聖剣女伝説_2

 翌朝、うさみはソラスに言われた通りの時間に、教会へ向った。

 さすがに丸腰で行くわけには行かないと思い、館の中に何か武器に

なりそうなものが無いか探したら、ケンが少し前に町内会のゲートボール大会で

貰った賞品のカッツバルゲルがあったのでそれを借りた。

 付属品の茶色い革製のソードベルトを腰に巻き、そこに剣を差す。

あと、もしかしたら巨大カマキリの時の様に捕獲できるかもしれないと、

黒魔女の作った月星ムーンスターボールの残りをひとつ持ってきていた。


 教会は街の外れの丘の麓にある、木々に囲まれた自然豊かな場所にあった。

周辺には農場や畑が点々としていて、住宅は少ない。

 教会の入口が見えるところまで来ると。既に数十人程の男たちが集まっていた。

王城から派遣された討伐部隊である。

 その中には聖女ソラスの姿もあり、うさみを見つけると手を振ってきた。


「こちらが、黒魔女様がお作りになられたという人造人間の、うさみ様です」

 うさみがソラスの元までたどり着くと、ソラスは討伐隊にうさみを紹介する。

 周りからは小さく感嘆の声があがった。

 品行はともかく、黒魔女の魔法使いとしての力は街でも周知されており、

その黒魔女の作った人造人間であると、あらかじめソラスが討伐隊の面々に

伝えており、うさみは過大評価されていた。

(なんか……過大評価されてる気がしますミ……)

 うさみは周りの視線に気後れしつつ挨拶する。

「えっと、はじめましてですミ」

 すると周りから拍手まで起こってしまい、うさみが一層戸惑っていると

ひと際大柄な男が歩み寄ってくる。

「成程、あなたがあの噂に名高い黒魔女様が作られたという

人造人間うさみさんですか、これは大変心強い。

私はこの隊を指揮する、タイノ・オーサと申します。今日ははどうぞよろしく」

 そう言ってタイノは握手を求め右手を差し出す。

 年は30代半ば程で、明るい茶髪を角刈りにしていた。

顎が大きく、どっしりとした印象を受ける顔をし、

筋骨隆々で肩幅も広く、見事な逆三角形ボディをしている。

他の隊員は機動性を重視してか、軽そうな皮鎧を身に着けていたが、

彼だけはごつごつした銀色の甲冑を着こんでいた。

「あ、どうも、よろしくですミ」

 うさみはその大きな手を取り、握手を交わしていると、

タイノの後ろに妙な気配を感じた。

「ほ、ほう、人造人間、はじめて見るんだな……」

 タイノの後ろから小柄な男がねっとりとした独特の声を発しながら現れる。

 他の隊員とは違い、鎧甲冑の類は身に着けておらず、緑色の軍服のような上着に

丈の長い灰色のローブを纏っており、裾が地面に付き引きずってしまっている。

 耳くらいまでの長さの前髪を真ん中で分けていてその髪色は老人のような

灰色だったが肌艶から、まだ若者であるという事がわかる。

 奥の見えないグルグルメガネをかけ、口元はげっ歯類のような2本の上前歯が

飛び出していた。そして、大事そうに辞書のような分厚い本を抱えていた。

 その男はメガネの端を摘まみながら、じろじろとうさみに顔を寄せ、

回り込みながら凝視している。

 うさみは男の奇妙さに少し身を引く。

「おい、失礼だろう」

 見かねたタイノがそう言って男の肩を掴んで引き寄せてうさみの方を向かせる。

「この男はこの部隊の参謀を務めている山田セツメイ。戦闘に関しては

からっきしだが博識で、頭も回る。今回の討伐対象のドラゴンが新種ではないかと

いうのも、こいつの提言だ。ただ、悪い奴ではないんだがちょっと変わっていてな」

と、少し困ったような顔をした。

「ど、どうも、なんだな」

 セツメイは右手で眼鏡をつまみながらそう言った。

タイノは気を取り直すように手を鳴らすと、全員に聞こえるよう声をを張る。

「では、全員集まったな? そろそろ出発するぞ」

隊員たちはタイノの元に集まり、整列するとあらかじめ決めていた部隊に分かれ、

一同はドラゴン(仮)討伐の作戦に赴いた。

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