昆虫大戦争_2

「ほほう、なるほど虫探しと来ましたか」

 カマーの言葉に黒魔女は少し興味が戻ったようで、姿勢を戻す。

「先日、ジョセフィーヌちゃんを虫かごから他の容器に移そうとした際、

飛び出してしまい、よりにもよって近くの窓が開いていたため、

そのまま外に行ってしまったのです。慌てて家人を呼び、

共に窓の外を探し周りましたが見つからず、それから数日にわたり、

付近を散策しました、カマキリ自体は複数見つかったのですが……」

「なるほど、この辺りでカマキリは珍しくないですからねえ。

野生のものと混ざってしまったら見分けはつかないでしょうねえ」

 カマーは黒魔女の言葉を遮る様に片手を差し出し、首を横に振る。

「いえ、そんな事はないのです。私はジョセフィーヌちゃんを

卵が孵る頃から育て、その微細な顔の違いや体つき、触覚や手足の長さも

事細かに覚えております。ほかのカマキリとは見間違えようがない」

「ほう、それは大したものです」

 黒魔女は感心した顔を見せてソファーに深く座り直す。

「それで、見つけてきたカマキリを一匹ずつ確認したのですが

その中にジョセフィーヌちゃんはいませんでした。おそらく、

このやり方ではどんなに人と時間があっても、たどり着くまでには

果てしない時間がかかるでしょう。ですが黒魔女様ほどのお力があれば

もしやと思い、こうして今日、お伺い致しました。お金に糸目は付けません。

どうか、ジョセフィーヌちゃんを見つけ出して、わたくしの元に

連れ戻しては頂けないでしょうか!?」

 カマーは身を乗り出し、懇願するように黒魔女の真っ赤な瞳を見つめる。

「わかりました。やってみましょう」

 黒魔女がそう答えると、カマーは顔をパッと輝かせた。

「お、おお! ありがとうございます! さすがは黒魔女様だ!!」

「で、方法についてですけど、そのジョセフィーヌちゃんの体の一部があれば

手っ取り早いんですが、虫かごの中にもげた触覚や足なんかが

残っていたりはしませんか?」

 それを聞いたカマーは少しゾッとしたような顔をする。

「い、いえ、そのようなものは…虫かごの中はジョセフィーヌちゃんが

怪我をしないよう、きちんと整理していましたので…」

「で、あれば、まあ虫かごの中に細かい細胞片でも残っていればいいのですが、

ああいや、そういえばカマキリって脱皮するんでしたっけ?

その抜け殻が残っていたりはしませんかね」

「おお、それなら全て残してあります!」

 カマーは膝を叩き、少し腰を浮かす。

「では、お手数ですがそれをお持ち頂いてもよろしいですかね」

「は、はい、今すぐに!」

 そう言って急ぎ、カマーは一度カマキリの抜け殻を取りに帰ると、

程なくして、カマーが再び黒魔女亭に戻ってきた。

「こちらがジョセフィーヌちゃんの抜け殻です」

 カマーは半透明のケースに入ったカマキリの抜け殻を黒魔女に手渡す。

 一刻も早くと慌てたのかカマーの髪や服は少し乱れ、息も少し切れていた。

「ご苦労様です。では、お預かりしますよ」

 黒魔女はそれを受け取ると地下に向かおうとするが

それをカマーは呼び止めて聞いた。

「あの、それで一体どのような方法を取られるのか、

お伺いしても?」

「この抜け殻を通して、本体へ魔法を施します。

髪の毛を藁人形に入れて呪いをかける手法はご存じです?

まあれの応用ですね。もちろんかけるのは呪いではなく魔法ですが」

「ははあ、なるほど…そんな事が出来るとは」

 カマーはカールした口ひげを指でつまんで弾く。

「では、少々お待ち下さい。施法自体は、すぐに終わりますので」

「はい、ではどうか、よろしくお願い致します」

 カールは部屋を出ていく黒魔女を見送り、しばし客室で待つと

程なくしてに黒魔女は戻ってきた。

「黒魔女様…!どうなりましたか?」

「うまく行ったはずです。では、外に出ましょうか」

「は、はい、わかりました。それで、一体どのような魔法を使われたのですか?」

 話しながら一緒に廊下に出ると、黒魔女は用具入れから大きめの箒を取り出した。

「抜け殻を介して、体が大きくなる魔法を使いました。

人の数倍くらいの大きさになっているはずですので、箒で飛んで空から探せば

すぐ見につかるでしょう」

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