聖剣女伝説_5

 変貌した大トカゲは一瞬身を屈めたかと思うと、近くにいた隊員数人に

まとめて体当たりをして吹き飛ばす。

 離れた所にいた隊員が弓を射るが皮膚が固くなっており、まるで矢が通らない。

そのまま大トカゲは身を翻し、大きく太くなった尻尾で矢を放った隊員たちを

なぎ倒すと入口の方を向いた。

「まずい! 外に出すな!!」

 タイノが叫び、バトルアクスを振りかぶりながら大トカゲに駆け寄るが

追いつけず、他の隊員も遮る様に槍を出すがそれを物ともせず突進してくる。

「私が止めます!」

 ソラスが入口を塞ぐように立ち、再び先ほどの光の結界を張るが、

大トカゲは怯むことなくそれに突撃し結界が破られる。

「きゃああっ!?」

 そのままソラスは突き飛ばされ、入口脇の壁に体を激しくぶつけて跳ね返り

地面に叩きつけられて、さらに小さく跳ねる。

「聖女様!」

「ソラスさんミ!」

 タイノとうさみが同時に叫び、うさみはソラスの元へ駆け寄る。

「大丈夫ですミ!?」

「あいたた……大丈夫です、それよりドラゴンは!?」

 ソラスは頭を押さえながら身体を起こす。

 ドラゴンは神殿の入口を抜け、外に飛び出していた。

タイノの方はそれを追い、外に出ていたが追いつけそうになかったので

入口に引き返し、隊員たちに指示を飛ばす。

「まずいぞ! 丘を下りて行った! すぐに待機中の部隊に合図を送れ!」

 大トカゲは岩肌を滑る様に、丘を下りていく。

「聖女様! 怪我は?」

 タイノは深刻そうな顔でソラスの様子を伺うが、ソラスはすくりと立ち上がると

スカートの砂を払う。

「問題なさそうです。なんか私、やたら丈夫なんですよね」

そう言って怪我の程度を確認するように腕や肩を回す。

うさみはソラスが叩きつけられた壁を見るが、抉れるように崩れている。

改めてソラスに目を戻すと服こそ擦れて汚れているが、体はほとんど無傷の様だ。

(あんな勢いで叩きつけられて無事だなんて、この人は一体何者なんですミ……?)

