聖剣女伝説_4

 神殿廃墟は丘の上の開けた場所にあった。

 入口から奥を見通すと、窓は割れ、壁や天井も所々崩れており、空いた穴から

いくつもの光が差し込んでいる。

 うさみ達は中に入り辺りを見回す。入口すぐの広間は所々小さな瓦礫が

散乱している程度でドラゴンが隠れられるような場所は無かったが、

奥にいくつか通路が続いていて、そちらはあまり外からの光が入らず薄暗い。

 何かが潜んでもおかしくない雰囲気であった。

「結構広そうですミ。手分けして探すんですミ?」

 うさみがタイノに問いかける。

「いや、まずは入口を固める」

 タイノは他の隊員にも聞こえるように言うと、セツメイが引き継ぐ。

「い、入口を固めた後、神殿内に爆竹を仕掛けるんだな、目撃情報や

周囲の被害状況から見るに、このドラゴンの知能はあまり高くなさそうなんだな、

驚かせれば出てくる可能性が高いんだな」

「爆竹ですミか…」

 うさみは少し苦い表情を浮かべた。

「聖女様とうさみさんも入口で待機していてくれ、ここに潜んでいるなら

外に出られる前に片を付けたい」

タイノはうさみとソラスにそう言った後、他の隊員たちにもそれぞれ指示を出す。

「念の為、この入口以外にもドラゴンが通れそうな穴が無いか調べよう。

突然ドラゴンが姿を現す可能性もあるからな、警戒は怠るな」

 タイノはそう言って、隊員数人を引き連れ神殿の内部を探索する。

それと並行して爆竹の入ったカバンを抱えた隊員達も神殿の奥へ入り

準備を進める。

 うさみとソラスは入口に残った隊員たちと共にしばらく待機する。

 その間、うさみは考えていた。もしそのドラゴンというのが黒魔女によって

変異させられたトカゲなら、向こうもまた被害者ではないか。

仮にここに隠れ住んでいるのだとしたら、爆竹で追い出され、討伐されるというのはあまりにも可哀そうである。

 とは言え、周辺に被害が出ている以上、放って置くわけにもいかない。

出来れば生け捕りにしたいと、うさみはポケットに入れてきた月星ボールを

確認した。

 少しして、準備を整えたタイノ達がうさみたちの所まで戻ってくる。

「よし、準備はいいな!」

 タイノが号令をかけると隊員たちが爆竹の導火線に一斉に火をつける。

 神殿奥の到る所から大きな炸裂音が聞こえてくる。振動が神殿を震わせ、

天井や壁からパラパラと砂ぼこりが降る。

 それから、大きく何かが崩れるような音がする。

「いたぞ!」

 隊員の一人が奥を指さす。

 壁の上の方に張り付きこちらに向かってくる大きな何か。

それが床に着地すると、壁の穴から漏れた光に照らされその全貌が露になる。

「あれが…ドラゴンか!?」

 それを見たタイノが声を上げる。

 全長が人の背丈の2倍を超える程のそれは、色は紫で、尻尾のあたりだけ

黒くなって、右目のあたりに傷がある。

 うさみは心のどこかで黒魔女のせいではない事を期待していた。

 しかし、見た目も黒魔女が言っていた特徴と一致する。

 うさみはこれまでに何度も黒魔女の実験で姿を変えられた生物は見てきており、

何より、自分もその一体なのである。

「あの子もまた、悲しき怪物クリーチャーでなのですミ……」

 間違いなく、あれは黒魔女により姿を変えられたトカゲだと、うさみは確信した。

「放て!」

 タイノの合図で弓を持っていた隊員たちが一斉に大トカゲに弓を放つ。

 数本が刺さり泣き声のような唸りを上げ、地面に降り立つと、

入口にいるうさみと聖女の方に向かって突進してくる。

「うわ! こっち来ますミ!」

 うさみは慌てて腰のカッツバルゲルを抜くが、剣など使ったことが無いので

