昆虫大戦争_4

「やめるんです! ジョセフィーヌちゃん! わたくしはここです!

もう怯える必要はないのですよ!!」

 商店街の方で逃げ惑う人々をかき分けカマーが巨大カマキリに呼びかける。

しかし巨大カマキリはまるで気にせず商店街を破壊し続けていた。

「あらまあ、大変なことになってますねえ」

 箒で空からやってきた黒魔女はまるで他人事の様に呟きながら、

巨大カマキリに近づきその巨体を観察するように周囲を旋回する。

 ギョロリと、巨大カマキリの目が空を飛ぶ黒魔女の姿を捕らえた。

エサと認識し、目にもとまらぬ速さで巨大な鎌を振り上げる。

「おっと!」

 想像より早い速度に、珍しく慌てる様子を見せながらも

箒に乗ったままひらりと躱す。

 巨大カマキリは続けてぶんぶんと両手の鎌を振り、黒魔女を狙い続ける。

黒魔女はそれを紙一重で躱し続けるが、このままでは分が悪いと考え、

一旦距離を取ろうと高度を上げるが、巨大カマキリは大きく跳躍しそれを追う。

 そして一撃が箒の端を捕らえた。

「おお!?」

 巨大カマキリの鎌が箒の端を捕らえ、弾かれた箒は黒魔女事ごと空中で

ぐるりと大きく回転する。

「ああっ危ない!」

 うさみと共に近くまで駆けつけていたヘル子がそれを見て声を上げる。

 ブンっと黒魔女に向けて鎌が振られるが、黒魔女は箒を蹴り飛ばすようにして

離れ、なんとか躱す。

鎌を受けた箒は真ん中からぼきりと2つに割れて散った。

黒魔女はそのまま空中で身を翻すと髪を伸ばし、巨大カマキリの全身を縛る。

そのまま動きを封じようとするが、

「あ、あら?」

 想像を遥かに超えた巨大カマキリの力に逆に引っ張られてしまう。

黒魔女は体制を立て直し引っ張り返そうとするが、鎌に絡んでいた髪が引きちぎられ、大きくバランスを崩した。勢いで引き寄せられ、無防備になった黒魔女の体を

巨大カマキリの巨大な鎌が貫いた。

「ごふぁあっ!?」

ティウンティウンティウンウンウン…

 黒魔女は血を吐いてまた死んだ。

「しゃあっ! ざまぁですミ!」

「うさみちゃん!? リアクション違わない!?」

「おっと、つい感情を抑えきれませんでしたミ」

 うさみはグッと握って掲げていた拳を下ろす。

 すぐさま残機を消費して復活した黒魔女が上空から降ってくる。

「いやはや、まさかここまでの力を持っているとは、油断しました」

 さすがに警戒して、巨大カマキリから距離を取って着地する。

「いたぞ! こっちだ!!」

 するとやや離れた場所から何人もの声が近づいてきた。

うさみたちは声がした方を見ると、商店街の向かいの道の方から

ぞろぞろと長槍を持った大人たちがやってきた。

この町の自警団である。

 巨大なカマキリの姿と商店街の惨状に驚きつつも、

自警団たちは一斉に巨大カマキリに槍を向ける。

「待って! 待ってください!」

 カマーがその間に割って入り、巨大カマキリを背にして、庇うように両手を広げて立ち塞がる。

「あの人何やってますミ!?」

 うさみたちは自警団の後ろからその様子を見る。

「離れろ! 危ないぞ!」

 自警団たちはカマーに逃げるよう促すが、

カマーは手を前に掲げ自警団たちを制す。

「大丈夫、大丈夫です! このジョセフィーヌちゃんは私のペットなのです。

本来は、とても優しい子のはずです。きっと今はただ、怯えて暴れているだけなんです!」

そう言った後、巨大カマキリの方に向き直り語り掛ける。

「怖かったでしょう、寂しかったでしょう、ジョセフィーヌちゃん。

ですが、わたくしが来ました。もう心配はいらないのですよ」

 そういってカマーは巨大カマキリを迎え入れるように両手を掲げる。

するとカマキリは腰を下ろすような体制になり、

カマーのを見つめるように傍まで顔を近づけると、動きを止めた。

「おお、おお! わかってくれましたか、ジョセフィーヌちゃん!」

 カマーは揚々とまた自警団の方を向き直ると得意げに胸を張る。

「ほら! ちゃんとわかってくれました! 皆さん、もう安心です」

 カマーの背後で巨大カマキリがゆっくりと大鎌を掲げる。

「大変、お騒がせ致しました。こちらの被害は全てわたくし、キリスキー家が」

 カマキリの鎌が大きく薙ぎ払われる。

 斬り飛ばされたカマーの頭部が弧を描くように宙を舞う……ところだったが、

ギリギリ直前でうさみがカマーに飛び蹴りをかまして押し倒し、大鎌は空を斬った。

「ばかーっですミーッ! テンプレみたいな死に方すんなですミーッ!!」

 カマーを抱き起しながらうさみが叫ぶ。

 巨大カマキリは続けてカマーを狙い鎌を振り下ろそうとするが、

 うさみはカマーを引きずって離れ、入れ違いに自警団たちがカマキリに向かって

立ち塞がる。

 カマーは体を起こし、狼狽した顔で巨大カマキリを見る。

「そ、そんな……ジョセフィーヌちゃんが私を殺そうとするなんて……。

こんなにも愛し、大切にしていたのに……」

「虫は人には懐きませんミよ。うさみも元うさぎだからわかるのですミ。

人間とは、見ている世界が違うのですミ」

「……」

 うさみの言葉に、カマーはただ黙って俯く。

 うさみはカマーを抱えて巨大カマキリから離れた。

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