「私より、他の方は?」

 ソラスは怪我を治すつもりで周りに呼びかけたが、

幸い重傷の者はいないようで、タイノがそれを遮る。

「いえ、時間がありません、今は大トカゲを追う事を優先しましょう」

 タイノが隊員たちをまとめ支持すると、一同は大トカゲを追って丘を駆け下りる。


「いたぞ! 教会の方だ!!」

 麓が見えてくるとタイノが叫んだ。

 うさみ達が丘を下りた頃には既に待機していた部隊とふもとを探索していた部隊が合流して共に教会のすぐ前で大トカゲと交戦していた。

 しかし大半の団員が負傷し、かなりの苦戦を強いられている。

さらに大トカゲは教会の壁を使い、這い上がったりぶつかったりしながら

戦っている為、教会の壁には亀裂が入り窓には割れた個所もある。

「いけない、教会の中には子供たちが……!」

その様子を見たソラスが声を漏らす。

 マッコイ教会には引き取られた孤児たちが居り、中では神父が怯える子供たちを

宥めていた。

「一度ここから離すべきか……いや、それでは見失ってしまう可能性がある……

ここで一気に仕留める! 全員で囲め!」

 タイノは迷ったが、街の方に逃げられる事を危惧し、この場で決着をつけるべく

支持を飛ばしながら自身も大トカゲに向かって駆けて行く。

 タイノとソラスが加勢したことにより、戦況が変わり、討伐隊が優勢になる。

 教会の壁を背にし、大トカゲは少しずつ怯み、弱ってゆく。

 うさみはというと、その中に上手く入り込めず、一歩引いた場所で

カッツバルゲルを抱えたまま何もできず立ち尽くしていた。

「このまま……倒せそうですミ……」

 うさみは安堵と落胆が混じった表情で大トカゲを見つめる。

 その時、突如大トカゲの口から紫色の光が漏れだす。

「あの光は…さっきの!? 皆さん! 私の後ろに!」

 先程、大トカゲが変貌したときに発した魔力の光。

それに気付いたソラスが咄嗟に前に出る。

 傍にいた隊員たちはその呼びかけを聞きソラスの後ろに下がる。

直後、ソラスが結界を張るのと同時に大トカゲの口から紫の光が放射される。

「これは!? ブレス攻撃か!?」

 ソラスから離れた場所いたタイノはバトルアクスで体を覆うように構える。

大トカゲはそれを薙ぎ払うよう頭を横に振りに広範囲にそれを放射する。

 離れた場所に居たうさみはとっさに傍にあった大きな木の裏に回る。。

ソラスの張る結界に入れなかった隊員たちはそれに飲まれ吹き飛ばされていく。

「くっ……!」

 ソラスはまた結界が破られてしまわないよう、歯をくいしばって耐える。

 攻撃が止み、なんとか耐えきったタイノはバトルアクスを少し下げ、

周りを確認する。

「クソッ……なんて威力だ……」

 タイノが周りを見渡すと、吹き飛ばされた隊員があちこちに倒れている。

タイノ自身の負傷も相当なもので、立っているのがやっとだった。

「なっ!? そんな……バカな……!」

そして、大トカゲの姿を見たタイノは大きく目を見開く。

 先程までの攻撃で与えたはずの怪我が全て治っていた。

「た、体内に籠っている魔力のせい…なんだな」

 突然タイノの後ろの方からセツメイが声がした。

 はあはあと息を切らし、全身汗だくである。足の遅い彼は、周りに追い付けず

今やっとここまで辿りついていた。一応、参謀を一人にするわけには行かないと

他に隊員が一人付き添っている。

 ともあれ、結果的にそれが功を奏し今の攻撃から逃れられていた。

「セツメイ、どういう事だ?」

 タイノは軋む体を何とか動かし、横目でセツメイの方を見る。

「お、おそらく、何かしらの方法で体内に蓄積された巨大な魔力が内側から

肉体を強化、修復しているんだな。本体を攻撃しても、魔力がある限り

何度も強化、再生されてしまうんだな」

 セツメイは周りにも聞こえるよう、出来るだけ大きな声で説明する。

「何か策はあるか?」

「さ、坂の上から聖女様の結界がブレスを弾くところを見ていたんだな……

おそらく、あの結界を張る力を、直接ドラゴンにぶつける事が出来れば

魔力を吹き飛ばせるかもしれないんだな……!」

「聞こえましたか!? 聖女様!?」

 タイノはソラスに呼びかける。

「は、はい! なんとか、やってみます!」

 ソラスは負傷した隊員たちを庇うように前に出て、

結界でトカゲをけん制していた。

 うさみは木から身を出し、覚悟を決めた目で大トカゲを見つめる。

できれば殺したくはなかった。おそらく元は、平和に暮らしていたただの

トカゲなのだ。

 家畜を襲ったのだって自分が生きる為に食べたのだ。

 爆竹で脅かしたから、身を守るために反撃してきたのではないか。

やはり、あのトカゲもまた、黒魔女の興味本位でその姿を、生き方を変えられた。

「お前もまた、悲しき怪物クリーチャーなのですミ」

 うさみは大トカゲの目を見つめる。

 その表情は苦しそうに見えた。怯えているように見えた。

 ならばせめて、同じ悲しき怪物クリーチャーたる自分が引導を渡すべきだ。

 うさみはカッツバルゲルを掲げ大トカゲに向かって走り出す。

「ソラスさん! うさみが隙を作りますミーッ!!」

 うさみは叫び、大トカゲに斬りかかる。

「今こそ目覚めますミ! うさみの中に宿る眠れる秘められし潜在能力ーッ!!!!」

 うさみは己の体の内側から力がこみ上げてくるのをくるのを感じた気がした。

 今なら、己の身体のポテンシャルを完全に使いこなせるような気がした。

 これまでに見てきた、周りの人々の戦い方が頭を巡り、今この剣を振るうために、

どこに力を入れ、どう動けばいいか、全ての最適解が見えた気がした。

 気がしただけだった。

 うさみの剣より圧倒的に早く大トカゲのアッパーカットがうさみの顎に炸裂した。

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