どう振ったものか迷いそのまま体の前で構えたまま固まってしまう。

「うさみ様! 下がって!」

 ソラスが一歩出て両手を前に差し出すと、その前面に金色の

光るタイルのようなものが広がる。

 突進してきた大トカゲはそれを見て咄嗟に身を翻そうとするが

勢いのままぶつかり、体制を崩す。

「今だ!」

 タイノの掛け声と共に槍を持っていた隊員たちがそこを一斉に突く。

 しかし大トカゲは素早く体をくねらせそれを避けて行き、いくつかの槍の先端で

体を斬られるが、貫かれる事は無かった。

 そのまま大きく回る様に動き尻尾を振って隊員たちを薙ぎ払い、仰け反った隊員の一人に飛び掛かり牙を剥く。

そこにタイノが駆け寄り、大トカゲの頭部にバトルアクスで一撃を放つ。

 大トカゲはそのまま隊員の上にぐったりと伏した。

「仕留めたか? 思ったより、あっけなかったな」

 タイノはそう言いながら、大トカゲの下敷きになっていた隊員に手を貸し

引っ張り出す。

「……何もできませんでしたミ」

 うさみはカッツバルゲルを持った腕をゆっくりと下ろす。

 大トカゲの頭部には大きな傷跡が出来ており、そのまま動かない。

 そこにセツメイがメガネを摘まみながら恐る恐る近寄り、

大トカゲに顔を寄せると、すぐさま後ろに身を引いた。

「ま、まだ、息があるんだな……!」

「なに? ならばトドメを」

 タイノがそう言ってバトルアクスを構える。

「ま、待って欲しいですミ」

 そこで月星ボトルの事を思い出したうさみが咄嗟に制する。

「お館様の作った魔法のアイテムがありますミ。まだ息があるなら、

これで封印できるはずですミ」

 そう言ってポケットから月星ボールを取り出す。

「ほ、ほう。こんなものでこんな大きなドラゴンを封印できるんだな?

これは興味深いんだな……」

 セツメイはボールをまじまじと眺める。

「じゃあ、やりますミ」

 うさみはそれを大トカゲに放るがバチっとした光を放ち、弾かれて砕けた。

「うわっ!? なんでですミ?」

 うさみの足元に砕けたボールが散らばりセツメイが屈み込んでそれを凝視する。

「今のは魔力と魔力がぶつかった時に起こる反応なんだな……。そのボールに宿っていた魔力が、そのドラゴンの魔力に弾かれたとすると……つまり、そのドラゴンは

未だ強力な魔力を帯びているって事……早くトドメを刺した方が良いんだな!」

「何だと!?」

 セツメイの話を聞いたタイノはすぐに突っ伏したままの大トカゲの頭に渾身の力でバトルアクスを振り下ろす。

「ぐっ!?」

 バトルアクスは頭に触れた所で寸止めしたかのように動かなくなる。

何か見えない力で押し返されていた。

「は、離れるんだな!!」

 セツメイが叫ぶ。

 直後大トカゲの頭の大きな傷口と、槍で突かれた際に出来た小さい傷口から

紫の光がガスの様に噴射され、大トカゲの全身を包んで行った。

 大トカゲを囲んでいた全員が、警戒して距離を取る。

「何が起こった…?」

 紫の光に包まれた大トカゲを睨みながらタイノが言う。

 光の奥で、大トカゲの傷がみるみる塞がっていく。さらにムクムクと全身がさらに

巨大化し、人の背丈の3倍ほどになると大トカゲは上半身を起こして立ち上がった。

 皮膚の表面がゴツゴツと変貌し牙や爪が長く、鋭くなり頭からは角が生える。

やがて紫の光が散った後、そこに佇んでいるそ大トカゲにもはや先程までのトカゲの面影は無く、まさしくドラゴンのような姿に変貌していた。

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