昆虫大戦争_3

話は冒頭のうさみとヘル子が巨大カマキリに遭遇した所まで戻る。


「うさみちゃん、これ2人で捕まえられるかなー!?」

「なに言ってますミ!? ヘル子ちゃん!?

昆虫は自分の体重の何倍もの重さの物を持ち上げる力を持ち、

自分の大きさの何倍もの距離を飛び上がったり、すごい速さで移動しますミ!

こんな大きさになったら人類などでは到底敵いませんミ!!」

 うさみは先程のヘル子の話を丸々パクって諭した。

「とりあえず逃げますミ!」

 うさみはヘル子の手を掴んで走ろうとするが、

「え? だめだよー!」

と、うさみの手を引っ張り返し止める。

「カマキリって動くものをエサだと思うから、

急に動いたらきっと危ないよ?」

「なんとですミ……! ヘル子ちゃんは昆虫博士ですミ……!?」

 うさみは足を止め2人はその場に留まって息を詰めて様子を伺った。

 巨大カマキリはしばらくギョロギョロと2人を見入るが、

ふっ、と2人に興味をなくしたように顔を背けるとぶわりと羽を広げ飛び去る。

「うわあっ?」

「ヘル子ちゃん!大丈夫ですミ!?」

 飛び去った際に生まれた風圧で尻もちをついたヘル子に

うさみが手を差し伸べる。

「うん、大丈夫」

 言いながら虫かごのカブトムシの様子を見る。

自分よりこちらを心配しているようだった。

 幸い、中のカブトムシに変わった様子はない。

すると街の方から悲鳴が上がるのが聞こえてくる。

「まずいですミ、街の方に行ったみたいですミ……」

 2人は様子を見に街の方に走っていく。だんだんと喧騒や悲鳴が大きくなる。

「商店街の方ですミ!」

 路地を曲がったところでうさみが巨大カマキリを見つけ指さす。

「うわあ、大変だよー」

 カマキリは商店街の建物を破壊し、人々は逃げまどっていた。

「どうしよー!? うさみちゃん。あ、そうだ! うさみちゃんのおばさんに

何とかして貰えないかな?」

 うさみちゃんのおばさんとは、黒魔女の事である。

ヘル子はうさみと黒魔女の関係をよく解っておらず、勝手に親子のようなものだと

認識していた。

「お館様ですミ……?」

 うさみは考える。黒魔女は単純な善意で世のため人の為に動く事はまずない。

館に戻って街を救ってくれと言っても応じてくれる可能性はかなり低い。

しかし、世にも珍しい巨大カマキリが出現したとなれば研究のために

捕まえてくれるかもしれない……いや、研究……? そこまで考えて、

猛烈に嫌な予感に襲われた。

「おお、いましたいました」

 丁度そのタイミングでうさみたちの後方上空から黒魔女の声がし、

うさみの嫌な予感は確信へと変わる。

「お、おお、なんと巨大な! だがあの顔立ちは間違いない、

わたくしの、ジョセイフィーヌちゃん!!」

 うさみが声の方を見上げると、黒魔女が箒に横向きに乗って空を飛んでいた。

 箒の後方には、落ちないよう黒魔女の髪に支えられてカマーも乗っている。

「あら、うさみ。こんなところで奇遇ですね」

 黒魔女は箒の高度を下げ、うさみたちに近づく。

「やっぱりお前の仕業でしたかミ!!!!」

 うさみは黒魔女を見上げて指を差し怒鳴る。

「ああ、あれの事ですか?」

 黒魔女は巨大カマキリの方を見て言う。

「こちらの方のご依頼でね、虫かごから脱走して行方不明になっていた

あのジョセフィーヌちゃんを見つけるために遠隔で巨大化の魔法を使ったのですよ。上手く行ったようですね」

 黒魔女は満足そうに頷きながら地上に降り立ち、カマーも降ろすと彼に絡めた

髪を解く。

「どうも、わたくし貴族のカマー・キリスキー3世です」

 地上に降り立ったカマーはうさみとヘル子に丁寧に挨拶する。

「はじめましてですミ。うさみはお館様に作られた人造人間、

すなわち悲しき怪物クリーチャーですミ」

「こんにちは! 地獄谷ヘル子です! 小学3年生です!」

「これはこれは、ご丁寧に」

 うさみとヘル子も律儀に挨拶をするとカマーもまた丁寧に応える。

「って、呑気に挨拶なんかしてる場合じゃなかったですミ! あのカマキリを

とっとと止めますミ!!」

 うさみは商店街を破壊しているカマキリを指さしてキレる。

「おお、これは大変だ、きっとわたくしと離れて寂しさに震えているんでしょう! 

ジョセフィーヌちゃ~ん、今行きますよお~!!」

 うさみは黒魔女に言ったつもりだったのだが、カマーの方が反応し、

そう叫びながらカマキリの方へ走っていった。

黒魔女はそれを見送りながら再び浮かせた箒に座る。

「感動の再会ですね」

「違うだろうがミ!!」

 うさみは箒で飛び去ろうとする黒魔女の腕を掴んで止める。

「商店街を見ますミ! あんな化け物をそのままにしておく気ですミ!?

ちゃんとカマキリを元のサイズに戻しますミ!!」

 うさみの言葉に黒魔女は首を横に振る。

「それは、出来ません」

「は!? 何でですミ!? お館様が大きくしたですミよね!?」

 黒魔女はフッと小さくため息をつき、

「大きく出来たからと言って、小さく出来るとは限りませんよ、うさみ。

虫を大きくする魔法は完成しましたが、小さくする魔法はまだないのです」

と、何故か少し得意げな顔で言った。

「なんでそんな半端な魔法使いましたミ!? だったらせめてちゃんと捕まえて、

檻かなんかに入れてカマーさんの家まで戻しますミ! おうちに帰るまでが

依頼ですミ!!」

「ふーむ。まあ確かに、それはそうでしょうねえ」

 珍しくうさみの提言が功を奏し、黒魔女はカマキリの元に箒で飛び立つ。

「ヘル子ちゃんは離れて安全な所で隠れてますミ」

 うさみはヘル子にそう言って黒魔女を追おうとするが、「えーやだー! 

わたしも行くー!」と、ヘル子がついて来てしまう。

「ダメですミ! 危ないですミ! ヘル子ちゃんは安全なところで待ってますミ!」

「えーなんでー? うさみちゃんだけずーるーいー!」

 ヘル子が強引について来ようとするのでうさみは黒魔女を追うか迷った。

 だがあの黒魔女の事である、このまま任せてきちんと事件を解決してくれるか

大いに不安だったので、やむなくヘル子を連れて黒魔女の元に向かった。

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