昆虫大戦争_5

 うさみとカマーは巨大カマキリから離れ、自警団たちは

カマキリへ向かって行くが次々と弾き飛ばされ、まるで歯が立たない。

「お館様! 何とかしろですミ!」

 うさみはカマーを近くの丈夫そうな壁に寄りかからせて座らせると、

黒魔女に呼びかける。

「うーむ、困りましたねえ」

 黒魔女は指で頬を掻きながら全然困ってなさそうな顔で言う。

「さっきの感じだと、力ずくで取り押さえるのは無理っぽいですし、

かといって殺しちゃうわけにも行きませんしねえ」

「もうそんな事言ってる場合じゃないですミ……! これ以上街の被害を

大きくするわけには行きませんミ! 他に方法が無いなら……止むを

得ませんミ……!」

「でもちょっと可愛そう。人間の都合で振り回されたあげく、

人間の都合で殺されちゃうなんて」

ヘル子が口を挟み、しんみりと言った。

「そうですねえ。己の都合で他者の生き死にを決めるなど、あなたも案外残酷な事を

言うのですねえ。うさみ」

「お前にだけは言われたくないのですミが!?」

「ねえ、うさみちゃんのおばさん」

 ヘル子が黒魔女に問いかける。

「なんです?」

 黒魔女はおばさんというワードに一瞬眉をピクリと動かすが、物腰はいつも通り

穏やかさを保っている。

「カマキリさんを捕まえる魔法はないの?」

 その言葉で黒魔女は、ああと声をあげる。

「そういえば、ちょっと前に作ったものがありましたねえ」

「そんなのあるなら最初から……! いや、お館様の作ったものですミ……

またなんか危険な物じゃないでしょうミね……?」

 うさみは怪訝な表情をする。

「いえいえ、極めて平和的なアイテムですよ」

 そう言って黒魔女はワンピースに備え付けられている異次元ポケットを通して

黒魔女亭にあるアイテムを転送する。

「これです」

 黒魔女がいくつか取り出したのはボールのような、

手のひら大の丸いカプセルだった。

「何ですミ? これ」

「これはモンスター等に向かって投げつける事で対象をカプセルの中に

封印することができる魔法のアイテム。名付けて、月星ムーンスターボールです!」

「過去イチ危険な代物じゃねーかですミ!!」

「あっ大変だよー!」

 うさみたちに割って入りヘル子が巨大カマキリの方を指さすと、

巨大カマキリの傍の建物が大きく崩壊した。

「のんびりしてる場合じゃなかったですミ! やむを得ないのでこれ使いますミ!」

 うさみは黒魔女が持っていた月星ムーンスターボールを全てふんだくると、

巨大カマキリに駆け寄り、そのひとつを投げつける。

しかしぺしっと体に当たっただけで何も起きなかった。

「捕まえられませんミ! 失敗作ですミ!?」

 うさみの後ろから黒魔女が声をかける。

「あ~それ、そのまま投げても捕まえられる確率が低いんですよ。

弱らせたり、状態異常にすると確率が上がるんですが」

「これ以上危険な方に仕様を寄せるなですミ!!」

 黒魔女は暴れる巨大カマキリを見つめながら腕を組む。

「しかし、あれを弱らせるというのも難しいですねえ。

一気に殺すだけなら造作もないのですが、さっき捕まえようとした時の感じですと、

半端にダメージだけ与えるってのはちょっと加減が難しそうですねえ」

 黒魔女は魔法に対する興味と能力は尋常ならざるものがあり、

いわゆる攻撃魔法と呼ばれるものも、少なからず習得はしていた、

だが魔法を使わずに出来る事に魔法を使うのは不毛だというのが兼ねてからの

持論であり、武器道具を用いれば事足りる"戦闘"という行為にはまるで

興味が無かった。故に、脅威と相対した場合の引き出しは、

殺すか逃げるかに特化しておりこのレベルの相手を生かさず殺さずにする

というのは、なかなか難儀なのであった。

「くっ、本当に肝心な時に使えねー野郎ですミ……。

何か他にダメージを与える方法は無いのですミ……?」

 自警団と戦っている巨大カマキリはまるで弱った様子はない。

 巨大カマキリは興奮しており、町の被害はさらに増えて行く。

 うさみは何かないかとあたりを見回すと、ヘル子の持っていた

虫かごが目に入った。

「そうですミ!」

 うさみは目を輝かせヘル子に近寄る。

「どうしたの、うさみちゃん」

「ヘル子ちゃん、このカブトムシさんを貸して欲しいですミ!

お館様、虫を巨大化させる魔法なら使えるんですミよね? だったら

このカブトムシさんを巨大化させて戦わせますミ! 昆虫対昆虫なら実力は

拮抗するはずですミ! そして双方弱ったところを、月星ムーンスターボールで捕まえますミ!」

 黒魔女はうさみたちに近寄り、虫かごをのぞき込む。

「ほほう、なるほど、まあ面白そうではありますね」

「ヘル子ちゃん、良いですミ?」

「う~ん」

 ヘル子は虫かごを眺め、少し迷う。

「街を救うためなのですミ!」

 うさみはヘル子に顔を寄せ、真剣な眼差しでその瞳を見つめる。

「……うん、わかった! いいよー」

 ヘル子はそう言って虫かごを差し出す。

「ありがとですミ! ヘル子ちゃんとこのカブトムシが、この街を救うのですミ!」

「では、ちょっと拝借」

 そう言って黒魔女は虫かごを開きカブトムシを取り出し、地面にそっと置くと

両手をかざし魔法をかける。そして髪の毛でカブトムシを持ち上げると、

巨大カマキリの方まで髪を伸ばしてそっと放った。

カブトムシの体が魔力の光で包まれムクムクと巨大化する。

やがて巨大カマキリと同じ程までなると巨大化は収まる。

 そして二匹はお互いに相手の方を向きゆっくりと

正面に向かい合い、しばしにらみ合う。

うさみとヘル子も息を呑んでそれを見上げる。

そして巨大カマキリと巨大カブトムシが共に動き出すそぶりを見せた。

 うさみが片手を強く握り、天高く掲げる。

「昆虫……大・戦・争ですミーーッ……!!!!」

 しかし次の瞬間2匹はお互いぷいっとそっぽを向いて別々に建物を破壊しだす。

 被害地域が拡大した。

「アアアアァァァーーーッッッ!? なんて事ですミーッ!?

うさみのバカーッですミーッ!! なんで上手く戦ってくれると思いましたミーッ!? 

これじゃあ、お館様と同類ですミーーッ!!! いや今のはさすがに言い過ぎました

ミーーーッ!!!!」

「自分で言うんじゃありませんよ」

 黒魔女はその場に崩れ落ちたうさみを見下ろして窘める。

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