窪んだ後が残る。

「き、効いてるんだな!」

　離れた木陰に身を隠して様子を見守っていたセツメイが声を上げる。

「なら、もう一発……!　きゃっ!?」

　再び結界を繰り出そうとしたソラスだが、振り回された大トカゲの前足に

ぶつかって体勢を崩す。大トカゲはそこを前足で押さえつけるように踏み倒した。

「ぐっ!?　うう……!」

　相変わらずの丈夫さで潰されるような事は無かったが、押し返す事は出来ず、

身動きを封じられてしまう。

　ならばとその体制のまま結界を繰り出すが、肩を押さえつけられているので

体勢が整わず、上手く当てられない。

「くそっ!　退けっ!」

　タイノはなんとかソラスを踏みつけている大トカゲの足を掴み引き離そうと

するが大トカゲの巨体はびくともせず、もう片方の前足をタイノに叩きつける。

「ぐわあっ!?」

　吹き飛ばされたタイノはすぐさま起き上がるが、左腕に激痛が走る。

左腕の骨が折れていた。

「くっ…」

　タイノは苦痛に顔を歪めながら周囲を見る。

　ソラスは未だ大トカゲの足の下でもがいている。

他の隊員たちもソラスを助けようと駆け寄るがまるで歯が立たない。

もはや戦えるものはほとんど残っていなかった。

　残った右腕でバトルアクスを強く握りしめる。しかし、もはや攻撃が通る気はせず　タイノはその場で固まってしまう。

「もう、やめるですミーッ!!」

　吹き飛ばされていたうさみは体勢を立て直し、叫びながら丸再び大トカゲに、

今度は丸腰で走り寄って行く。

そしてソラスを踏みつけている前足に両手でしがみつく。

「うぐぐーっですミーッ!」

　うさみはついにその身体の本来のポテンシャルを発揮し、大トカゲの足を

持ち上げる。

大トカゲはもう片方の足をうさみに叩きつけるが、片足が持ち上げられているせいで上手くバランスが取れず、その威力はうさみが耐えられるほどに抑えられている。

「うさみ様!　ありがとうございます!」

　ソラスはトカゲの足元から抜けだし体制を立て直す。

　うさみはそのまま大トカゲを抑え続け、語り掛けた。

「お前がこんなになったのはうさみのお館様のせいなのですミ。

すなわち、それを止められなかったうさみのせいでもあるのですミ」

　一瞬、大トカゲの力が弱くなった気がした。

「ソラスさん!　うさみがこのまま押さえますミ!　……トドメを差して欲しい

ですミ!!」

「……わかりました!!」

ソラスはうさみの傍に寄り添い、両手を構える。

しかし大トカゲはうさみごと前足を振り上げ、ソラスを弾くと

　そのままうさみも地面に振り落とす。

「きゃっ!?」

「どわあですミッ!」

　そこからさらに、またも大トカゲの全身から紫の光が放出される。

　うさみとソラスは共にその光に飲まれ、吹き飛ばされる。

「聖女様ーっ!!!!」

　少し離れた場所に居たタイノや周辺の隊員たちもそれが起こす風圧で体制を崩す。

「うさみ様、大丈夫ですか!?」

「うう……なんとか、ですミ」

　ソラスはうさみに傍に寄り体を抱き起す。

　光が散ると、その向こうにはさらに一回り巨大化した大トカゲの姿があった。

大トカゲは顔を天に向け、咆哮する。

「そんな……」

　ソラスは弱々しく声を漏らす。

　先程の大きさでもやっとの事だった、加えてもはや戦える隊員もほとんど

残っていない。

　ソラスとタイノ、他の討伐隊たち全員に諦めの表情が滲む。

「うさみが………また押さえますミ」

　うさみは立ち上がり、前に進もうとする。

「で、でももう、これでは……」

ソラスはうさみの腕を掴みそれを止めようとするが、うさみはそれを振り払い

ゆっくりと大トカゲに近づいてゆく。

――だからと言って、このまま逃げ帰るのか……?

　大トカゲはその場で暴れるように前足と後ろ脚を振るう、

後ろ足が教会の壁に当たり、外壁が抉れるように崩れる。

――私にも、もっと力があれば……。いや……ある……何故なら、私は……！

　ソラスにの中で眠っていた記憶の扉の一部が開く。

するとソラスの身体は黄金の光を放ち出した。

「ソラスさんミ!?」

　うさみはソラスの方を振り向き、大トカゲはその光に目を眩ませる。

　そして木陰からそれを見ていたセツメイが大声を上げる。

「お、思い出したんだな!あの神殿に封印されていたと云われる聖剣の名前を!!」

　うさみは光に包まれたソラスを見つめ続ける。

ソラスはその中で、大きく姿を変貌させていた。

「せ、聖剣の名はクラウソラス、だったんだな!!」

　ソラスを包む光が、大きく、強くなっていく。

「クラウ……ソラスですミ……!?」

「そ、そうなんだな!　そして、この世界には、剣の一族と呼ばれる。

自らの身体を武器に変えられる、種族がいるんだな!!

それらは普段、僕ら人間と変わらない姿をしているんだな!!」

「つ、つまりあれですミ!?　うさみ知ってますミ!!

女の子が武器になるやつですミ!!」

　ソラスを包んでいた光が爆ぜる。

　そして、その中から現れたソラスはその姿を大きく変貌させていた。

「そう…そうだったんです!!　私こそが……伝説の聖剣……

いえ、聖剣女・クラウソラス!!!!」

　そこに神々しく立っていたのは、まさしく聖剣の名に相応しい、

豪奢な金の装飾が施された巨大な刃を頭から天に向かって伸ばした、

ソラスの姿であった。頭から刃が生えた所以外は、一切変わってない。

　両手を左右まっすぐにぴんと広げ、両足をびしっと揃え直立している。

その姿はまさしく巨大な聖剣であった。シルエットだけ見れば。

「思ってた奴と違いますミ!!」